イナウノノ70ドーコ
イナウノノ70ドーコ
歩けば信号が全部青なのは当り前。
道路を横断すれば車が来ないのは当たり前。
帰宅後に甘いお菓子が用意されているのは当たり前。
火事になっても、水が勝手に降ってくるのは当たり前。
飛行機のチケットを取り忘れたけど、偶然に席が空いてそこに乗れるのは当たり前。
墜落しそうになっても、パラシュートが近くにあるのは当たり前。
旅行先で要予約の銃体験コーナーとかに予約なしで入れるのは当たり前。
説明中にテロ組織が来ても、テキトーに発砲して命中するのは当たり前。
この世の全てが当たり前。
だから当たり前にラナは生まれた。
崇拝するお姉様は言った。
母体と引き換えに生まれたって、それは当たり前だ。
人間ではなく、死神なのだから。
その言葉を聞いてとても満足した。
それと同時に滑稽だった。
全ての悲劇は当たり前の出来事であり、その中でラナだけが生き残るのも当たり前の事柄だ。
生まれた時に子宮を引き千切られた母親が失血死した事も。
ラナの後を追った幼い弟が車に轢かれて事故死した事も。
料理後の火の始末を失敗していた祖父母が焼死した事も。
人命救助に気を取られた父親がそのまま墜落死した事も。
ラナを殺そうとしてきた覆面の親族がショック死した事も。
悲劇だなんて事はない、喜劇だ。
こんなにも幸運に見舞われた幼女のバラエティーは高視聴率を叩き出すだろう。
なぜか児童養護施設はラナの精神鑑定をやり始めたけど。
血を採って、カウンセリングに連れていかれて、素直に質問に答えるだけ。
その間、私は常に笑顔だ。
目の前で見た光景を笑顔で話し続けるだけだ。
たまに積み木をしたり、絵を見て感想を言ったり、暗算をした事もあった。
それらを統計的にまとめた紙を見せてもらうと、やはり100点満点だ。
鼻で笑ってしまったよ、それが当り前なのだから。
とんとん拍子にアメリカへの留学が決まった。
でも月に一度は日本に帰る事を約束させられる。
それはアゲハカンパニーとかいうふざけた名前の会社からの圧力だそうだ。
特効薬作成の為のボランティアだと思え、との事だ。
でも、私にとっては都合が良かった。
月一じゃ物足りないけど狩れる事には変わりないし、崇拝するお姉様とお茶会を楽しめるのだから。