表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ReBlood.N  作者: 毎日がメスガキに敗北生活
山頂の四季
18/39

ep.18 "凍てつく弾丸"

時間はロジェロが解呪異形と交戦するより

少し前、地下一階。


「…こっち。僅かに血の匂いがする…」

ユーリの鼻が動く

鋭い嗅覚が空気に残る

微かな匂いを拾い上げていた。

「ママの…それとも…?」


ゼラは大剣を担ぎ、ユーリの後を走る。


館の奥まった場所に扉がひとつ

周囲の空気が重く、異質な気配を放っている。


「マリーの情報だと、地下二階にいくには

どこかの部屋を経由しないといけない

…この部屋か!」


ゼラは一度深く呼吸すると

躊躇なく全力で扉に突進した。


広い部屋だった

中心にひとりの男が立っている。


伸びた無精髭、目の下の濃いクマ

豪華な服を好むブラムとは真逆の

ボロ布を重ねたような格好。


しかし怠そうな佇まいの奥から

只者では無いオーラが伝わってくる

血と鉄と…薬品のような刺す匂いに

ユーリが顔をしかめる。


「きたかァ-…反逆者…」

男は気だるげに呟いた。


そいつはアゴニと名乗る

元・死刑囚の大量殺人鬼。


(こんなやつを護衛に雇ってやがるのか…)

ブラムの腐り具合に、ゼラは静かに怒る。


もし檻から出たこいつが町に向かえば

被害は計り知れない。


「めんどくせぇー仕事だけど…

給料がいいんだ、悪く思うなよー…」


そう言ってアゴニは

服の中から「何か」を抜き取った。


(なんだ…あれは…?)


手のひらに収まる奇妙な鉄の道具。


片手で握る柄の先に前方を向いた短い鉄の筒

柄の内側には指一本分の輪があり(引き金)

そこを引き絞れば…


「見せてやるよー…」


アゴニが引き金を引いた。


耳を殴りつけるような鈍い破裂音

その瞬間

床に金属の塊がめり込み欠片が飛び散った。


あんなもの、一発でも食らえば

人間の体なんてひとたまりもない。


「あーあー…

説明のために無駄玉使っちまったよ…

高ェのにー…

テメェら二人分の死で弁償してもらうか…」


アゴニは舌打ちしながら

服の内側から同じ武器をもう一丁引き抜く

両手で構え、迷いなく引き金を絞る。


「ゼラ!」


ユーリが叫び

風のような速さで身を挺して弾丸を避ける

だがゼラは反応が遅れ肩に衝撃が走った。


鉛の弾丸が体にめり込む

血が弾け飛ぶ。


「あっと…言い忘れた…その弾には

花畑で取れた花から絞った

毒が使用されてンだ…」


「お前らの思い出の花畑だったらしいが…

スマねぇな。思い出と共に死んでくれや…」


アゴニは真顔で話す。


ズキズキと肩が焼けるように痛む

毒が肩から全身へじわじわと広がっていく感覚。


(この痛みじゃ大剣はまともに振れねぇ…

魔法で何とかするしか…!)


ゼラは歯を食いしばり片手で印を切る

地面に触れた足元から

氷の魔力が一気に広がった。


厚い氷の壁が立ち上がり

それを遮蔽物として身を隠す。


アゴニが片方の鉄の筒を氷へ向けて撃つ

鈍い音と共に、弾丸が氷に深くめり込んだ。


(厚みの半分以上めり込んでやがる…

なんて威力だ…!)


氷の壁の向こうでアゴニの足音が消える

上方から迫る気配。


「上だ!」

ゼラとユーリは直感的に左右へ飛び退った。


二発が

さっきまで二人の頭があった場所の地面を抉る。


片方はゼラのすぐ横を掠め…

もう片方はユーリの足を裂いた。


「ユーリ!」


「心配してる暇はないと思うぞー…」


ユーリは血の滲む足を抑えながらも

軽やかに走り続ける。


ゼラは再度氷の壁を作り弾丸を受け止める。


(攻撃の速度が異常だ…距離を詰めるどころか

防御だけで手一杯…)


刃物ではなく純粋な貫通の暴力

一度でも防ぎ損ねると本当に穴が空く。


弾は再度ゼラの肩を一本がかすめ

革の鎧ごと肉が裂けて血が飛び散った。


発砲の度に耳障りな音が響く

アゴニは体を捻りながら動き回り

氷の遮蔽物を回り込んでくる。


ユーリは走り続けているがいずれ体力が尽きる。


(あいつの動きを封じるしかない…)


ゼラはそう思い

床に手をつき、氷魔法を叩き込む

一瞬で地面全体に氷が走り

滑りやすい氷の床が広がる。


アゴニの足元が滑り体勢を崩すも

体幹でバランスを立て直した。


(威力の強い武器だが、弾は小さい

当てさせなければいい…)


ゼラは氷の滑走路を滑るように移動を始める。


氷の遮蔽物を盾にしながら滑り

敵の視線、銃口の向きを見ながら

少しずつ距離を詰める。


氷の生成で魔力の消耗は激しい

早めに決着をつけなければならない。


「ユーリ!逃げ回れ!俺がやる!」


ゼラは再び床を蹴り、氷の上を滑り出す。


片手を前へ突き出すと

その前に小さな氷の粒が生成される。


「無駄玉は返してやるよ!」


ゼラは握った拳から

人差し指だけを弾くように突き出した。

それに合わせて

氷の礫が弾丸のような速度でアゴニへと飛ぶ。


アゴニも負けじと引き金を引く

銃弾と氷弾は空中で軌道を逸らし合い

床と壁にめり込む。


肩がズキズキと痛む

腕が重い…それでも…母さんを取り戻すんだ…!


滑りながら軌道を変え

円を描くようにアゴニの周囲を回り始める

ゼラの手元で氷弾が次々と生成される。


アゴニは身体を捻りながら氷弾を躱し

左右の銃を交互に撃つ。


銃弾が氷弾を撃ち砕く

弾丸は勢いそのままに皮膚を裂き血を散らす。


「クソッ…!」


歯を食いしばりながら

今度は大きな氷塊を生成する


「そんなデカブツが当たるかよォー…!」

アゴニは氷塊を軽々しく避ける


ゼラは遮蔽物を利用しながら左右交互に

色んな角度から滑り照準を上手く狂わせ続ける。


「躱してばっかじゃあ終わらねぇぞぉー…!」


アゴニは服からもう一丁 鉄の武器を手に取る

その指先から漂う殺気の匂いを

走り回っていたユーリが察知した。


「ゼラ、足元!」


忠告と同時にゼラは足を引く

地面に弾丸がめり込む


「…厄介な鼻がいるな…」


アゴニはゼラを牽制するように

氷壁へ数発撃ち込むと

もう片方をユーリへと向ける。


破裂音…

ユーリは避けきれず腹に一発を受ける

血が飛び散る。


「ユーリ!」


ニヤリと笑うアゴニ


(標的がユーリに移動してしまった…すまない…

今しかない!)


ゼラは次の瞬間、全く逆の属性…

炎魔法を床へ叩き込んだ。


氷の床が一気に溶け、白い蒸気を上げる

熱せられた水が揺らめきながら立ち上る。


この部屋の天井や壁にはさっきまでの戦いで

飛び散った氷弾が無数に張り付き

空気全体が冷えている。


そこへ蒸気がぶつかった。


冷えた空気に触れた蒸気が一気に凝結し

細かな水滴へと変わっていく。


あっという間に、部屋が白い濃霧で満たされた。


「俺はな、朝に風呂を済ませる派でよ」


「標高の高ぇとこの朝はクソ寒くてな──

毎日、白い霧がかかって前なんざろくに見えねぇ」


「…目眩ましには十分だろ?」

ゼラはニヤっと笑う。


「…クソっ…前が見えねぇ…!」


「ゼラ…!そこにいる!」

ユーリの嗅覚は視界を奪われても機能を失わない

火薬、鉄、血

…その匂いの濃さで

位置を感じ取ることができる。


白い霧の中から、ゼラの氷魔法が炸裂する

遠慮しない…小さい粒ではなく

その一撃に全てを込めたような威力。


「…がっ…」


アゴニの血が飛び散る。

視界は白い。弾はこっちを捉えられない。


「俺たちの…勝ちだな」


~~~~~~~~~~


ゼラは、アゴニの胸ぐらを掴み上げた

…解毒剤を出せ


アゴニはニヤリと笑う。

「そんなもん…持ってねぇよ…」

「お前らは…

毒でもうじき死ぬ…だが安心しな…」


絞り出すような声で、吐き捨てる。


「大好きなツワブキってやつと

同じところに行けるんだからよ…!」


ゼラの頭が真っ白になる

「テメェ…ふざけんな!」


その瞬間

足元の石床に、亀裂が走った。


全員が困惑する


次の瞬間

地面をぶち破り穴の中から飛び出したのは

怒りに顔を染めた、ツワブキだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ