第十三話「祈りの温度」
街の中心から少し外れた場所に、小さな孤児院があった。
古い建物だが、手入れはされている。
セイリスはその前に立っていた。
迷いはない。
ただ、少しだけ息を整える。
扉を叩く。
少し遅れて、中から声が返ってくる。
「はい、どなたですか?」
「……セイリスです」
短く答えると、扉が開いた。
中は静かだった。
外の喧騒とは別の世界のように。
子どもたちの視線が一斉に向く。
その中に、警戒はあまりない。
むしろ慣れた空気だった。
「あ、セイリスお姉ちゃんだ!」
誰かが駆け寄る。
「また来てくれたの?」
セイリスは少しだけ目を細める。
「……うん」
それだけだった。
手伝いをする。
掃除。食事の準備。簡単な作業。
慣れている動きだった。
誰かを救うというより、ただ“そこにいること”を続ける。
子どもたちの笑い声が、少しだけ部屋に満ちる。
その音を聞きながら、セイリスはふと手を止める。
(私は、これでいいのかな)
すぐに首を振る。
違う。
これは疑問ではない。
彼女は祈る。
だが、それは誰かに向けた祈りではない。
“信じるための祈り”だった。
救うために信じているのか。
信じているから救おうとしているのか。
その境界は、時々わからなくなる。
「セイリスお姉ちゃん、また来る?」
小さな声がする。
彼女は一瞬だけ止まる。
「……来るよ」
そう言ったあと、少しだけ間を置いて続ける。
「来られる限り」
その言葉の意味を、自分でも完全には理解していなかった。
外に出ると、空は少しだけ明るかった。
街は変わらない。
人も、音も、流れていく。
その中で、自分だけが少しだけ立ち止まっている気がした。
(救うって、なんだろう)
答えはまだ見つからない。
それでも歩く。
止まる理由はなかった。
祈る理由も、まだ捨ててはいなかった。




