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ReBlood.N  作者: 毎日がメスガキに敗北生活
不死身の少年
8/40

ep.8 "紅い目の少年"

森の中には多くの異形が潜んでいた。


アーヴェスは

人力車の上で腕を組み

まるで散歩でもしているかのように

静かに僕らを見下ろしていた。


護衛として先頭に立つ兵士二人と

アスノ、ミラ

彼らが飛びかかってくる異形を

次々と倒していく。


僕はというと…アスノの影に隠れ

それっぽく武器を構えながら

戦っているフリだけしていた。


ミラは氷の魔法を使いながら戦っていた

その手元から吹雪が生まれるたび

周囲の空気が震える。


「あの子…すげェな」

アスノは目を丸くする。


ロジェロの希望するタイプとは違うが…

アスノは続ける

「魔法が使えるならさ

仲間に誘ってみてもいいんじゃねェか?」


「でも…国を信じてるし

親の病気のことも気にしてた。

旅になんて着いてきてくれないと思う」


「国のことは説明すりゃ、なんとかなるだろ。

病気は…オヤジに言えば金出してくれねェかな」


アスノもまた

同じように彼女を救いたいと思っていた。


そう話していると急に兵士たちの足が止まった

目の前には

子供のような見た目の異形が立っていた。


「…解呪異形だ」

アーヴェスが人力車の上から呟く。


こんな小さな子供みたいなのも解呪異形なのか

もっと化け物じみているものを想像していた。


その異形は

突如として地面から何体も生えて現れる。


「な、なんだ!?」

兵士達がざわつく。


異形は木を操り

瞬時に二人の兵士の身体を貫いた。


ミラの悲鳴が森に響く。


「町へ向かっていたやつと合わせて二体目…

"迷いの森"に解呪異形が二体現れるとは珍しい」

アーヴェスは兵士が死んでも表情ひとつ変えず

ただ状況を分析していた。


「シル坊、隠れてろ」


アスノが前に出て拳を構え異形へ殴りかかる

だがそれは子供のような小ささにも関わらず

大木を殴るような硬さで

まったく攻撃が通らなかった。


アスノは悔しそうに歯を食いしばる。


「ミラちゃん

俺の手に氷の魔法をかけてくれ!」


「えっ、で、でも…!」

戸惑いながらもミラは必死に詠唱し

アスノの拳へと魔法を施す。


両拳が白く凍りつき、冷気をまとった。


「氷のグローブだァ!」


その拳で放たれた双竜拳は異形を真正面から捉え

鈍い音とともに小さな体が

木っ端微塵に吹き飛んだ。


「よっしゃァ!これをあと…何回だ…?」


勝利を確信したのも束の間

地面からまた異形が生えてくる。


な…なんだこいつ…


「退いていろ」

アーヴェスがゆっくりと立ち上がった。


「氷魔法を自分の腕に纏うとは…面白い男だ。

だが、それはまだ貴様には早い」

そう言うと

彼は剣を引き抜き、地面へと突き立てた。


次の瞬間

地面が赤く輝き

爆風が僕らの体を容赦なく吹き飛ばした

やがて、煙が消え顔を上げた時

大地が大きく抉れ

異形の姿は影も形もなかった。


僕らは、その圧倒的な実力に思わず息を呑んだ

世界の理不尽そのものを叩きつけてきたような

そんな一撃だった。


~~~~~~~~~~


人力車の奴隷たちは

もはや立っているだけで精一杯だった

足取りはふらつき、膝は小刻みに震え

息を吸う度に苦しそうな声が漏れている。


しかし…奴隷幇助(ほうじょ)はこの国では罪だ

僕らはただその背中を見守るしかなかった。


しばらく進んだところで

ついに奴隷の一人が糸が切れたように崩れ落ち

それに連動するように、もう一人も倒れ込んだ。


「おい、立て…前を見ろ」

兵士の一人が声をかけるが返事はなかった

…近づくまでもなく分かる。


もう、息をしていない。


彼らのために何もしてやれない悔しさに

胸が押しつぶされるような痛みがあった。


アーヴェスは冷徹に言った

「やはり奴隷ではこの程度か…仕方ない。

ここから先は私も歩く」


それだけ言い放ち

死んだ奴隷など

眼中にないと言わんばかりに背を向けた。


…僕に強さがあれば、救えたのだろうか。


ミラはアーヴェスの目を盗み

震える手で奴隷たちの亡骸に祈りを捧げていた

彼女の小さな声が、妙に鮮明に聞こえた。


その後も森の中で異形に何度か遭遇する

鱗に覆われた蛇のような体…

そいつもまた解呪異形だった。


アーヴェスが眉をひそめる

「同じ森で三体目…未確認個体

何が原因でこんな…?」


その蛇型の異形は

口からねっとりとした

黒い液体を弾丸のように飛ばす。


「ミラちゃん!」


アスノが叫ぶと同時に

咄嗟にミラが詠唱と共に両手を突き出す。


瞬時に生まれた氷の壁に黒い液体がぶつかり

不気味な音をたて氷を溶かした。


アスノが一歩前へ出て構えを取った

その瞬間──

異形の身体は灰になって崩れた

アーヴェスがまた…一瞬で討伐していた。


「貴様の実力はだいたい分かった…もう十分だ」

「威勢の良いやつだが

この異形には勝てないだろう」


言葉を失った。


やがて視界の先に、開けた空が見えてくる

今回の調査はこれで終了…

そう告げられ、僕たちはミズイの町へ戻った。


圧倒的な戦力差を嫌というほど

思い知らされたと同時に


ミラというどうしても救いたいと思う人が

ひとり…増えた。


~~~~~~~~~~


その夜

ミズイの宿屋で僕ら三人が話題にしたのは

アーヴェスのことだった。


「初めてだぜ…あんな細身なのに

勝てねェって思ったのはよ」

アスノが布団に寝転んだまま、天井を睨む。


「兄様より強いやつ…が

まだいるという事実にももはや呆れる」

ロジェロはベッドの縁に腰掛け

腕を組んでため息をついた。


「雑魚異形にすら負けてる自分が

恥ずかしいな…」

僕は苦笑いしかできなかった。


誰もが弱気になっていた。


だが今すぐアーヴェスと戦う必要はない

ロジェロの正体がバレない限り、やり過ごせる。


「いつか戦うときだけでいい

その時までに強くなればいい」


と結論づけて、この町では穏便に過ごす。

そう決めてから

僕らは次に向かう場所の話をし始めた。


やがて話題は、ミラのことに移る。


ロジェロは自分より年下という点を

少し懸念していたが

魔法が使えるだけで

パーティとしては十分すぎる才能だ。


明日は、ミラを探す

そう決めて

その夜はそれぞれの布団に潜り込んだ。


~~~~~~~~~~


次の日

教会は大きく、人で溢れていた。


修道女であるミラを探すため

僕は教会の奥へと歩いた

だが、神父らしき男は首を振った。

「ミラは…今日はお休みです」


どこかに出かけているんだろうか

今日は会えそうにない…一度戻ろうか。


そのまま宿屋へ戻るのもなんとなく気が重くて

気晴らしに

町の外れへ少しだけ寄り道をすることにした。


そこで、足が止まった

鈍い音が聞こえた。


視線を向けると、そこには

鞭で打たれながら

働かされている男たちの姿があった。


裸同然の背中には無数の傷跡…

よろよろと今にも倒れそうな足取りで

荷車を押し続けている。


あれは…奴隷だった。


僕はその光景を見た瞬間

昨日、目の前で死んでいった

二人の奴隷の姿が重なった。


胸の奥が痛む

命がただの荷物のように扱われていたあの瞬間が

何度もフラッシュバックする。


…鼓動が静かに速くなっていく

───救いたい。


(しかし…)


(騒ぎを起こしたら…)


(奴隷幇助(ほうじよ)は罪…)


(でも今回こそは…救えるかもしれない…)


(…騒ぎを起こせばアーヴェスが…)


葛藤が胸の内で暴れ回り、吐き出しそうになる

だが…皆に迷惑はかけられない

心苦しいが、もう少しだけ耐えてくれ…


そう言い聞かせその場を離れようとした時

背後から声がした。


「どうしたの?」

振り返るとそこには、少年が立っていた。


背丈は僕と同じくらい

年齢は少し若く見える…

白髪のオールバックで

顔は天使のように整っていて


そして…


右目が、紅く光っていた。

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