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ミアはね、本当にしっかりとした賢い子なんだ。

可愛くて、ついつい構っちゃうんだけど、僕の手なんて必要とせずに何でも一人で出来ちゃうんだよね。


王都からの道中、耳にタコが出来る程に聞かされた、一応の雇い主となるジェラルドの娘自慢。

後に、家で一人待つその娘の下へ先に向かうことになった四人も含めた全員が、その話を話半分、それ以下に聞いていた。こういった親がする子の自慢の信憑性は信じない方がいい、ということはそれなりに生きた大人ならば経験として、それを知っている。


だから、彼等四人もミアと対面した時、大人びた子だなと思いはしたものの、それでもただの子供だと思っていた。侮っていたのだ、所詮はただの子供。この任務も簡単に終わる、と。少なくとも、ガロウズはそう思っていた。ミアとラース達との話を横目に見ている間に、その印象は少し変化しはしたものの、それでも子供だという考えは変わらなかった。

親の庇護下で愛されて育っている子供。

ガロウズ達への警戒をすぐに解いた事がそれを物語っていると、ガロウズは思っていたのだ。


だが、ただの子供ではないのでは、とガロウズはすぐに考えることになった。


「おはようございます。起きて下さい、朝です」


ミアとの出会いから翌日。ガロウズの居候1日目の朝は、そんなしっかりとした子供の声によって始まった。

なんで!?

ガロウズはその声に驚き、飛び起きることになった。

ガバッと布団を蹴り上げるように飛び上がったガロウズに、ミアは小さな悲鳴をあげて、そしてガロウズのことを睨みあげた。

眠るガロウズの身体を布団の上から揺さぶっていたのだ。蹴り上げられた布団がミアの身体にぶつかったのかもしれない。

「本当の仲間じゃないのに、皆気があうんですね。あなたを起こしにきたのは最後だけど、皆同じ反応でした」

ご飯出来たので早く降りてきてくださいね。

台所の場所は説明しましたよね、とミアは顔を膨らませて部屋を出ていった。

ガロウズが宛がわれたのは二階にある客室。他の三人も一室ずつ部屋が宛がわれているのだが、ミアはその全員の部屋に起こしに行ったようだ。今のように、何の足音も物音も立てず、気配さえも悟られずに、素人ではない全員を。

それは驚くだろうよ、とベットの上で上半身を持ち上げた姿のまま、ガロウズは頭を抱えた。

何なんだ、と。

彼の中でミアは、ただの子供、という枠組みには到底収めることは出来なくなった。



「さぁ、食べてください」

リビングの真ん中に置かれたテーブルに四人が着いたのを確認したミアは、てきぱきとした動きでテーブルの上に朝食を整えていった。

柔らかなパンに、温かなスープ、サラダにオムレツ。朝食としては量も十分過ぎるそれに四人は息を呑んだが、それ以上に彼等の目はリビングの壁に存在する窓へ向かい、微妙に歪んだ表情を浮かべていた。

「ねぇ、ミアちゃん。ちょっと朝食には早くないかしら?」

エレクトラがそれを声に抱いて指摘してみた。

窓の外に見えるのは、青白く染まり始めた空。

まだベットの中で眠っている者も多いだろう、夜が明け始めたばかりの早朝。エレクトラ達も緊急の任務がある場合や野宿の際の夜番を担った際を除いて、こんな朝早くに朝食を食べる経験は無かった。

「そうかな?」

その指摘を平然と受け止め、ミアはパンを千切って口に運ぶ。


本来、ミアは食事なんて必要としない。

だから、一人で留守を守っている間はずっと食事を取らずにいた。

人でないミアが人であろう、人と同じであろうとする事を止めてしまえば、それを忘れてしまうのは早かった。そういえば、とたった十日前まで普通に送っていた父との生活を思い出す。

今日のように夜明けの少し前に起きるのは変わらないが、掃除をして、朝食を作って、洗濯をして…、そういえば父を起こすのその後で、それからゆっくり朝食の時間だったな、と。うっかりしていた、とミアは表情には出さずに反省した。


「じゃあ、明日からはもう少し後にします」

今日は我慢して食べてください。

後で食べてとは言わない。そんなことを言ったら、食器を片付けるのも遅くなってしまうからだ。

ミアにはある予想があった。

父の留守の間、それを知らずに訪れた客達に言ったのは、十日、という言葉。

きっと、それを覚えている客達が今日、買い物をする為にやってくるだろう、とミアは考えている。

店を開ける前に、客が来る前に出来るだけの家事は済ませておきたいとミアは思う。


ドンドンドン


そう思っている中で早速、店からドアを叩く音が聞こえてきた。

今日は朝から客が、何時も以上に来るだろう。そう覚悟はしていたミアだが、流石にこの時間からというのは想定外だった。

だが、こんな時間に来る客が今までに居なかった、という訳ではない。しょっちゅうという訳ではないが、時折そんな客は居るのだ。何故なら、『エチゴヤ』は『幸運が得られる店』。むしろ、こんな時間にミアやジェラルドの迷惑も顧みずに商品を買いに来る客こそが、そういった謂れを尊んでいるのだろう。

「はぁい。ちょっと待ってて下さい」

店の奥から続く家の中で発したその声が、店の閉じた扉の外でノックしている客に届くとは思っていないが、ミアはついついそんな言葉を口にする。


「出るのかい?こんな、店が開いている訳の無い時間に」

これがもし、開店直前だったり、閉店直後だったなら、『エチゴヤ』でなくとも客を迎え入れて、買い物をさせることもあるだろう。だが、まだまだ夜が明けたばかりの早朝だ。

でも、ミアは平然とした面持ちで食事の手を止めて、店へと向かっていく。それにはラースだけでなく、他の三人も驚きの表情を浮かべた。

「どうしてなのかは私もお父さんも分からないけど、此処は『幸運を得られる店』になっていますから。こういうお客さんは珍しくはありません」

パタパタと可愛らしい足音を立てて、ミアは家から店へと入っていき、そして店の入り口のドアの鍵を開けた。そして、鍵が開く音を外から聞いていただろう客が、慌てた様子で店の中に転がり込んできた。

「良かった、良かった!ミアちゃん、いつもの御守りを至急10頂戴!」

「あぁ、レオさん。いつもの御守りですね?ちょっとお待ち下さい」

それは常連客の一人だった。腕の良い冒険者で、危険のある依頼を受けた際には必ず『エチゴヤ』で御守りを買っていく。初めて店に来た時に興味半分に、棚に置いてあった御守りを購入し、自身の当時のレベルではどうしようもない魔獣と遭遇してしまったというのに、命からがらではあるが無事に帰ってこられたという経験があるレオは、それ以来『エチゴヤ』の御守りを切らしたことはなかった。

それでも、何時もはもう少し遅くに買いに来るのだが。

何時も何時も、営業時間ではない時に買い物に来る常連客を想像して店を開いたミアは、少し予想外だと驚きながらも、レオが求める御守りを出そうとそれが飾られている棚へ向かった。

「こんな早くに御免な?でも、このすぐ後に護衛の依頼があってさ。今日から店を開けるってミアちゃん、言ってただろ?」


「こっちこそ、長い間お休みしちゃって御免なさい。はい、御守りです」


ミアの、子供の手の中にすっぽりと収まる小さな袋を、ミアはレオへと手渡した。言われた通り、袋の数は十個。それらを全て、両手に抱えたミアによってレオの手に落とされたのだが、小さなその袋が鍛え上げられた大きめのレオの手から一つも落ちることはなかった。





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