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客が途切れず、忙しく休む暇も無い程。
これは商いを営む商人には嬉しい限りのことだ。次にそんなことが何時あるか分からない、そんな気概で店中の従業員を駆り出して、店中の商品を売り尽くそうと動くのが当たり前。それが儲けになると分かっているのだから、文句が零れる筈もなく、働く同僚達を横目に抜け出そうと思う訳もない。
だが、子供にはそんな話は通じない。
商人の子供とした生まれつき、商人達の中で育ったとしても、子供は子供。働くことの意味をまだはっきりと、身をもって知り得ないからこそ、休みたい、遊びたいという欲求を抑え込むにも限度がある。
始めは親に言い付けられて、子供でも出来る簡単な手伝いを張り切っていたとしても、大人よりも早い内に意欲は尽き、気がそぞらに成り果てる。
そうなれば親達は慣れたもので、邪魔だから遊びにでも行っていろと子供らを放り出す。
しっかりと欠かすことの出来ない程の、手伝いの域を超えて父を助けている『エチゴヤ』の看板娘がしっかりし過ぎているだけで、普通の同年代の子供達は皆、そのようなものなのだ。
そして、それは何処の街の商人だろうと同じことだと思われる。
ただ、この街では少しだけ違うことがあった。
親が子供を一人外に出す時、「何時何時までに帰ってきなさい」「危ないことはしちゃ駄目よ」という、普通の親と子ならば注意の一言が飛ぶのだが、ここでは一味違う言葉が一つ掛けられるだけなのだ。
「ミアちゃんの言うことはちゃんと聞くのよ?」
それは貴賤、貧富の違いはあれど、この街に根付き生活している住人達の誰もが自分の子供に言い聞かせることだった。
「へぇ、じゃあ、ジェラルドさんの言ってたのってマジだったんだぁ」
「そうだぜぇ、ミアちゃんはこの街の子供共の女王様だ」
ミアがサンドイッチを大量に作り店へと戻ると、ガロウズが立ち話を興じる常連客達の中に混じって、ミアの話に花を咲かせていた。
「この街にゃ、子供共が生意気にも徒党組んだのが幾つかあるんだがな、そのどれもが何かっちゃあミアちゃんミアちゃんって相談するわ、子供同士で戦うってぇ時には何処がミアちゃんを仲間に引き入れるかって、それでまず言い争いよぉ」
趣味趣向は元より、身を置いている生活の流れ、生活など。子供の社会の中でも大人数が集まれば自然と気が合う同士などで集団が形成されていくもの。それぞれの集団で、集団名なんてものを考え出し、その集団の気質などに合った行動理念などまで掲げ、時には集団同士で小競り合いなんてものを行ってみせる。大人達の社会をそのまま小型化したかのような子供の社会を、この街の子供達は大人達の手を介入を許すことなく造り上げていた。
ミアはその子供の社会の中で、何処にも属す事の無い立ち位置を子供達から与えられていた。
「それって、普通に考えれば苛められてるって事になんない訳?」
「いやいや。どいつもこいつも、自分達じゃ手に負えない状態になったら、大人に言うよりも前にミアちゃんの所に泣きつくんだ」
「そうそう。前も何かあったかは知らねぇが、ガキ共が集まって何かやってた時もよ。ミアちゃんの指示に、親の言うこともまともに聞きゃあしない我の強い、ミアちゃんよりも年上のガキ共が素直に言うこと聞いてるわけよ。あれには親が泣いてなよ」
「「あんな素直な返事をする息子、久しぶりに見た!ってよ」」
ガッハハハハ
「ラースさん、アクナさん、エレクトラさん。仕事しながらでも、これなら食べれると思うから」
ミアがそう言って三人に差し出したお盆には、カップにたっぷりと注がれたお茶が四つ、そして皿に見た目なんて二の次に積み上げられた、二口程のサイズに切り分けられたサンドイッチが乗っている。
指の一関節ほどと少しだけ厚めに焼かれた卵焼きを、赤いソースを塗ったパンで挟んだサンドイッチ。仕事をしながら手掴みで口に運ぶのに丁度いいそれに、差し出された三人はお礼を言い、手を伸ばした。
「街の子供達からあてにされてるだなんて、ミアちゃんは凄いのね」
「別に凄くなんて…無いもん」
口先を尖らせ、ミアは微笑みを浮かべて褒めてくるエレクトラから顔を背けた。
大仰な評価をされていることが恥ずかしいのかな。それは見る者達へそんな風に思わせる姿だった。
子供は大人よりも本能が優れていることがある。
それは大人に比べれば弱く、大人の庇護を受けねばならない子供が生き延びる為に備わっているものだと思われる。その本能によって、ミアは子供達から一線を画す立ち位置に置かれるのだ。
ミアがどれだけ普通の子供を装うにも、本能でそれを無自覚に、理解する事なく察する子供達には叶わない。それは今も、そして昔も変わらない。
「ミア姉ちゃん、ミア姉ちゃん!!」
「もうおてつだい、おわったぁ?」
ガロウズと常連客との井戸端会議が終わり、ミアが用意したサンドイッチが家の台所に残しておいた分まですっかりとラース達や目ざとい客達のお腹に消えてしまった頃。
5、6歳程の小さな子供達が店に駆け込んできた。
一番大きな、7歳の少年が少しだけ焦った様子を見せて駆け込んできたのだが、その少年を囲んで連れ立ってきた子供達は無邪気な様子で、空となったカップや皿を片付けようとしていたミアに話しかける。
先程、丁度話題にしていたこともあって、ミアに纏わりつく子供達の様子は、ラース達に微笑ましさを抱かせるものだった。
「しばらくは駄目だよ。お店のこと、しなくちゃいけないから」
行こ、行こ、とミアの腕を引いて店の外へと連れ出そうとする子供達に、ミアは駄目だときっぱり断った。
えぇ、と不満の声が子供達から上がる。
「いっつも、この時間なら行ってきなさいって小父さん言うじゃん」
「うん。ちゃんとお友達と遊ぶのも大切にって!」
なんで、なんで、と大合唱。
「おや?それなら、行ってきたらどうかな?」
子供達とミアのやり取りに口を挟んだのは、ラースだった。
「でも…」
先程の食事の為に空けた時間はそう長いものではなかったから、ミアもまぁいいだろうと受け入れることは出来た。だが、子供達と共に出て行ってしまえば、帰ってくるのは陽が落ち始める頃になるだろう。昼を少し過ぎた頃である今からでは数時間も、ということになる。
そもそも、父がそんな事を言ったのは、店の手伝いや家の家事を一手にこなしていたミアを、子供らしく遊ばせてやりたいと思ってのことだった。店も昼を過ぎれば客数も減り、ジェラルド一人でも回せるようになる。一人暮らしの長いことから夕飯を作ってミアの帰りを待つことも何の苦労でもない。そう考えたからこそ、ミアは殆ど強制的に背中を押され、子供達の下に向かうよう家から出されていた。
父も居らず店を回さねばならないこと、すでに手馴れた様子もあるが今日が初日の同居人達の存在、何より何時もとは違って昼を過ぎても僅かにしか減らない客足に、何時も通りにすることは出来ないとミアは思うのだ。
だが、ラースもアクナも、そしてエレクトラ、ガロウズも、大丈夫大丈夫と笑った。
その笑い方は何処か、優しげで、そして生暖かな感じも含まれて居るような気が、向けられたミアは感じていた。ミアは何となく、その生温かさの意味を理解していた。
ミアが幾ら子供のように振舞って見せようと、彼等が手を出す必要が無い程に家事も店のこともこなすミアが見せた、本当に子供のような片鱗。子供達の中で一緒に遊びに興じるミアのことを想像でもしたのだろう、とミアは想像した。
「行っておいで」
「大丈夫だよ~。家捜ししようなんて思ってないからぁ」
アクナが優しく言葉をかけ、ミアの手の中にあったお盆をさっさと取り上げ、ミアでは奪い返すことの出来ない高みに持ち上げてしまった。
そして、その横からガロウズが、生暖かな柔らかいそれからヘラヘラとした笑い方に戻し、まるでミアの不安を煽り、引きとめようとしているのかと言いたくなる言葉を吐く。
が、そんなガロウズの煽りに動じる様子を見せるミアではない。
「うん。ちゃんと、信じてますから」
満面の笑顔を造り、ガロウズを真正面に見つめた。
うっ。
それを受けて、ガロウズが息を呑む音を聞き、その様子を見たミアは勝ったなどと思ったのだった。




