表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名も無き戦場  作者: 六花
灯火
PR
14/76

第十三話「祈りの温度」

街の中心から少し外れた場所に、小さな孤児院があった。

古い建物だが、手入れはされている。


セイリスはその前に立っていた。

迷いはない。

ただ、少しだけ息を整える。


扉を叩く。

少し遅れて、中から声が返ってくる。


「はい、どなたですか?」


「……セイリスです」


短く答えると、扉が開いた。


中は静かだった。

外の喧騒とは別の世界のように。


子どもたちの視線が一斉に向く。

その中に、警戒はあまりない。

むしろ慣れた空気だった。


「あ、セイリスお姉ちゃんだ!」


誰かが駆け寄る。


「また来てくれたの?」


セイリスは少しだけ目を細める。


「……うん」


それだけだった。


手伝いをする。

掃除。食事の準備。簡単な作業。


慣れている動きだった。


誰かを救うというより、ただ“そこにいること”を続ける。


子どもたちの笑い声が、少しだけ部屋に満ちる。


その音を聞きながら、セイリスはふと手を止める。


(私は、これでいいのかな)


すぐに首を振る。


違う。

これは疑問ではない。


彼女は祈る。

だが、それは誰かに向けた祈りではない。


“信じるための祈り”だった。


救うために信じているのか。

信じているから救おうとしているのか。


その境界は、時々わからなくなる。


「セイリスお姉ちゃん、また来る?」


小さな声がする。


彼女は一瞬だけ止まる。


「……来るよ」


そう言ったあと、少しだけ間を置いて続ける。


「来られる限り」


その言葉の意味を、自分でも完全には理解していなかった。


外に出ると、空は少しだけ明るかった。


街は変わらない。

人も、音も、流れていく。


その中で、自分だけが少しだけ立ち止まっている気がした。


(救うって、なんだろう)


答えはまだ見つからない。


それでも歩く。

止まる理由はなかった。


祈る理由も、まだ捨ててはいなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ