表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『天使と紫の炎』  作者: Bro_Be_Like_83
第4部 — 優しきヴォルタ王国および氷霜のエーテル王国における数多の戦闘。
72/73

チャプター62 ― 『紫の炎』と呼ばれるもの

読者の皆様へ!


しばらく更新が止まってしまい、本当に申し訳ありませんでした!体調を崩してしまっていたことに加え、物語の章構成についても色々と考え直していました。


ですが、今はしっかり回復し、状況も落ち着いています!これからは以前よりも安定したペースで、しっかり更新を再開していく予定です!


お待ちいただいた皆様、本当にありがとうございます!今後ともどうぞよろしくお願いします :)


よろしくお願いします!

アンジェリーナが去ってから、一時間が過ぎていた。

静かで澄んだ夜が、ヴォルタの中央にある大噴水をやさしい月光で包み込んでいる。

俺は石の縁に腰掛けたまま、水面に揺れる反射を眺めていた。

それはまるで、思考の奥に漂う紫の残光のようだった。


やがて――

衣擦れの音。軽やかな足音。

そして、聞き慣れた声。


「エンジェル……」


俺は顔を上げる。


アンジェリーナがこちらへ歩いてくる。

その後ろには、六つの影。


並んで歩く彼女たちの黒と紫のドレスが、夜風にやわらかく揺れる。

まるで夢の中から現れた影のように。


数メートル手前で、彼女たちは揃って足を止めた。

アンジェリーナが一歩前に出る。

その笑顔は、思わず目を細めたくなるほどだった。


「連れてきたわ。あなたの望んだ通りに」


俺はゆっくりと立ち上がる。


彼女たちの視線が、いっせいにこちらへ向けられる。

そこにあったのは、さまざまな感情――

敬意、親しみ、期待……そして何より、深く燃えるような想い。


アンジェリーナは一歩引き、場を譲る。


最初に前へ出たのはステラだった。

肩に落ちる茶色の髪に、左目を隠す一房。

視線を合わせようとせず、頬は赤く染まっている。


「エ、エンジェル……呼んだの?」


「ああ、ステラ。来てくれてありがとう」


彼女は胸の前で手を握りしめる。

淡い青の瞳が、わずかに揺れていた。


「あなたのためなら……大陸の端でも行くって、知ってるでしょ?」


俺は小さく笑う。


「ああ、知ってる」

「だから、お前を信じてる」


ステラは顔を真っ赤にして、一歩下がった。


代わりに前へ出たのはローザ。

小柄で、しなやかで、どこか気品を漂わせている。


軽く頭を下げるその仕草は、自然な優雅さを感じさせた。


「相変わらずね、エンジェル」


「ローザもな」

「何も言わずに場を支配する、その感じ」


彼女はくすっと笑う。


「誰かが抑え役をやらないと、ね?」


小さな笑いが、場に広がる。


次に進み出たのはオーレリア。

長身で、細く引き締まった体。

濃い青の髪が、地面に触れそうなほど長い。


冷たく気高いその瞳が、俺を見た瞬間、わずかに柔らいだ。


「エンジェル」


「オーレリア」


「やっぱりね」

「あなたが何もせずに終わるはずがないと思ってた」


「よく分かってるな」


彼女は腕を組み、口元にかすかな笑みを浮かべる。


「で? 今回はどんな“無茶”に付き合わされるのかしら?」


「戦争じゃない」

「夢だ」


その言葉に、彼女の表情が一瞬固まり――

ゆっくりと、頷いた。


「ならいいわ」

「その夢、最後まで付き合う」


ルナが静かに歩み出る。

夜のように深い青の髪が、風に揺れていた。


俺の掌に灯した炎を見つめ、彼女の瞳がわずかに輝く。


「……綺麗」


「これは、これからの象徴だ」


ルナは迷いなく俺の手に触れた。


「なら……私は影になる」

「あなたが望むなら、光にも」


「ルナは昔から自由だな」


彼女は微笑む。

静かで、どこか妖しさを帯びた優しさ。


次はクララ。

軽やかな足取りで近づき、少し首を傾ける。


黒髪が月光を反射し、赤みを帯びた瞳が静かにこちらを見る。


「これが、アンジェリーナの言ってた計画?」


「ああ。俺たちの組織だ」


「消えない炎、ね」


「そうだ」


クララはそっと俺の腕に触れる。


「なら……私が見張ってあげる」

「絶対に消えないように」


最後にミアが歩み出た。

柔らかな金髪と、澄んだ青の瞳。

落ち着いた微笑みが浮かんでいる。


「少し見ない間に……大きくなったわね、エンジェル」


「まだ十四だぞ、俺」


「年齢の話じゃないの」

彼女は優しく笑う。


そっと手を伸ばし、頬に触れた。


「あなたの“目”が変わったの」

「前よりずっと……強くなってる」


俺は静かに彼女を見返す。


「……ありがとう、ミア」


「ふふ」

彼女は優しく目を細める。


「今日はね、“理性”じゃなくて“心”で動くって決めたの」


アンジェリーナが、再び俺の隣に戻る。

胸の前で手を合わせ、静かに言った。


「全員揃ったわ、エンジェル」

「私たちの……家族」


俺は一人ひとりを見渡す。

その表情、その視線、その想い。


ゆっくりと右手を上げる。


紫の炎が再び生まれ、夜の中で静かに揺らめいた。


「――今日から」

「俺たちは、一つの意志になる」


一歩、前へ踏み出す。

風が包帯を揺らした。


「名は――『紫の炎』」

「闇の中で燃え、光を失った者たちを照らす存在だ」


アンジェリーナが小さく呟く。


「……紫の炎」


ステラは目を輝かせる。


「すごく……綺麗」


オーレリアは腕を組み、満足げに笑う。


「なら、その炎……絶やさないことね」


俺は静かに手を閉じた。


炎はほどけるように広がり、無数の光となって夜へ散る。

それはまるで、静かな祝福のように――


彼女たちの髪へ、ドレスへ、そっと降り注いだ。


「――ようこそ」


俺は静かに告げる。


「俺の炎たち」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


七人は、まるで一つの意志に導かれるように、静かに頭を垂れた。

その動きには一切の乱れがなく、完璧な調和があった。


――そして俺は、はっきりと感じていた。

今この瞬間、世界は“何か”の誕生を目撃したのだと。

それは決して朽ちることのない、ひとつの強い意志だった。


月光が広場を淡く照らす。

七人の少女たちが、俺の前に並び立つ。

その視線は、俺の手の中で揺れる「紫の炎」へと注がれていた。


鼓動が、伝わってくる。

七つの心が、ひとつのリズムで鳴っている。


期待。希望。

そして――純粋な願い。


強くなりたい。

俺のために。


俺はゆっくりと顔を上げた。


「……準備はいいか?」


アンジェリーナが静かに頷く。

それに続くように、他の六人も頷いた。


俺は一歩、前へ。


視線の先にいたのは――ミア。


彼女の呼吸が、わずかに乱れる。

だがその瞳は揺らがない。

風が、彼女の柔らかな金髪を揺らしていた。


俺は手を差し出す。

掌の中で、炎が優しく揺れる。


「ミア……」

「リリスの七女の血を継ぐ者」


彼女の目が大きく見開かれる。


「……知ってたの?」


俺は、ほんのわずかに微笑んだ。


「いろいろなことをな」

「だが何より――お前の心が、誰よりも澄んでいることを」


ゆっくりと、その手を重ねる。


炎が、静かに分かたれる。

ひとつの小さな光の球となり、彼女の掌へと落ちた。


それは――どこまでも優しい光だった。


荒々しさも、激しさもない。

ただ、包み込むような温もり。


「これは……可憐の炎」

「“優しさ”を司る火だ」


俺は静かに告げる。


「世界を癒やすために使え」


ミアは、その光を見つめたまま動かない。

やがて深く息を吸い込み――


ゆっくりと、膝をついた。


「……誓うわ、エンジェル」

「この光を……世界に広げるって」

「あなたのために……そして、私たちのために」


光が、彼女の中へと溶けていく。


紫の輝きが、柔らかく彼女を包み込んだ。

それは熱ではなく――安らぎ。


彼女の瞳が、一瞬だけアメジストのように輝く。


後ろで、アンジェリーナが小さく息を呑む。


「……綺麗……」


ミアはゆっくりと立ち上がった。


その表情は、先ほどとは違う。

どこまでも穏やかで――揺るがない静けさを宿している。


まるで、その魂そのものが洗い流されたかのように。


「……ようこそ」

俺は静かに告げる。


「“紫の炎”へ、ミア」


彼女はそっと頷き、優しく微笑んだ。


「ありがとう……私の天使」 


その瞬間、空気が変わる。


残る六人の視線が、一斉に俺へと向けられた。


ローザ。

ステラ。

オーレリア。

ルナ。

クララ。

そして――アンジェリーナ。


誰もが同じ熱を宿している。


欲しているのは、力だけではない。

繋がり。

証。

そして――俺との絆。


俺はゆっくりと彼女たちを見渡した。


夜の静寂の中で、声が自然と響く。


「――次は」


ほんのわずか、間を置いて。


「誰だ?」


言葉よりも早く――


彼女たちの足が前へ出る。


月光の中で、その瞳が強く輝いた。


すでに分かっていた。

その胸の奥で、炎は芽吹いている。


あとは――


この炎を、灯すだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ