第11話:それぞれの未来と、邪魔者のいない明日
魔王城からの劇的な(?)凱旋を果たした私たちは、王宮の大広間で国王陛下からの【魔王討伐の褒賞】を賜ることとなった。
「世界に平和をもたらした英雄たちよ、望むものを言うが良い!」
重厚な国王陛下の声が響き渡る。
まず進み出たのはドワーフのガルフさん。彼には国宝である『黄金の魔斧』が授与され、「おおお……! これで美味い酒と鍛冶に打ち込めるわい!」と豪快に髭を揺らして喜んでいた。
そして、私とエリオス様が二人揃って一歩前へ出る。
「陛下。私たちは……エリオス様との正式な『婚約』の許可をいただきたく存じます」
私たちがしっかりと手を繋ぎながら願い出ると、国王陛下は「うむ! 闇魔法使いと聖女の婚約、国を救った二人ならば文句のつけようもない!」と快く認めてくれた。
(やったぁぁぁ! これで誰にも邪魔されない、堂々とした恋人関係……ううん、夫婦への第一歩だわ!)
私が隣で微笑むと、エリオス様は少し耳を赤くしながら、握る手にキュッと力を込めてくれたのだった。
◇
そして最後は——この旅の立役者である勇者・勇斗くん。
彼に提示された褒賞は、二つの選択肢だった。
一つ目は、元の現代日本へ帰還すること。
そして二つ目は、第一王女であるマリアンヌ様との結婚だった。
王女マリアンヌ様は17歳。私ほど(※自称)ではないにせよ、透き通るような銀髪と銀の瞳を持つ超絶美少女だ。
「……っ」
玉座の脇から、上目遣いに自分へ情熱的な視線を送ってくるマリアンヌ様を見て、勇斗くんの顔がポッと赤くなる。
私とエリオス様がすでに相思相愛で婚約間近であることを思い知り、私への初恋を諦めざるを得なかった勇斗くん。
選択肢としては「現代に帰る」一択のはずなのだが……超美少女からの熱烈な好意に、あからさまに鼻の下を伸ばして揺れ動いていた。
(……いやいやいや! 鼻の下伸びすぎでしょ勇斗くん! 気持ちは分かるけど!)
元30歳OLの先輩として、私は思わず彼の前に立ち、真剣な顔で肩を掴んだ。
「勇斗くん、よく考えて! 今を逃したら、二度と現代に帰れないかもしれないんだよ? ご両親も心配してるでしょう? 全てを捨ててこの世界に残る覚悟が、本当にあるの!?」
私の真面目な問いかけに、勇斗くんはハッと我に返ったように表情を引き締めた。
「リリアさん……。はい……僕は、僕はやっぱり現代に帰りたいです! みんなと離れるのは寂しいけれど……!」
強い決意を込めてそう宣言した、まさにその瞬間だった。
「お父様ッ!! 私、絶対に勇斗様と結婚したいわ!!」
金鈴を転がすような声で叫んだのは、王女マリアンヌ様だった。
「だって、現代とこの世界を自由に行き来できる魔法陣なんて、王宮魔術士たちに命じればいつでも出せるのでしょう!? 帰る必要なんてありませんわ!」
「……えっ?」
私、エリオス様、ガルフさん、そして勇斗くんの動きがピタリと止まった。
大広間に流れる謎の沈黙。
(えっ……自由に行き来……え……??)
「(いつでも帰れるんかいーーーーー!!!???)」
心の中で、本日一番の大音量ツッコミが炸裂した。
なんだそのご都合主義な超便利インフラ!? 召喚された時のあの「二度と戻れないかもしれない絶望感」は一体何だったんだ!!
すると、その事実を知った勇斗くんの顔が、みるみるうちに現金な笑みに変わっていく。
「えっとぉ……あはは、それなら……マリアンヌ様と結婚して、こっちに残るのもアリかなって……」
「まあっ! 嬉しいわ勇斗様!」
さっきまでの悲壮感あふれる決意はどこへやら、歯切れの悪いニヤニヤ顔でマリアンヌ様と手を繋ぎ合う勇斗くん。
国王陛下も「ガッハッハ! 次期国王が決まって何よりじゃ!」と大喜びだ。
こうして勇斗くんは、前代未聞の**『現代と異世界をコミューター感覚で行き来する次期国王』**という、究極の勝ち組ポジションを手に入れたのだった。
◇
「それじゃあリリアさん……エリオス、結婚おめでとう。ガルフさんも元気でね!」
とりあえず高校は卒業したいし、両親を安心させたいということで、一時帰国することになった勇斗くん。
王宮魔術士たちが発動させた巨大な転移陣の中心で、彼は爽やかに手を振った。
「またすぐ来ますからねー! マリアンヌ、お土産に日本のスイーツ持って戻るから!」
「待っておりますわ、勇斗様!」
光の中に消えていく勇者を見送りながら、私はふと胸の奥が温かくなるのを感じていた。
「ふふ、行っちゃったね……。ちょっとだけ、寂しくなっちゃうかな」
隣に立つエリオス様の袖をちょんちょんとつつくと、彼はフンッと横を向いて前髪をかき上げた。
「……ふん! あんな調子のいいヤツ、二度と帰って来なくてもいい」
「もう、素直じゃないんだから。本当はちょっと寂しいくせに〜」
私がクスクスと笑うと、エリオス様は急に足を止め、私の方へと向き直った。
前髪の隙間から覗く黒い瞳が、夕日を受けて甘く、深く揺れている。
そして、逃がさないように私の手を恋人繋ぎで強く握り締めると、耳元に顔を寄せて囁いた。
「……これで、もう邪魔者は誰もいないな」
「っ……」
「俺たちは、正式な婚約者だ。……これからは、毎日お前を独占させてもらう」
低く甘い声と、溢れんばかりの愛おしさを込めた眼差し。
心臓が跳ね上がり、顔が一瞬でカッと熱くなる。
バカ王子たちの襲来から始まり、覚醒した勇者との三角関係まで、怒涛の学園・討伐生活だったけれど。
(……うん! これからは、大好きな人とずーっと幸せになるんだから!)
私を満たしたのは、どこまでも眩しい未来への期待。
私は弾けた花が咲くようなとびきりの笑顔を浮かべ、エリオス様の手をぎゅっと握り返すのだった。




