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藤川菜乃花は喋れない 。  作者: 白咲 名誉
第三章 やりきれない程の切ない秋祭りと二人の温度。
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第三話 【信じてる】

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第三章 第三話



 土曜日から何もせず部屋にいた。大好きだった映画を観たいと思えず、レンタルビデオ店に赴こうとしなかった。結局、何がしたいのか、結論を見出せずにいる。



 「暇だな」ポツリ部屋で嘆く。日曜の昼過ぎは時間の進みが鈍くなる。



 勉強机に座って天井を眺めて目を閉じた。唯一これからの行動の予定を立てた。



月曜日から少し遅い時間に家を出よう。綾瀬には先に行ってもらう。それは、菜乃花と教室で鉢合わせるのをなるべく避けたかったから。




 学校にいつもより遅く着くと教室に菜乃花がいる。そして朝早くから自分の机の上で一日の授業を予習をしているはずだ。



 彼女が学校に来ない日なんてない。なら居合わせるのは仕方がないからこそ少しでも顔を合わせる時間を減らすしか手はない。



  朝礼前、クラスの人たちが揃い始めたら和山匠かずやまたくみも到着する。あいつはいつも明るい奴で、おはようからさようならまで終始笑っていて、固定の生徒と仲良くしている。



そんな楽しそうにしている姿を彼女は傍目から見ているのかな。




俺は菜乃花が愛おしそうに眺めているのを目撃して1週間は終わる。楽しいことなんて何1つない。



「生きてて楽しいのかこれ」



 ふと、和山の事を思い出した。あいつは嫌な奴じゃない。口を揃えてこの学校に在学しているならいうだろう。俺も嫌いではない。そうはっきりと俺が思えたのは今年の体育大会の時だった。真夏の蒸し暑い空気は両組とも項垂れていて、奮起する気力がなかった。そんなダメなムードに



「いくぞー!」



と和山が先頭に立ってクラスの士気を上げていた。3年のリーダーを押し退けてチームの1人1人にハイタッチをする。力強く叩かれて痛かった。



 どの学年にも1人いる冴えない奴にも同じ出力で元気を振り撒く姿に好印象を持てた。しかもあいつは学校の行事にのみ、やる気を出しているんじゃない。ああいうことを常日頃からやってのける。だから、誰だってあいつを好きになれた。

 


 清潔感のある短髪と少しだけイキがったのかもみあげ部分を刈り上げている。そんな背伸びしているのもあいつの良さでもある。



「俺も型枠だけでも取り繕えたなら、学校で少しは楽しめるかな」



 悔しいが憧れる。開き切った差を埋められる努力量に見合うには何をしたらいいのか・・・・・・。その時、菜乃花の顔を思い描いていた。



 いつの間にか寝ていた。気がついたら携帯電話から着信が鳴っている。赤色がメインカラーのヒーロー集合のBGMが喧しい。



眠気混じりの声で応答すると



「よー、寝てる時にごめんな。今年の収秋祭でも出店するんだけど、人手が足りないから唯一と綾瀬の他に誰か頼んだら手伝ってくれる人いない?」



俊雄さんの軽快な声に俺は生返事で返す。



「あーいえば検討してくれそうな人が1人いるから相談してみるよ」



よろしくなーと俊雄さんが言い切った瞬間に通話を無理やり終わらせた。睡眠を続行させたくて布団に潜る。目を閉じても、もう目が冴えてしまった。



「腰がいったいなぁ」



難しい姿勢を維持し続けて身体が悲鳴をあげている。



 月曜日。午前の最後の授業が体育だった。バスケットボールが地面に叩かれる音を俺はステージの上で座って耳にする。



チーム編成はバレーと大体一緒なメンツ。俺や綾瀬、運動ができない他の人たちは除け者にされている。



 体育館に揃えられた生徒たちは眺めることしかさせてもらえない。暇を潰すため終始、和山の華麗なプレーを食い入るように見ていた。



味方に華麗なワンハンドパスを渡され、ぴんと張った右手から投げた球は力強く和山の胸に押し付けられる。



 両手で受け止めると勝つぞ、とでも意味ありげな目配せチームはする。壁が何人いても息が切れるまで、何度も振り払う。ゴールへと投げ入れ、ブザーは鳴り、試合終了。




 一連の流れが鮮やかすぎて和山と言う人間と俺自身の出来の違いを考えた。そして行き着く答えは俺には何もないことだけがはっきりと浮き彫りにされる。



際限なく溢れる嫉妬をし、こんな感情を持つことに苛ついた。







木曜日、二時限目の授業で学校祭についてクラス会議が開かれた。



「ねえ、どういうことよ、みんな分かってるの!?学校祭まで猶予は僅かよ。誰か意見しようとしないの!」



一林が悲鳴混じりで叫ぶ。大きい身振り手振りをして行事への熱意が自分にはあるのかを説明する。



クラスではみんな自分の膝をみて死んだように黙っていた。



 俺は肘を支柱にし頬を自分の手の平で押し付けて話を聞き流す。一林の言うことは全てが上澄みを汲み取っただけの熱弁だった。そんなものは飽き飽きしている。




「だから私はね、昨日思いついたことがあるの。学校祭ってさ、やっぱり模擬店と演劇だと思うのよ、だからその二つをやりましょうよ。演劇はシンデレラね」



続けて



「私がシンデレラで、匠が王子様ね」



‟わたし可愛いでしょ”というように責任を匠にも押し付けた。



 こいつの魂胆は演劇を出汁にして「顔の良い和山と自分」を披露して脚光を浴びたいだけ。そしていつものメンバーを頭数に入れれば青春ごっこの出来上がり。二人で仲良くなれる時間を作るために関わりの薄いクラスメイトは裏方へ配備。



一林の友達はその案について褒めていた。



「・・・・・・じゃあ、これに賛成の人は拍手でお願いしまーす」



 繰り返す拍手の音。そこに動いた感情はない。俺は和山の方に視線を向けると頬杖を掻いて呆れている顔をしていた。

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