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ドラゴンキラーと呼ばれた女/プルムの恋と大冒険  作者: 守 秀斗
第八章 うら若きは苦しい二十三歳混乱する乙女/皇太子御夫妻結婚パレード編
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第六十四話:皇太子御夫妻結婚パレードを警護する

 で、皇太子御夫妻結婚式当日がきてしまった。


 あたしは、王宮警備隊の目立たない制服を着て、他の隊員と一緒に馬に乗って、教皇庁の大教会の側面で待機する。

 いろんな要人たちが、大勢教会の中に入っていく。

 教会前の大きな広場には、一般市民も大勢集まって来ている。


 教皇庁か。

 懐かしいなあ、フランチェスコさん。

 今も、勉学に励んでいるのだろうか。

 会いたいけど、迷惑だろうからやめておく。

 三年前、あたしを抱きしめてくれた唯一の男性なんだけど。


 おっと、仕事中にこんなこと考えてはいかん。

 それも、皇太子御夫妻の結婚式だと言うのに。


 オリヴィア近衛連隊長が先導して、皇太子御夫妻を乗せた馬車が予定通りやって来た。

 大歓声が上がる。

 見物人がオリヴィアさんの名前を呼んだりしている。

 みんな、彼女を見に来たんじゃないのかってくらいの大歓声だ。

 確かに、これではカクヨーム王国のお妃様が霞んじゃうな。


 皇太子御夫妻の馬車が教会前に到着。

 お二人が馬車から、降りられて教会へ入っていく。

 かなり厳重に警備が行われているので、御夫妻がほとんど見えないなあ。


 オリヴィア近衛連隊長が、あたしに近づいてきて、

「後はよろしくお願いいたします」と言いながら、敬礼された。

 相変わらずカッコいい女性だな。

 近衛連隊は私服に着替えて、一般人に紛れて警護するようだ。


 さて、教会の外で待機しているあたしたちには見えなかったが、どうやら式は無事に終わったみたい。

 例の「教会で殺してやる」って脅迫状はイタズラだったのかね。


 式を終えた皇太子御夫妻が姿を現した。

 お二人とも華麗な衣装にお色直し。

 さすがに歓声がわく。


 本日は快晴。

 教会前には、屋根なし馬車が停まった。

 御夫妻が乗り込む。

 

 さて、あたしたち王宮警備隊の先導でパレード出発。

 あたしが一番前。

 緊張するなあ。

 

 道は見物人でごった返している。

 市民全員が見に来たんじゃないかってくらい人がいるぞ。

 みんな王国旗を持って振ったり、歓声をあげている。


 あたしが馬に乗って、皇太子御夫妻の馬車を先導していると、沿道から、

「誰、あの人」とか、

「なんだ、オリヴィア様じゃないじゃん」とか、

「あんなちんちくりんよりオリヴィア様の方がいいのに」って見物人が文句言ってるのが聞こえてきた。

 あたしだって、好きでやってるわけじゃねーよ! と怒鳴りつけてやりたくなったが我慢する。

 チラッと後方を見ると、皇太子御夫妻がにこやかに手を振りながら観衆に応えている。

 わりと順調に行って、教会のある南地区から西地区、北地区を通り過ぎ、東地区まで来た。


 お、バルドが先頭に立って、警備を指揮している。

 体がデカいから迫力あるな。


 ん、チャラチャラした警備隊員があたしに向かって、手を振っているぞ。

 チャラ男ことロベルトだ。

 なんか食ってるぞ。

 アイスクリームなめてる。

 買い食いしてんじゃん。

 ちゃんと警備しろよ。

 相変わらずいい加減な奴だ。

 って、あたしもよく買い食いしたなあ。


 あれ、リーダーもいるけど、なんだか、ボーッとしている。

 大丈夫かなあ、体調悪いのかな。

 

 さて、もう少しで王宮だ。

 ふう、これは何とか無事に終わるかなと思っていたんだけど。

 突然の爆発音。


 やばい! テロか!

 馬がびっくりして、立ち上がった。


 しまった!

 突然、立ち上がったもんだから、あたしは落馬してしまった。


「ウギャ!」

 後頭部と背中を地面に強打。

 なんという大失態。

 新聞社が写真を撮ってやがる。

 こりゃ、歴史的大失態だ。

 すぐに立ち上がろうするが、うまく立ち上がれない。

 脳震とうかな。

 まずいぞ、これは。

 

 ん、女性が走り寄ってきたぞ。

 よく見ると、なんと皇太子妃様じゃん。


「大丈夫ですか」

「あ、はい、なんとか」


 皇太子妃様はあたしの目の動きを確認している。

「休まれた方がいいのではないでしょうか」

「あ、いや、大丈夫です。大変申し訳ありません」


 本当は大丈夫じゃないけど、なんとか、あたしは立ち上がって、再び馬に乗る。

 部下が近寄ってきて、報告を受ける。

「さっきのは単なる爆竹のようです。子供がふざけただけみたいです」

 やれやれ。

 爆竹で落馬か。

 情けない。 


 王宮前の入り口に到着。

 やっと終わった。

 

 あたしは、さっきの落馬で調子が悪い。

 馬から降りて、入り口近くに待機する。

 御夫妻が馬車から降りる。

 

 入り口前で御夫妻が並んで立って、王宮前に集まっている市民に手を振っている。

 サービスのためか、なかなか王宮の中には入らず、手を振り続けているので、観衆がどんどん増えて、御夫妻をもっと間近で見ようと近づいて来た。

 警備隊員が抑えているが、これはまずくないかと思っていたら、あれ、観衆の中にいる、あのやせっぽちの女、見たことあるぞ。

 この前の政治団体同士の乱闘で火炎瓶を投げた女じゃないか。

 ん、しかし、眼鏡をかけてないな。

 別人か。


 その女は、ゆっくりと、目立たないようにこっちに近づいてくる。

 政治団体関係者は御夫妻に危害を加えないって、クラウディアさんは言ってたけど。

 何だか挙動不審だ。

 あれ、手をポケットに入れている。

 怪しいぞ。

 必殺、百発百中のナイフ投げ! をしようと思ったが、さっきの落馬の後遺症か、体がふらついて、的が絞れない。

 まずいぞ。


 女がポケットから拳銃を取り出した。

 やばい。

 周りの警備員に伝えようとしたら、その女の横に、さっと黒いスーツ姿の人物が近づいて、拳銃を叩き落とす。その後、手刀で首を叩いて、倒した。

 周りの人たちは気づかない。

 よく見ると、黒いスーツ姿の人物はオリヴィア近衛連隊長ではないか。

 カッコいいな。

 皇太子御夫妻は暗殺事件に気付かず、王宮内にお入りになった。

 ふう、やっと終わった。



 さて、犯人の女だけど、皇太子殿下に片思いをしていたそうだ。

 脅迫状も出したのも、この女。

 教会には警備が厳重なので近づけなかったようだ。

 差別反対と火炎瓶を投げていたくせに、カクヨーム王国の皇太子妃を狙うとはどうなってんの?

 政治活動と恋愛は違うと本人は証言したみたい。

 いかれとるね。

 純愛原理主義者のあたしもここまでひどくはないぞ。

 ちなみに伊達眼鏡を普段はかけていたそうだ。



 翌日、午前中は病院に行く。

 落馬して、後頭部と背中を打ったので、診てもらうことにした。

 とりあえず、なんともないとのこと。


 午後に出勤すると、サビーナちゃんに、

「フランコ官房長官がお呼びですよ」と言われた。

 

 やれやれ。

 また、怒鳴られるのか。

 確かに、爆竹ごときで、あの落馬は大失態だもんな。

 やっぱり近衛連隊にまかせればよかったんじゃないのか。

 あのオリヴィア近衛連隊長なら、落ち着いてこなしただろうに。

 

 はっきり言って、落ち込んでいるんよ。

 新聞社にも写真をいっぱい撮られてしまった。

 ナロード王国の歴史に残っちゃったんよ。

 いずれ、新聞社発行のナロード王国歴史写真集とかにも載ってしまうのだろうか。

 憂鬱。


 官房長官室に行くと、いつもの丸眼鏡青年パオロさんじゃなくて、違う秘書が出てきた。

「あれ、パオロさんは?」

「パオロは、本日、病院に行くため、休んでおります」

 チョコの食い過ぎで歯医者かな。

 それとも、あの若さで糖尿病か。

 いや、もともと体が弱いとも言ってたな。

 しょっちゅう医者に行ってるみたい。

 大丈夫かね。

 

 それはともかく、

「あの、王宮警備隊長のプルム・ピコロッティです。フランコ官房長官に呼ばれたんですが」

 

 官房長官室に通される。

 また怒鳴られるかと思ったら、四角い顔のおっさんが新聞の一面を見て喜んでいる。

「今回はよくやった!」と褒められた。

 そこにはあたしを介抱する皇太子妃様の写真が載っていた。


「お前が落馬した時、怪我してないかと皇太子妃様が駆けつけられたのが、国民に好感度を上げたようだ。今まで、カクヨーム王国の女性との結婚に反対だった連中も静かになった」

 そう言えば、元看護師だったなあ、皇太子妃様。

 職業柄つい駆けつけてしまったようだ。

 怪我の功名かね。


 あたしとしては、フランコのおっさんに怒鳴り散らされないので、ほっとして、安全企画室に戻ると、サビーナちゃんがぴょんぴょん飛んで慌ててる。

 昔より飛ぶ高さが低くなったなあ。


「オリヴィア近衛連隊長様が来られたんですよ!」

 興奮してるサビーナちゃん。

「王宮の屋上で待ってますって」

「は? 何で屋上?」

「言いたいことがあるそうです」


 何だろう。

 階段を上りながら考える。

 うーん、やっぱり落馬の件かな。

 今度から、王室関連のパレードは全て近衛連隊にまかせろとか言われるのか。

 あたしに言われてもなあ。

 だいたい、もうすぐ併任は解かれるっていうし。

 文句はフランコのおっさんに言ってよ。


 屋上に行くと、オリヴィア近衛連隊長が待っていた。

 今日は私服だな。


「何のご用でしょうか」

 なかなか喋らないオリヴィアさん。

 何だろうと思っていると、

「あのー、あなたは、恋人はいますか」と聞かれた。


 何だよ、いきなり。

 不躾な人だなあ。

 落馬と何の関係があるんだよ。

「いませんけど」と憮然として答える。


「私はどうでしょうか」

 は? 何言ってんの、この人。

 意味が分からんな。

 え、まさか。

 頭が混乱してきた。

 あたしがボーッとしていると、

「あのー、よろしければ、私と付き合ってくれませんか」


 えー! 意味が分かったぞ。

 うーむ、そりゃ、カッコいい人だけどさあ。

 これが、相手が男性なら有頂天になって、天を舞っちゃうけど。

 女性だからなあ。


「アハハ、あのー、すみません。えーと、その、私は男性の方が好きなので」と焦って答える。

「そうですか」とがっくりしているオリヴィアさん。 


「プルムさんは男性と一緒の時は全く無く、いつも一人で行動されているので、私と同じ趣向の人かと思いました」

 好きで一人で行動しているわけじゃないわよー!


「では、失礼」と踵を返してカッコよく立ち去るオリヴィア近衛連隊長。

 しかし、途中で顔を両手で押さえて足早になった。

 泣いているのかな。


 うーむ、なんだか、悪い気がしてきた。

 え? 女は、自分が振った男性には、まったく未練がないもんだって。

 逆に男はけっこう相手に悪い事したかなあと思うもんだって。

 へー、あたしって男っぽいのかなあ。

 けど、相手が女性じゃなあ。 

 ん、LGBTQ? なにそれ?


 それにしても、今回もあたしが振ったってことになるんかな?

 最近のあたし、乙女のくせに偉そうだな。

 まあ、ともあれ恋愛不成立。

 またもや恋愛活動連敗記録を更新してしまった。


 お前、もう見込みが無いんだから、この際、相手が女性でもいいんじゃいかって? うーん、いや、まだがんばるぞい。

次回から「第九章 うら若きはもう無理の二十四歳呆然とする乙女/クトルフ教団編」に続きます。

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