夏のお姉さん
いつもと同じく村の裏手から広場に入ると、見慣れた行商用の馬車と見慣れないお姉さんがいた。
鮮やかなオレンジ色の髪をポニーテールにまとめて、デニムのホットパンツに丈の短いTシャツと、この村ではおよそ見ない刺激的な格好。お姉さんは私を見つけると「こんにちはー」と笑顔で声を掛けてきた。
少し屈んで目線を私に合わせて話しかける。
「私のお父さんの代わりに商売しに来たんだけど、この村の村長さんのおうちってわかるかなー?」
「えっと、わからないので大人の人を呼んできます」
「うん、ありがとー」
この村の村長さん。そういえばまだ見たことがないな。私は道場まで走って師匠を呼びに行った。
師匠に事情を話して広場まで連れて行くと、待っていたお姉さんはギラリと肉食獣の目になった。およ、これは……と思ってみていると、お姉さんはちょっぴりテンション高めに師匠に話しかけている。師匠は眉間にしわをよせながらも答えている。
「アリシア、一緒に来い。覚えておいた方が良いだろう」
「アリシアちゃんて言うんですね。かわいいなぁ。近所の子ですか?」
「娘だ」
―――いつからっっ?いつから私は師匠の娘になったのっっ?
師匠を見あげると、何やら威圧してきた。……ここは師匠に恩を売っておこう。お父さん、と言って手をつないで隣を歩き始めた。
お姉さんは出会ったころの師匠みたいにがっくりしていた。ごめんね、お姉さん。
師匠についていくと、ウィルの家に着いた。
「ここだ」
「ここって、えっ、ウィルって村長さんの子供?」
「ああ、何だ聞いてなかったのか?」
聞いていない。話損ねたのだろうか?もしかしたら知られたくなかったのかな?そういうお年頃?
お姉さんに別れを告げて道場へ戻る。
通行証は親から受け継ぐけど、村長の許可も一応必要なんだって。
「そういえば、どうしてこの辺りって隠れ里みたいになってるんですか?」
「あ~それはな」
村を囲む森は原種の森と言って、創世の木によって転移してきた木はこの辺りに生えやすい。それを管理するための村だと言われていた。でも実は奥の方にエルフの村があってそっちで管理するようになったので、隠れ里のような形態だけが残った。結界も範囲を狭めて村とばば様の家が入る程度にしてあるらしい。
……長命の樹木を育てるには長命の種族の方が向いているからと師匠は教えてくれた。
「エルフの村が近くにあるんですか?」
「行くつもりか?」
「え?えーとそのぅ…」
「俺は行かない。ってか行けない」
この村ではダークエルフを差別する人はいない。
町に行っても明らかに蔑視するような種族はほとんどいないそうだ。
―――エルフを除いては。エルフはダークエルフを蛇蝎のごとく嫌っているそうな。
こっそり一人で行くしかないか。準備は万端にね。
稽古が終わって広場を通ると、お姉さんはまだ店を開いていた。近寄っていくと気づいてくれて、笑顔で出迎えてくれた。
「お姉さん、お名前はなんていうんですか?」
「私はリタ。よろしくね、アリシアちゃん」
「はい、よろしくお願いします」
品物を少しだけ見せてもらう。お守りといった類のものはあるけれど、強い効果があるわけではないらしい。魔王を封じるなんて代物、そうそうあるわけないよね。
「何か困りごと?」
「エルフの里に行ってみたいけれど、モンスター避けってありますか?」
「……一人で?」
しまった。リタさんの顔から笑みが消えている。怒ってはいないけど笑顔のイメージが強い分、ちょっと怖い。
「どうして?」
「お、お母さんに会いに」
はい、嘘ついた―――リタさんとまともに顔が合せられなくて、下を向いている私。
「お父さん一緒にはいかないの?」
「お父さんはダークエルフだからエルフの里に行けないの」
「だそうだけど。本当ですか、ロベルトさん?」
ひっ、と声が自分の口から洩れた。ぎぎぎと音がしそうなほどゆっくりと後ろを振り返ると師匠がいる。
笑顔だ。笑顔で怒るなんて器用だな~なんて思ってたら、こめかみをぐりぐりされた。痛い痛い。
「人を騙すのは良くない事だぞ、アリシア」
「はい、はい。分かりましたもうしませんだから止めて痛い」
反省はしている。うん。騙すのは良くないね。だったら師匠だって……
「師匠だってリタさん騙したよね?」
「師匠?お父さんじゃなくて?」
手が止まった。師匠をじっと見つめるリタさん。
―――第二ラウンド、開始?
「じゃ、じゃあ俺はこれで」
師匠は敵前逃亡、リタさんはそれを追っかけて行った。……店番、しとこうか。
気づいたら二十話突破してました。毎日投稿頑張ります。




