第八話「静かな報酬」
依頼は、あっけないほど簡単に終わった。
森の外れに出た魔獣の群れ。
討伐班が二度失敗したと聞いていたが、航は少しだけ肩をすくめただけだった。
「……数、多いな」
そう呟いてから、すぐに歩き出す。
武器は脇差と、腰の短い刃だけ。
特別な構えはない。
最初の一体は正面から来た。
速い。重い。
普通なら避けるか、押し負ける軌道。
だが航は一歩だけずらし、腕を軽く払う。
それだけで、魔獣の“軌道”がわずかに外れる。
追撃はしない。
すぐに次へ視線を移す。
「こっちの方がめんどいな……」
独り言のように言って、半歩踏み込む。
脇差は振らない。
ただ、相手の進む場所に置かれる。
刃は一瞬触れただけ。
それでも魔獣は、その場で崩れた。
戦いというより、処理だった。
派手な動きはない。
声もない。
ただ“終わっていく”。
気づけば、森は静かになっていた。
最後の一体がどうなったのかも、航は正確には見ていない。
「終わったか」
それだけ言って、周囲を見渡す。
被害はほとんどない。
というより、戦闘らしい戦闘が成立していない。
後から来た冒険者たちは黙り込んでいた。
倒れた魔獣の数。
壊れていない地形。
そして立っている一人の男。
「……お前、一人でやったのか?」
「一人っていうか、たまたまそこにいただけだけど」
航はそう返す。
誇りもなければ、実感も薄い。
「俺、別に英雄とかじゃないんだけどな……」
その言葉は、誰にも拾われなかった。
数日後。
依頼報告にはこう記される。
“単独での討伐完了。被害極小。詳細不明の高効率戦闘。”
そして街の中で、噂だけが少しずつ形を変えていく。
「一人で全部終わらせたらしい」
「いや、複数いたって話だ」
「いや、気づいたら終わってたらしいぞ」
航はその話を酒場の片隅で聞いていた。
グラスを回しながら、小さく息を吐く。
「……いや、そんな大した話じゃないっての」
その横を、また別の依頼書が運ばれていく。
彼が知らないところで、“評価”だけが積み上がっていた。
まだ彼は英雄ではない。
ただ、世界だけが少しずつ先に決め始めている。




