番外編∶『廃嫡された元皇太子様方から復縁の文が届きましたが、暖炉の薪にさせていただきましたわ』
「――ふふ、やはりエリオス様が選んでくださるお茶とスコーンは、いついただいても最高でございますわね」
学園の喧騒から離れた東屋。
磁器のティーカップを優雅に傾けながら、元・皇太子婚約者のシルビア様が嬉しそうに目を細めた。
「本当ですわ! 学園のカフェテリアでいただくより、こうして皆様でお喋りしながらいただくのが一番美味しく感じられますの」
エミリア様も楽しそうに頷き、クリスタ様と一緒にスコーンを小さく口に運ぶ。
三人の視線の先では、塩顔の闇魔法使い――そして侯爵家の嫡男であるエリオスが、リリアの隣で照れくさそうに紅茶を口に含んでいた。
「お気に召していただけて光栄です。リリアが『スコーンに合うお茶がいい』と言うので、我が家の文官に探させました」
「……まあ、エリオス様。『わたくしがおねだりした』かのような言い方はご遠慮いただけますかしら?」
リリアが微笑みながら少し首をかしげると、シルビア様たちも「ふふっ」と鈴を転がすような笑い声をあげる。
かつて彼女たちは、見目麗しい皇太子やその側近たちの婚約者であった。
しかし、あの男たちがリリアへ無体な執着を見せ、モラルを崩壊させた際、彼女たちは未練など微塵も見せず、自らバッサリと婚約破棄を叩きつけて泥舟を降りたのだ。
今やここには、くだらない男たちを追い払った無敵の令嬢たち(+付き添いの侯爵家嫡男)による、気兼ねなく笑い合える『被害者同盟』のお茶会が完成していた。
「あ、そうですわ! 聞いていただけますかしら、皆様」
シルビア様が扇子で口元を隠しながら、楽しそうに身を乗り出した。
「実は先日、わたくしから婚約破棄を言い渡され、夜会での醜態を国王に知られて廃嫡となり、僻地の修道院へ送られた元皇太子殿下から、私のもとに一通の文が届いたのですの」
「あら! まだ反省なさっていらっしゃいませんの?」
「……不審物ですね」
リリアとクリスタ様が眉をひそめ、エリオスは静かにカップを置く。シルビア様はおかしそうに目元を緩め、その手紙の内容をそらんじた。
「それが……『シルビア、お前がどれほど傷ついて俺に婚約破棄を言い渡したか今なら分かる。愚かなリリアに惑わされていた俺を許し、もう一度俺を支えてくれ。特別に復縁を許可してやる』……ですのよ?」
「……まあ!!」
リリアとエミリア様、クリスタ様は思わず吹き出しそうになり、慌てて扇子で口元を押さえた。
「ちょっと待ってくださいませシルビア様! 『許してやる』とは一体どのような立場からのお言葉でしょう? ご自身が捨てられたのに、記憶が都合よく改変されていらっしゃいませんこと!?」
リリアが堪えきれずに笑い転げると、エミリア様とクリスタ様も大爆笑しながら深く頷く。
「本当ですわ! 実はわたくしたちの元にも、三行半を叩きつけて追い払ったカミル様や、騎士団をクビになったクリス様からポエム調の文が届きましたの! 『真の理解者は貴女だった。二人で一からやり直そう』だなんて……おかしくてお腹が痛くなってしまいますわ!」
「お二人とも、ご自身たちがポイッと捨てられた立場だということを、完璧に忘れてしまっていらっしゃいますのね!」
令嬢たちが楽しそうに笑い飛ばすと、リリアも涙目になりながら大きく頷いた。
「最高ですわ……! で、シルビア様、そのお手紙はどうされましたの?」
「ふふ、返信代わりにそのまま暖炉の火にくべて差し上げましたわ。勢いよく燃え上がる炎を見つめながら『まあ、よく燃える紙ですこと!』と一人で大笑いしてしまいましたの」
「素敵ですわシルビア様! わたくしたちも破いて庭の肥やしにして差し上げましたのよ!」
「まあ! 素晴らしい二次利用ですわね!」
上品なお言葉遣いのまま容赦なく元婚約者たちをネタにして盛り上がる令嬢たち。そのあまりのスパッと感とたくましさに、リリアも優雅に拍手を送る。
「やはり、顔の造形ばかりが良くても中身がそれではお話しになりませんわね。男性はやはり、知性と誠実さ、それから気配りに限りますわ」
シルビア様たちの視線が、リリアの隣で静かに佇むエリオスへと注がれる。
「……皆様。もしよろしければ、今後届く不快な書状は私にお任せください。我が侯爵家の権力と私の闇魔法を使い、差出人ごと社会的・物理的に処理しておきますので」
真顔で恐ろしい提案をする侯爵家嫡男に、令嬢たちはパッと表情を輝かせた。
「まあ! エリオス様ったら、なんて頼もしくて気がきくお方なのかしら!」
「リリア様、このような素晴らしい伴侶を射止めるなんて、さすがですわ!」
「ええ、ありがとうございます」
照れくさそうに明後日の方向を見るエリオスと、ほくほく顔でスコーンをおかわりするリリア。
元・モラハラ婚約者たちがいくら遠くで悔しがろうとも、この楽しすぎるお茶会が脅かされることは二度とないのだった。
(完)




