表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンキラーと呼ばれた女/プルムの恋と大冒険  作者: 守 秀斗
第九章 うら若きはもう無理の二十四歳呆然とする乙女/クトルフ教団編
68/83

第六十六話:シム・ジョーンズの教団

 翌日の昼頃、シム・ジョーンズの教団がある施設の川辺に到着。

 小汚い船着き場に船を停める。


「やあやあ、こんにちは、HPL通信社のみなさんですね」と暑苦しい顔したおっさんが待っていた。

 シム・ジョーンズ本人だ。

 白いTシャツに半ズボン、足元はサンダル。

 パンチパーマで出腹。

 Tシャツには例の蛸に似たマークがデザインされている。

 無職のおっさんみたいだな。


 もう一気に逮捕しちゃえと思ったが、その周りに二十人くらいボディーガードのような信者がいるので、ちょっと無理か。

 しかし、このボディーガードも全員、シム・ジョーンズと同じシャツと半ズボンにサンダル。

 武器は持っていないようだ。

 情報は本当だったみたい。

 ただ、動きが鈍いな。

 みんな目が死んでいる。


 ディーノ少尉にこっそりと聞く。

「私たちは武器を持って行かないんですか」

「かえって、連中を刺激するかもしれないから、手ぶらだ」

 なかなか、勇敢な人だな、ディーノ少尉。

 あたしは袖にナイフを隠してあるけど。


 ジャンルイジ軍曹とマルコ二等兵は船に残ってもらい、あたしたち四人は、教団内を案内される。

 信者の皆さんも全員同じ恰好。

 蛸マークの付いた白いTシャツに半ズボンとサンダル。

 皆さん、ニコニコしているが、目が死んでいるし、痩せている。

 冴えない中年男性ばっかりだ。

 栄養状態が良くない感じがする。


 歩きながら、ディーノ少尉がシム・ジョーンズに聞いている。

「どうやって、生活されているんですか」

「農業やって自給自足です」

「この辺りは熱帯に近く、農業にはあまり向いてないんじゃないですか」

「まあ、そうなんですけど、なんとかやってます」

 こういう暑苦しいとこだと農業も向かないのかね。

 よく知らんけど。


 教団内をいろいろと案内されるが、みんな同じ恰好。

 何だか不気味だなあ。

 しかし、やはり武器は持っていない。

 ノロノロと農作業をやっている。


 大きい屋根のついたデカい建物があった。

「ここで、皆で寝ています」とシム・ジョーンズが説明する。


 建物と言っても屋根はヤシの葉っぱ。

 吹きっさらしだ。

 汚い布がひいてあるだけ。


「シム・ジョーンズさんもここで寝ているんですか」

「あ、いやあ、私はいびきが大きいので、向こうの家で寝ています」とシム・ジョーンズが指さすと、少し離れた場所に小さい家があった。

 そこにも案内してくれる。


 こじんまりとした平屋建ての家だ。

 おかしなところはない。

 変な教団のポスターが貼ってある以外は。


「私が信者をこき使って、豪勢な生活をしていると悪口を言っている人もいるみたいですが、どうですか、質素な生活でしょう」

 うーむ、確かに、掘っ立て小屋みたいなもんだな。

 ただ、集団自殺を狙っているとしたら、むしろ危険だとあたしは思った。


 教団の集会場に通された。

 集会場と言っても、大きくて広い平らな土地に机と椅子があるだけ。

 そこで、インタビューをすることになった。

 やたら、にこやかなシム・ジョーンズ。

 信者たちが大勢取り囲んでいるので、逮捕は出来ない。


 とりあえず、ディーノ少尉がジャーナリストと名乗りインタビューに入る。

「まず、なんでこの場所に移ったんですか。元々、教団はメスト市にあったようですが」

「首都では静かな宗教生活が出来ないので、こちらに移ったんです」

「この異世界転生教団は、死んだ後、ハーレム生活を送れると聞きましたが」

「ハーレムと言っても、愛のある生活ですよ。全てを平等に愛する平和な生活を送れるわけです」

「お布施が多いほど、ハーレム人数が増えるからと、そのため全財産お布施したような人もいるようですが。全財産とはひどいんじゃないですか」

「私は聞いていませんね。ただ、もし居たとしても、ここで幸福に暮らせるならいいじゃないですか」


「失礼ですが、集団自殺の噂があるようですが」

「そんな事はしません。寿命がつきるまで、ただ静かに死を待つだけです」

「ほとんど眠らせないで、農作業をやらされたと脱走者の証言がありますが」

「そんなことはしてません。この施設には囲いも全くないじゃないですか。見張りとかもいません。出入りは自由ですよ。脱走じゃなくて、農業が嫌になって出て行っただけじゃないですかね」

 ニヤニヤしながら答えるシム・ジョーンズ。

 その後もディーノ少尉がいろいろと質問するが、なかなか尻尾を出さない。


「知り合いから聞いたんですが、ここを調査しにきた軍人が行方不明だとか」

「そんなことないですよ。今、ここに呼んできます」


 写真で見た、テオドーロ・ロレッロ少尉とウーゴ・ルッソ少尉がやって来た。

 二人とも、他の信者と同じ恰好をしている。

「自分の意志でここにおられるんですか」とディーノ少尉が二人に聞くと、

「もちろんです。ここは最高ですよ」とテオドーロ少尉が言ったが、目は死んでいるなあ。

「わ、私も同じです」とウーゴ少尉も言ったが、こっちは、ちょっときょどっている。

 挙動不審で変だなとあたしは思った。


 あたしが引き継いで質問する。

 頭の悪いあたしは単刀直入に質問する。

「クトルフって聞いたことありますか」

「いえ、全く聞いたことありませんねえ」


 シーフの勘よ。

 こいつの目が一瞬、泳いだ。

 ウソついてやがる。


「そのTシャツのマークは何ですか」

「これは、我が教団のシンボルマークですね。中央が異世界です。現実のいろんな場所から異世界に行って幸せになるということですね。これが現実から異世界へいく道です」といって、蛸の足のような部分を示す。


「どうして十六本なんですか」

「ああ、それは適当ですね。私にはデザインの才能が無いので」とシム・ジョーンズが言うと、周りの信者がどっと笑う。

 どうも胡散臭いおっさんだ。


 その後も、のらりくらりと質問をはぐらかすシム・ジョーンズ。

 頭の悪いあたしには太刀打ち出来ない。

 

 結局、写真を何枚か撮影してインタビューは終わってしまった。

 仕方なく、あたしたちは、一旦、船に戻ることにした。


 知らんと言われれば、それまでなんだよなあ。

 やっぱりルチオ教授を連れて来た方がよかったんじゃなかろうか。

「お帰りになるなら、お土産の果物を届けますよ。少し待ってていだだけますか」とにやつくシム・ジョーンズ。


 ディーノ少尉たちと船着き場へ向かう。

「もう武器で脅してシム・ジョーンズを逮捕すればいいんじゃないですか」

「いや、それはまずい。信者を刺激してしまう。一旦、船に戻って考えよう」



 船着き場に戻ると、マルコ二等兵が倒れていて、ジャンルイジ軍曹が介抱している。

「どうした、何があった」と驚くディーノ少尉。

「行方不明だったウーゴ少尉にマルコが襲われたんです。どうやら、船を奪って教団から脱走しようとしたらしいんですが。シム・ジョーンズは詐欺師野郎だって叫んでました」

「ウーゴはどこに行った」

「エンジンの鍵は私が持っていたので、船が出せず、そのまま逃げました。ただ自動小銃一丁と食料を盗まれました」


「まいったなあ。食料はともかく、自動小銃を盗まれたとなると、始末書もんだよ。これは戻ったら怒られるな」とディーノ少尉が困惑している。

 けど、ウーゴ少尉は教団から脱走したってことは、異世界転生教団の教義から解放されたわけで、あたしらを自動小銃で攻撃はしないんじゃねと思った。

 マルコ二等兵は頭を殴られたようだが、ケガは大したことなさそうだ。



 船のキャビンで相談する。

「強行手段に訴えたらどうですか。夜、寝静まった時に、シム・ジョーンズの寝込みを襲って、逮捕。他の信者とは離れた場所に寝ているようだし」とあたしが提案すると、

「うーん、それしかないか。いつ集団自殺されるか、わからないからな。シム・ジョーンズさえ居なければ、行わないだろう」

「いつ行いますか」

「脱走信者の証言だと、夜中の十二時まで、お祈りとかやっているようだ。その後は朝五時まで就寝。その間の午前二時にシム・ジョーンズの家に突入して、逮捕。信者に見つからないうちに船まで連行しよう」


 あたしたちが相談していると外から、

「すいませーん、お土産持ってきました」と声がする。

 教団の信者がお土産を持ってきたようだ。

「私が受け取ってきます」とマルコ二等兵が船を出る。

 マルコ二等兵はさっき、脱走してきたウーゴ少尉に頭を殴られたのに大丈夫かと、あたしが外を覗くと、あれ、シム・ジョーンズも来てるじゃん。


「シム・ジョーンズも来てますよ」とディーノ少尉に伝えると、

「本当か、さっきウーゴが教団から脱走したことを伝えてやるか。どういう反応を示すか見てみたい」

 全員でマルコ二等兵が、シム・ジョーンズたちと話しているところに近づく。


「さっき、ウーゴ少尉が逃げ出してきたのを見たんですが、いいんですか」とディーノ少尉が聞くと、

「あ、そうですか。農作業が嫌になったんですかね。まあ、出入り自由なんで、本人が出て行くんなら、もうしょうがないですねえ」と意外にもシム・ジョーンズは、興味なさそうな態度を取る。

 うーん、ちょっとこのおっさんが何を考えているのか分からなくなってきた。


 土産物の果物をもらって、船を出発。

 シム・ジョーンズたちは手を振っている。


「案外、普通の教団かもしれませんね」と軍曹が言ったが、

「いや、何かウソがあると思う」とディーノ少尉。


 あたしたちは、船を教団の見えない場所に、ひとまず停めて夜を待つ。

 突然、マルコ二等兵がうずくまった。

「大丈夫か、さっき殴られたけど」とディーノ少尉が心配そうだ。

「いや、大丈夫です、ちょっと眩暈がしただけです」

「いや、お前は少し休んでろ」とキャビンのソファに寝かせてやる。


 再び、船を教団の近くまで、移動させる。

 そこから、シム・ジョーンズの家を強襲することになった。

 ディーノ少尉は軍服に着替える。

 なかなか男前だなあ。


「プルム顧問はここに残って下さい」

「え、私も同行しますが」

「女性に危険なことはさせられませんよ」

 あら紳士だわ。

 けど、軍人じゃないあたしが居たらかえって、邪魔か。


 あたしは、ソファで寝ているマルコ二等兵と船で待機することになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ