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ReBlood.N  作者: 毎日がメスガキに敗北生活
傷だらけの子供達
34/45

ep.34 "夕食の時間"

ゲイルは止まらない。


止まるどころか

放たれる一撃一撃の重さは

さっきよりも明らかに増していた。


アスノはかすれた声で呟く

「ゲイルに…デカい隙ができねェと…」


いくら攻撃を叩き込んでも

体勢こそ崩しはするがすぐに立ち上がる。


積み重ねているはずなのに

倒れる気配がない…


細かい攻撃を重ね続けるしか勝ち目はない

頭では分かっている

だが…

アスノとロジェロの動きは

目に見えて鈍り始めていた

息は荒く、技にもさっきまでのキレがない。


戦況は悪くなる一方だった。


ロジェロは歯を噛みしめ

それでも前へ出る。


"桜閃"

地面を蹴り、一気に懐へ潜り込む

鋭い一閃がゲイルを斬り裂こうとした

だが、その動きはすでに見切られていた。


ゲイルの手が素早く伸び

ロジェロの頭を鷲掴みにする。


「ぐっ…!」


ロジェロの足が、地面から浮いた。


拳を構えるゲイル

その一撃で終わらせるつもりなのか

いつもよりも拳が強く握られている。


判断より先に体が動く

僕は地面を蹴り、跳躍した。


異鎧浸蝕した足でゲイルの腕を蹴る

だが…ロジェロの頭を掴んだ手は

ビクともしない。


「離せよ…!」


連続で蹴りを叩き込む

鼓動が警告を鳴らすように早くなる。


(止めないと…目の前で…仲間を失う…!)


何度蹴りを入れてもゲイルの腕は緩まない

むしろ拳に込められた力は

どんどん増していく。


次の瞬間…

僕ごと、ロジェロに向けて

ゲイルの拳が振り抜かれた。


衝撃が全身を貫く

吸収しきれなかった力が

背後のロジェロにもそのまま伝わり

二人まとめて、瓦礫の山へと吹き飛ばされた。


体はすぐに再生を始める

だがロジェロは…そのまま動かなくなった。


かすかに息はあるが、意識が飛んでいる。


(ロジェロ…!)


僕が顔を上げたときには

ゲイルはゆっくりとアスノへ向かっていた。


巨体が静かに一歩ずつ近づいていく

そして、再びあの構えを取った。


"虎牙拳"


「っ…!」


アスノの喉がごくりと鳴る。


僕は瓦礫の中から跳び出す

立ち上る砂埃を突き破り

ゲイルの側頭部めがけて回し蹴りを叩き込む。


「アスノ、逃げろッ!!」


叫びながらゲイルの正面へ回り込み

前蹴りを放つ

同時に"虎牙拳"が放たれた。


ゼロ距離で食らった僕の体は

破裂したかのように壊れ

空中へ弾き飛ばされる。


地面を何度も転がる

止まった頃には

体はもう再生を始めていた。


ゲイルは止まらない。


僕が再生するより速く

すでに二撃目の"虎牙拳"の構えに入っていた。


再生が終わらぬうちに

無理やり体を起こし、また飛びかかる。

その瞬間…また一撃。


再生した直後の体は、再度粉々にされる。


ゲイルは

距離を取るアスノをゆっくりと追いかけながら

その片手間のような感覚で"虎牙拳"を放ち

止めようとする僕を

何度も何度も吹き飛ばしていく。


回し蹴りを顔に入れても

拳で顔を殴っても

飛び蹴りで顎に当てても


そのたびに"虎牙拳"で僕の体は弾かれ

砕かれ…吹き飛ばされる。


そんな繰り返しが、延々と続く…

アスノは、その光景を見て息を呑む。


僕が粉々にされても

すぐに立ち上がることは分かっている

それでも、見ていられないのだろう。


アスノは、拳を握りしめる。


"双竜拳"…!


震える足を前へ踏み出し

血に濡れた拳を固く握り、構えを取る。


「アスノ…僕ごと放て!」


「シル坊…」


アスノは迷いを一瞬で飲み込む

僕の覚悟を、言葉もなく受け取る。


踏み込みと同時に"双竜拳"が放たれる。


僕の背中へ直撃する衝撃

それは僕の体で吸収されることなく

そのまま後ろのゲイルへ走った。


ゲイルの巨体が大きく後ろにのけぞる


だが…それでもまだ止まらない

よろめきながらもすぐに体勢を立て直し

再び"虎牙拳"の構えに戻っていく。


そして、無言のままアスノの元へ歩み寄り

その頭を片手で掴んだ。


「っ…!」


アスノの体から力が抜ける

振りほどきたくても、体が動かない

握り潰される拳を、ただ待つしかできない。


僕はまたそれを止めようとして

再生したばかりの体で飛びかかる。


蹴りを入れ…

肩を殴り…腕を殴る。


それでも、やはりゲイルは止まらない。


拳がゆっくりと引かれ

アスノの頭目がけて

振り下ろされようとしたそのとき。


「ゲイル…!

その手を…下ろすんじゃ…!」

かすれた声が戦場に割り込んだ。


それはカナだった。


さっきまで動かなかったはずのカナが

傷を負いながらも立ち上がっていた。


その姿は、見てわかるほど限界を超えている

足元はふらつき、服は血で染まっていた。


それでも…

カナの目は真っ直ぐにゲイルを見つめていた。


ゲイルの拳が止まる

アスノの頭を掴んでいた手からも力が抜けた。


アスノは崩れるように地面へ落ちる。


「ゲイル…戻ってこい…!

お前は…戦いたくないんじゃろ…!」

カナは、震える声で言葉を投げる


すると…


ゲイルの目から一筋の涙が落ちた。


だが次の瞬間、ゲイルは歯ぎしりを始める

拳を握る力がぎりぎりと強くなっていく

頭の中で何かと戦っているのが

見ているだけで分かった。


内側から何かに

押し潰されそうになっているかのようだ。


「カ…ナ…」


ゲイルの口から発せられた二文字

カナの目に涙がにじむ。


ゲイルは頭を押さえながら

ふらふらとカナのほうへ歩き始める。


カナもまた、ゲイルへ向かって歩き出した。


「カナ!危険だ!」

アスノが叫ぶ。


それでもカナは歩みを止めない。


「ゲイル…!内なる力に負けるな…!

また家に帰って…平和に二人で…暮らすんじゃ…!」


カナは涙を流しながら

心にぶつけるように叫ぶ。


「ウア…ア、ア、ア……」

ゲイルが呻く

両手で頭を抱え、膝をつく。


あと数歩

互いの手が届く距離まで近づいたその瞬間…


ゲイルの表情から、また感情が消えた。


目から光が抜け落ち

暴走していたときと同じ…虚ろな目になる。


そして

カナの目の前で"虎牙拳"の構えを取った。


「ゲイルウウウウウウ!!」

アスノの絶叫が響く。


カナを守らなくては

その一心で僕は地面を蹴った

足で地面を砕き、火花を散らしながら

カナの身代わりに前へ飛び出す。


僕の視界に、ゲイルの拳が迫る。


間に合った…そう思った。


放たれた"虎牙拳"は

僕の体を真正面から貫いた

そしてそのまま

──背後のカナへも届いてしまった。


時間が、ゆっくりになったように感じる

僕の胸を抜けた拳が、カナに当たる

カナの体が大きく後ろへ吹き飛ぶ。


地面に叩きつけられ

血を吐き、その場に崩れ落ちた。


僕とアスノは

現実とは思えない光景を前に

理解が追いつかない顔でカナを見つめていた。


「カナ!!」

アスノが走り出す。


僕も再生しながらカナの元へ駆け寄った。


カナは微かに息をしていた

喉の奥から、かすれた声が漏れる。


「…ゲイ…ル…」


まだ生きている

だが、このままでは…

血の匂いが強すぎる

体温も、どんどん下がっていくように見える。


「カナ、しっかりしろ…!」

アスノが震える手で必死に呼びかける。


ゲイルはその場に膝をつき

頭を抱えてうずくまっていた。


「…ッ…!」


声にならない声を漏らし

爪が食い込むほど頭を掴み

自分自身と戦っている。


拳を握りしめたまま

地面を殴ることも、泣き叫ぶこともできない。


自分の手で

大切なものを傷つけたという現実に…

抗うように、のたうち回っていた。


アスノが静かに立ち上がる

その目に迷いはなく、何かを覚悟していた。


「アスノ…?」


(大きな隙…やるなら今しかねェ)


無言のまま、ゲイルの正面へと歩み出る。


「アスノ!!」


(過去に双竜と虎牙の抗争を終わらせた技…)


(その時の頭ゼファーも…

同じように暴走してたのだろうか…?)


(もしそうならこの技…

今のゲイルにも、届くはずだ…)


アスノはのたうつゲイルの前で構えを取る

その構えは…ツワブキから継承した技。


───"竜虎覇道"


まだ未完成の奥義

だが、言い訳をしていられる状況ではない。


決めるなら…今しかない。


深く腰を落とす

アスノの瞳に竜のような光が宿り

握り締めた拳に、血がにじむ。


腰を覆う異形の皮膚が軋み

地面に根を張ったかのように

アスノの身体はどっしりと大地を捉えていた。


「ゲイル…そろそろ…」


地面が鳴り、空気が震えた。


「夕食の時間だぜ…!」


(戻ってこい…!)


轟音と閃光が重なり

アスノの拳から力が解き放たれた。


"竜 虎 覇 道"


その一撃は

雷鳴の轟を纏った竜と

灼熱の咆哮を背負った虎が

同時に吠えながら

前方へと突き抜けていくように見えた。


雷竜は体の内側の"暴走"を貫く

炎虎は体の外側の異形の肌を焼き切る。


相容れぬ二つの存在が

この瞬間だけは並び立ち一つの敵を貫く


巨体が大きく揺れ、

その全身から、一気に力が抜けていく。


ゲイルはそのまま…地面へと崩れ落ちた。

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