ep.33 "止まらない破壊"
足が"異鎧浸蝕"により
黒くざらついた皮膚が足を覆い
さっきまでの自分の足とは
まるで別物になっていた。
そこから繰り出される跳躍力は
桁違いの力が宿っていた。
僕は地面を強く蹴りつける
高く飛び上がり
そのまま体をひねって回し蹴りを放つ。
しかしゲイルの"異鎧浸蝕"の腕が素早く上がり
受け止められる
だが、確かに今までより
攻撃にはっきりとした手応えがあった。
着地と同時に
ロジェロが後ろからゲイルへと斬りかかる。
"蓮撃"
がら空きの背中へ連続の斬撃を放つ
華麗な剣の軌道が
何度も何度もゲイルの背を打つ。
刃はやはり浅くしか入らない
細い傷が刻まれるだけだ。
(シルまで異形の肌を…
…置いていかれてたまるか…!)
ゲイルの視線がロジェロのほうへ向く。
ほんの一瞬、僕から意識が逸れたその隙を
アスノは逃さなかった。
"双竜拳"
踏み込みと同時に一撃を叩き込む。
鈍い音とともに
ゲイルの体がわずかに後ろへよろめく。
ロジェロはゲイルからの攻撃を
桜閃で紙一重に躱しながら駆け巡る
大振りの拳をすれすれで避け
その度に体に細かく斬りつけていく。
アスノの拳と僕の足、そしてロジェロの斬撃
三方向からの攻撃が
途切れなくゲイルへ襲いかかる。
ゲイルは腕と肩で攻撃を受けながらも
完全には捌ききれていない。
うっすらと切り傷が増えていく。
少しずつだが
ゲイルにもダメージが蓄積されている
…そう感じた
ゲイルの打撃が
アスノの顔面をとらえる
鈍い音がして、アスノの体が崩れる
だが崩れながらも足払いを放つ。
ゲイルの軸足が払われ、巨体が一瞬宙に浮く
その顔面へ僕の蹴りが突き刺さった
ゲイルの体は地面を転がった。
しかし、安堵する間もなく
ゲイルはすぐに立ち上がる。
そのとき。
建物が、軋み不気味な音を立て始める。
「ロジェロ…この塔」
「…ああ。
いつ建てられたかわからん古塔だ。
じきに崩れそうだな…」
壁には大きな亀裂が走り
天井から砂と小石がぱらぱらと降ってくる。
「外へ出るかァ…」
アスノが言う。
この塔は廃墟
各部は老朽化している
そこにここまでの激しい戦いがとどめを刺し
ついに、限界を迎えかけている。
…そう口にした途端、まるで言霊のように
下の階から大きな音が響き、部屋が傾く。
「言ってるそばから崩れ始めたぞォ!」
「みんな!カナを抱えて、僕の背中に乗れ!」
僕は叫ぶ。
アスノはカナをしっかりと抱きしめ
ロジェロと一緒に僕の背中に飛び乗った。
「大丈夫か!?本当にやれんのかァ!?」
「…やるしかない!」
僕は足を強く踏み込み壁際へと走る
戦いで生まれた亀裂を蹴り
破砕して脱出口に変える。
地上六階分の高さの塔…
そこから見下ろすバーサの町は小さく見えた。
僕は迷わず外へ飛び出す。
「うおおおおおおォ!!」
全員の声が混じった叫びが、風に飲まれる。
僕は足に落下の衝撃を受け止める力を込める
地面が迫る…
背後では塔の根元から崩れ始めているのが見えた。
ドスン!!
大きな音を立てて
僕の足が地面を殴りつける
衝撃は予想以上だった。
受け止めきれず
僕はそのまま前のめりに転がり
背中に乗っていた皆が
地面を転がっていく。
"異鎧浸蝕"した足が
衝撃の大部分を引き受けてくれており
なんとか無事に外へ出ることが出来た。
背後では塔が大きな音を立てて崩れていく
上層から下へと連鎖的に崩れ落ち
砂埃が一気に舞い上がった。
崩れた瓦礫の中からはゲイルが現れる。
塔の崩壊をまともに食らったせいか
その体は傷だらけだ。
それでも、暴走は続いている
アスノはカナを木陰へそっと下ろす。
「さァ…気ィ引き締めてくぞ!」
そう言って、再び構えを取る
戦いはまだ終わっていない
ゲイルに止まる気配は、微塵もなかった。
ロジェロが一番にゲイルの元へと走る
関節部分を狙い集中攻撃を浴びせる
刃が関節をかすめるが、やはり傷は浅い。
攻撃の途中、ゲイルの手が伸び
ロジェロの剣が、がっちりと掴まれる
そのまま剣ごと振り回され地面へ叩きつけられる。
僕は跳躍する
勢いを乗せた前蹴りをゲイルの胸めがけて放つ
その蹴りも、ゲイルには片手で止められてしまうが
「アスノ!」
「応!」
アスノが僕の影から現れる
そして僕の"足"を殴った。
足先にアスノの拳の衝撃が加わる…
僕の蹴りは
さらに一段階深くゲイルの防御を押し込んだ。
ゲイルの手が弾かれ
その顔面へと足がめり込み、首が横に傾く。
僕の足は砕けるが、すぐに再生する。
三人がかりでようやく互角
いや、それでもまだ押されぎみだ…
ゲイルの強さは圧倒的だった。
終わりの見えない敵
いくら攻撃を叩き込んでも
ひたすらに巨大な岩を殴り続けているような
先の見えない戦い。
次第に、アスノもロジェロも
明らかに動きが鈍っていく…
動き続けたせいで、限界は近い。
(僕が…やらないと…)
焦りが込み上げる。
そんな中
アスノが再度"双竜拳"を放とうと
踏み込んだその時。
ゲイルが、ふいに謎の構えをとった。
「…あれは…"虎牙拳"…!」
アスノが血の滲む口を拭い呟く。
ゲイルには戦いの経験がないはずだが
本能が無意識に、その型を取っていた
(あれ…これ、当たったらやべェやつか…)
直感で理解するも
その圧に思わず体が竦むアスノ。
「アスノ!」
僕の体が動く
"異鎧浸蝕"の足に全力を込め
アスノに突進し、攻撃を身代わりに受ける。
拳が振り抜かれ僕の腹に突き刺さる
骨が砕け、臓器が潰される感覚が
はっきりと分かった。
「シル坊…大丈夫か!?」
「…大丈夫だ…だけど…」
息を整えながら
僕はゲイルをにらみつける。
「…まだ…強くなるのか…」
ゲイルは、なお拳を構え直していた。




