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名も無き戦場  作者: 六花
灯火
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第十二話「剣の重さ」

風は静かだった。

街の外れに向かうほど、音は少なくなる。


ヴァルクは歩いていた。

迷いのない足取りだった。


目的地は決まっている。

いつもの場所だ。


そこに“誰がいるか”は、もう重要ではなかった。


墓標の前に立つ。

形は簡素だった。

名前だけが刻まれている。


ヴァルクは言葉を探さない。

最初から、そんなものは必要ないと思っていた。


剣を抜く。

静かに、ただ一度だけ構える。


風が止まる。


その瞬間だけ、かつての記憶が一瞬よぎる。

燃える地面。

崩れる視界。

そして――守れなかった“誰か”の影。


ほんの一瞬。

だが、それで十分だった。


ヴァルクはすぐにそれを切り捨てる。


「……守る、か」


小さく呟く。

誰に向けた言葉でもない。


すぐに首を振る。


「違うな」


剣はただの道具だ。

人を守るものでも、奪うものでもない。


そう決めたはずだった。


それでも、こうして立っている。


(何をしている)


自分に問いかける。

答えは返ってこない。


剣を納める。

それだけで終わる。


何も起きない。

誰も見ていない。


それでいいはずだった。


だが、胸の奥だけがわずかに重い。


それを“感情”とは呼ばない。

ただの癖だ。


「行くぞ」


そう言って背を向ける。


墓標は動かない。

当然だ。


風だけが、少し遅れて流れた。


ヴァルクは歩き出す。


剣であることに、理由はいらない。

そう思っていた。


それでも時々、それだけでは足りない気がした。


すぐに、その思考を切り捨てる。


今はまだ、剣でいい。


それ以上は、必要ない。


(弟の分も、生きると決めた)


その言葉だけが、胸の奥に沈んだまま残っている。

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