情報収集
結局リタさんに、師匠が私の親でないことがばれたらしい。嘘は駄目だよね。
エルフの里に行って何がしたいか……それは端的に言えば情報収集だ。師匠がくれる情報は下手をしたら制限が懸っているという事もあり得る。ドラゴン化が進んでいるかもと言う疑問にもいまだに答えてもらっていない。いろいろな人、様々な種族に会うことで具体的な情報がもしかしたら得られるかもしれない。そう思って行動したのだけれど。
ばば様に頼むか、ウィルとテッドに頼むか、一人でこっそり行くか。一人で行く場合は通行証が手に入らない可能性がある。一緒に行くにしろモンスターに会う可能性は捨てきれない。そもそも場所が分からない。手詰まりかなあ。
結界の中で大人しくしていた方が良いのならそうする。でも持てる手立てが増えるのならばそれに越したことはない。今日ならなかったからと言って明日ならないとは限らない。
休みになる前日、会わせたい奴がいるから明日は家に来るように、と師匠に言われた。古くからの知り合いでためになる話が 訊けるだろうと。私の事情…前世の記憶もちの事も話してあるらしい。信頼出来る人なんだろう。次の日、久しぶりに師匠の家を訪ねると、見慣れない人がいた。
「アリシア、先に言っておく。なんか……すまん」
「え、何がですか?」
師匠がお茶の用意をしながら言う。―――余程、変な人なのだろうか?
見慣れない人はメガネを掛けていて、黒に近い茶髪を肩口まで伸ばしている。瞳の色も同じような感じで年は二十代後半くらいかな。夏だというのに黒いローブを着ている。笑顔がちょっぴり胡散臭い。どこかで見たことあるなあ。
「ロベルト、この方がアリシア王女殿下かい?」
私を王女扱いしてきたので気を引き締めた。王族用の教育を受けていないので、大したことは出来ないけれど。
「お会いするのは二度目ですね。僕の名前はエルンスト。」
「二度目……あ、秋祭りの時ですか?」
そうだ―――確かお店を見て回ったとき、鏡を見ていたら声を懸けてきた人だ。
「ええ、そうです。あの時はご挨拶もできずに失礼いたしました。いやあ竜の子孫と言われる王家の方と直にお話できるなんてとても光栄です。ドラゴンて凄いですよね。圧倒的な力と類稀なる神秘性、知恵と魔力を兼ね備えていて魂は気高く空を飛ぶさまは悠然と……」
ドラゴンを褒め称える話は止まらない。変な人だ。私は師匠を見た。
「こいつは竜の生態についての研究や調査をしている。ドラゴンマニアなんだ」
「マニア……私まだ人型なんですけど」
王家特有の体質にも詳しいだろうという事で連れてきたらしい。
「そう言えば僕に何やら相談事があるとか」
「普段の食事に困ることは無いんですけれど、食べようと思えば際限なく食べられたりするんです。後は髪の毛が普通のハサミで切れなくてヒヒイロカネのハサミだと切れたり」
「切ったんですか?切った髪の毛はどこにあるんです?」
「え?普通に捨てましたけれど」
「なんてもったいないことを。次に切ったときは僕にください」
「え、嫌ですよ」
怖いよ、なんかこの人怖い。流石に師匠も止めに入った。
「幼女の髪の毛ほしがるなんてお前は変態か」
「僕はロリコンじゃない。強いて言うならドラコンだ」
ああ、ゴルフの…って違う。話が逸れてる。ロリコンはお前の方だろとか、断じて違うとか言い合っている二人に私は咳ばらいをした。仲良いなこの二人。
「それで、そのような事はドラゴン化の兆候なのかなって」
「もともとが王家の人間に現れる体質だと思っても大丈夫です。皮膚や爪、髪の毛の硬質化、食欲の増加、力や魔力の増加など個人によって性質は違いますが、それが直接のドラゴン化に繋がることはありません。」
一番ほしかった答えが聞けて、ほっとした。師匠も良かったなと私の頭にぽふっと手を置いた。まだ、大丈夫みたいだね。
私のそんな様子を見て、エルンストは片眉を上げる。
「ドラゴン化は、悪いことではありませんよ。むしろ王家では英雄視される事柄です」
「でも黒髪に赤眼は不吉だって」
「それもどうですかね。周囲があれこれ言っているだけで、物事の良し悪しなんて本人にしか見えてこないことだってあるんです」
考えてみたら不吉だって事は何度も聞かされているけれど、何をしたかっていうのは聞かされていないんだよね。聞きたくもないけれど。
「善悪の基準となるような考え方、たとえば宗教みたいなのはこの世界にもあるでしょう?」
あることにはあるんですが、と続ける。
「この世界に神はいない。転移してきていないんです。神の実在しない宗教がどれだけ凶悪なのかご存知ですか?」
エルンストから笑みが消えた。
ドラゴンコンプレックス。(おそらく造語です)ドライビングコンテストではありません。




