幼児の盗賊退治(後編)
いつも死にかけルカ・バウアーです。
強盗団もどうせ入るなら、もっとお金の有る家に入れば良いのに!
内蔵をやられて半死半生です、
上の階からはガサゴソと家探しのおとが聞こえてきます。
勇者御一行様をお迎えした村人の気分を絶賛味わいつつも、
逃げる手がかりを求め目の前の盗賊のステータスを確認し・・
☆☆☆☆☆☆☆☆
『アレフ・ベアー』(24歳)
攻撃 :065(C)
職種:盗賊 LV15
【プロフィール(960~984)】
王都アンツを荒らした強盗団ベアー三兄弟の三男。
施設の頃からの夢であった絵本作家になるべく盗賊団を脱団した数日後に川で溺死体となり発見される。
被害者の遺族からの報復。または脱団を認めない団長に殺されたのではないかと言われている。
☆☆☆☆☆☆☆☆
えぇ、これは賭けなのですが、幸いな事に目前の男は盗賊団を抜けたがってます。
そして私に使えるスキルは『親の七光り』だけ。
このスキルが盗賊にどれだけ効果があるのかはわかりません。
この一年の経験で妹との実験で出来る事も分かって来ましたが、
『ガンガンいこうぜ』『命をだいじに』と出来るのは仲間への方向性の指示なのです。
でも、これって結局は
『気合いいれてこー!オー!』『先取点とるぞ!オー!』
とスポーツの掛け声に近い現実的なものだと思うのです。
『オウンゴールしろよ!オー』
と言われ実行するでしょうか。って言うか普通致しませんよね。
でも逃げるチャンスは他の2人の盗賊が居ない今しか有りません私はスキルの能力を発動すると全力で叫びます。
「おい、盗賊!絵本を描きたきゃ俺達を助けろ!それで団長は御用だ!」
「!?」
私は驚いた表情で固まる盗賊の横を妹の手を取り全力で駆け抜けます。
ですが既に遅かったのです!
扉を開けた目前には家探しを終えた2人の盗賊が仁王立ちしてるのです。
えぇ、この家って金目のものは何も有りませんしね。
「てめーら、何逃げ出そうとしてやがる!」
完全に聞かれてましたよ、盗賊達は鬼の形相でこちらに向かってきます。その怒りは盗賊にも向いています。
『アレフ死にたくなきゃ、殺し合え!』
スキルが効いていたのか裏切りから自棄になったのか、気が付いた時には盗賊のナイフは、目前の盗賊に深々と刺さっています。
そして盗賊は気勢をあげ腰の剣を抜きますが、あっさりと大男に返り討ちにされます。
大男は倒れた盗賊に唾を吐くと私を廊下の角に追い込み妹の襟首を掴むと目の前にほうり投げるのです。
「手間かけさせんな!前々から絵本がど―とか言ってやがったが・・こんな餓鬼に乗せられやがって!」
『ブルーノ・ベアー』(29歳)
攻撃 :091(A)
魔力 :002(F)
知力 :008(F)
職種:盗賊
LV24
HP :250
【プロフィール(955~984)】
王都アンツを荒らした強盗団のリーダー。ベアー三兄弟の長男。
親殺しのブルーノと言われ、養父にはじまり、職場の棟梁、暗黒街の兄貴分、と立て続けに殺し殺人狂として恐れられていたが当時暗黒街を仕切っていた大親分の王蘭に組織にとって危険と判断され処分されたと言う。
目の前の大男は強く、プロフィールからも助かる糸口は見つかりません。
親殺しの兄弟殺しですよ。
子供くらい殺しますよ。
そして大男は予想通りの言葉をはきます。
『あっばよ、餓鬼共!!』
大男が剣を振りかぶった瞬間、私は妹を庇うように覆いかぶさっていました。
これは人としての使命感?
もしくは人や動物が斬られる姿を見るのが嫌で逃避のようなものだったのかもしれません。例え犬や猫でも庇っていたかもしれません。
「お兄ちゃん!」
妹の叫び声と共に突然目の前が赤く染まったような錯覚を受けます。
えぇ、死ぬ時なんてこんな感じのものなのですね。
そして部屋には轟音が響きわり、その衝撃が背中を襲います。
バッタバタと背中に何かが当った後、頭上から得体のしれないモノが降りそそぎます。
恐くて確かめられなんかしませんよ。
目を開けた瞬間にシュレディンガーの猫如く現実が確定するのですから。
でも一時が流れ、恐る恐る降ってくるものの正体を確かめると。
そこに存在のは頭を失った大男であり
辺りの壁や背中には大男の肉片が飛び散っているのです。
脈打つ体からは激しく血が噴き出し私の顔を血で染めていき。
直後に、その原因に思い当り思わ叫んでいたのです
「竜神闘気!」
妹が産まれながらにもっていたスキルです。
カススキルしか持たない私と違い妹には確かに兇悪なスキルがあったのです。
・竜神闘気(ランクS)
魔力を消費しオーラを生み出す。上位ドラゴンが取得しているスキルであり、ごく稀に人間でも取得する者が存在する。
いや、でも強すぎでしょ2歳ですよ、ダメージ処じゃない。
先ほどまで250ほどあったHPが0なのです。思わず苦い笑いがこみ上げてきました。
後に知った事ですが妹の竜神闘気は強すぎ、そして大男の魔力は弱すぎたのだそうです一撃でHPがなくなるくらいに。勿論、大男と大差ない私も受ければ木っ端微塵になる事でしょう。えぇ想像したく有りませんが。
この笑い声に妹はようやく事態に気がつきます
「ちゅごい、お兄ちゃんがたおしたの!?」
でも、それに答えるどころじゃなかったのです。
死んでも立ち尽くす大男に蹴り倒すと、その上を飛び越えて私は駆け出していました。
『ルカ・バウアー』
HP :1/20
えぇ、マジ・で、やばい。
すぐに隣の家へ助けを求め掛けこむと、
死にかけの私の姿に顔色を失う幼馴染のジェシカ・エデラーですが、直ぐに母親のローラ・エデラーが駆けつけて彼女に連れられ王国病院に緊急入院する事となります。
その時に貰った若干魔力をおびた薬草が無ければ私は死んでいたでしょう。
本当、この世界に回復系のものがあってよかったです。
ただ、妹を一人残して行った事で、
その後私はとんだ誤解を受ける事になるのです。
世紀の大悪党ルカ・バウアーの悪名の始まりです。