ep.4 "やさしいからさ"
【双竜組 アスノ・ヤマモト】
♂︎
ヤクザ
趣味:喧嘩
髪型:黒っぽい茶髪、波巻パーマ、センターパート
身長:186cm
ヤクザのNo.2
ガタイが良い。ヘルニア持ち
双竜組の組長から告げられた試練の日
言われた通り早朝に本部へ行かなければならない
…ただ、一つ問題があった。
「ロジェロ…さん…起きてください」
Zzz…
布団の山から寝息だけが返ってくる
彼女はとにかくよく寝ていた
本人いわく一日十三時間は寝ないと
寝起きに人を斬るとのことだった。
とはいえヤクザを怒らせる方がよほど怖い
寝てて時間に遅れましたという言い訳は…
考えただけで寒気がする。
毛布を剥ぐが微動だにしないので
やむを得ず布団をひっくり返した。
それでも起きなかったので
階段の上まで引きずっていきそのまま転がす
豪快に落ちたところで、ようやく目を覚ました。
「…チッ」
舌打ちと同時に彼女の手が動いた。
気付いたときには
飛んできた剣がお腹に突き刺さっていた
夜叉の能力ですぐに再生する
僕じゃなかったら死んでたぞ…
寝起きは最悪だ
朝から命がけだった。
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双竜組前
まだ空は薄暗い。
僕、ロジェロ、アスノが集合する
三人とも無言だった
緊張と眠気が混じっていた。
扉が開く。
中から現れた組長
鋭い眼光…足音ひとつ立てず静かに歩いてくる。
そして僕らの前で立ち止まり短く告げた。
南に進んだ先にある洞窟へ行け
そこに我が家宝の剣"センニンギリ"がある
それを持ち帰ってこい…と。
その洞窟は聞いたことがあった。
僕の村の近くにある
文明崩壊の際に生まれ
今では「異形の巣」と呼ばれている場所だ。
兵士ですら踏み入ることを避ける危険地帯
戻ってきた者はいない
そんな噂もあった。
組長はそれ以上何も説明せず
早く行けと言わんばかりに背を向けた。
アスノはなんだそんだけかよ…と
心底ガッカリしたような表情をしている
そんな彼を、ロジェロは
あきれたように眉をしかめながら見つめていた。
~~~~~~~~~~
「なぁ、もうこのまま
次の町の酒場へ行かないか…
このパーティは頭が痛くなるぞ」
ロジェロがぼやく。
「まぁまぁロジェロちゃん
長い旅になりそうだ、楽しくいこうぜ!」
アスノが軽く背中を叩く。
「気安く触るな!」
即座に剣の柄へ手を伸ばす。
「おっと怖ェ怖ェ。安心しろよ
俺は"クズ以外"には優しいからさ」
珍妙なパーティになってきたな…
村の外をしばらく歩くとやはり
異形との遭遇は多かった。
ロジェロは両手で剣を持ち
無駄のない足運びで斬り払う
華麗な剣技を繰り出し血飛沫が花のように散る。
アスノは正反対に、拳を容赦なく振り下ろし
異形の頭を地面ごと叩き潰す
その怪力を
ただひたすら正面から叩きつける戦い方だった。
…対して僕は先日までただの一般人
不死ではあっても戦うスキルなどなかった
剣も触れなければ、力もない。
少し油断していると…
異形の腕が伸び心臓を貫かれ、呼吸が止まった
あまりの痛みに視界が白くなる。
「シル坊!」
アスノが異形を潰す
死なないとわかっていても怖ェよ…
と心配してくれた。
じわじわと感覚が戻り
止まっていた鼓動が再び打ち始める。
心臓を突かれても死なない
ただ、痛みは確かにあった。
ロジェロは呆れながら言った
「夜叉の力があるとはいえ
わざわざ急所で試しにいくなよ」
いや…わざとじゃないんです…
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少し落ち着いたところで
ロジェロに魔法は使えないのかと聞かれたが
…僕には魔法の適性がないらしい。
レイヴンは適性がないと
一部能力の発動はしないと言っていた。
今のところ発現しているのは
不老不死と治癒の能力だけ
死なないだけの足手まとい…戦力外だった。
そう簡単には強くなれないか…
アスノに戦い方を教えてもらいながら
異形に挑むも…十連敗した。
~~~~~~~~~~
洞窟に到着する。
「兵士ですら寄りつかない場所だ。
異形も強くなり魔法を使い出す。気を抜くな」
ロジェロが周囲を睨みながら警告する。
アスノは妙に感心していた
「人間でも滅多に使えねぇのに…
異形は進化するのが早ェな」
ずっと平和な村にいた僕にとって
この真っ暗な洞窟は非現実的で…怖かった。
足を踏み外しただけで
二度と戻れない場所へ落ちていきそうな
そんな底の見えない恐怖がある洞窟だ。
だが、ここで引き返すわけにはいかない
この試練を乗り越えなければ
アスノは仲間にできない。
双竜組の本部を出てからここまで…
一緒に戦い続けた彼の力がどれほど頼もしいかは
もう嫌と言うほど思い知らされていた。
だからこそ…前に進むしかない。
洞窟の中は冬の冷気もあり冷たい
指先の感覚がじわじわとなくなる。
異形だけでなく…環境も危険だった。
寒くて凍えそうな時
火の魔法を使う異形を見て思わず
暖を取るためにわざと食らって燃えた。
皆には心配された。
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やがて奥に進むにつれ二人の疲労が濃くなる
「こんな広さじゃ、一生見つからねェぞ…」
進んでは行き止まり、進んでは行き止まり…
アスノは俺が指揮を執ると言い先頭を歩くも
なんか同じような道を
行ったり来たりしているような…
景色は変わった気がしない。
双竜組を出てから戦いっぱなしだった
不死の僕はなんとか大丈夫だが
早くしないと二人が限界を迎えてしまう。
(…何か僕にできることはないのか)
役に立ちたい一心だった
何も出来ないどころか
足を引っ張っているような自分に腹が立った。
───そのときだった。
不意に、僕の中の何かが変わった気がした。
かすかな匂いを感じる
湿った土と岩の匂いに紛れた、別の匂い。
(…鉄…?)
匂いだけじゃなく
目を閉じれば指先にまで感覚が広がった。
まだ触れていないはずの剣の重み…
頭の中で何かが弾ける。
「…こっちだ」
思わず声が漏れた。
二人は不思議そうな顔で見つめる
鉄の匂いがした…なんて自分でも
何を言っているかよくわからなかったが
確信はあった。
(これは夜叉の能力…五感の…?)
ようやく自分だけの武器がひとつできた気がして
ただ純粋に嬉しかった。
嗅覚の示す道を歩く
通路を抜けた先、薄暗い広間に足を踏み入れる。
現れたのは人型の異形。
その手には
"センニンギリ"と見られる刀があった
暗い洞窟の中で、光っていた。




