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結末が残酷な死に方なので棚ぼた玉座は遠慮します!なのに、最大の敵が溺愛してくるんです!  作者: 幻燈 カガリ


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✣ 23話 雨と淑女、執着と殺意






 ポツ、ポツと滴る雨。

 頬から顎先へと伝い私へと落ちる雫。


 触れた先から耳へと届く鼓動。

 小刻みに震える彼の腕。


 彼の温もりなのか、

 それとも自分の熱なのか分からない。


 雨のせいで、寒いはずなのに

 私の身体は冷えを感じてなどいなかった。



 彼の腕の中に閉じ込められてどれほどだろうか。


 ほんの僅かな時。

なのに、私にはやけに長く思えた。



 ……抵抗、しなさいよ。

 私の、馬鹿!ド阿呆ッ!





「……王女さま」



 素直に顔を見上げる。

 見上げれば彼の瞳と合うと分かっていたのに。


 漆黒の瞳は、私を迎え入れる。


 白い顔がやけに白く見え、唇の色もいつもとは違う。



「……レジス、中に入りましょう?風邪を引いてしまうわ」


「嬉しいです。瞳を逸らさずに僕を見てくれるなんて、本当に……最高な日です」


 目を細め、呟いた。

 長い白い指先が、頬にそっと触れる。

 私の存在を確かめるように。


「……ふざけたこと、言わないで。……私は心配で」


 視線を逸らす。


「心配して、くれるのですか?」


 声音が跳ね、指先の動きが止まる。



 ……今日だけは、特別。

 そう、雨が降ってたから。

 ……私の、せい……だった、から……



「……だから、早くぅッ」


 腕から離れよう身動いだ刹那、



 ─────身体の自由が、奪われた。



 キツく、キツく締め付ける腕。

 私の首筋を掠めた濡れた髪。


 繊細な息遣いを、直に感じた。



「……ずっと、雨なら……いいのに」



 心から絞り出した切実な声。

 胸まで締め付けられたように思えた。



 曇天を仰ぐ。

 止みそうにない雨を静かに眺めながら、彼の腕に応えることもなく、私はただ、雨に打たれ続けた。





 ヒロインちゃん、……ごめん。

 今日だけ。

 ……いや、今だけだから……


 そう、心で謝り続けた。







「……なぜ、こんなところに居られるんですか?」



 突然の声にハッとする。

 雨の音で、近付く気配に気が付かなかった。



 ギョエッ!?

 この状況、マズイ!

 まずい、マズい、不味い──ッ!!



 とにかく、今の状況を何とかしようと

 レジスの胸に手を突いた。

 そして、腕を伸ばす……?



 なんで、伸びねーのッ!?

 ───離れろやッ!


 歯を食いしばって抵抗しましたが、


 .......ガッチリホールドされてます。



 ガッテ──────ムッ!!!



 心の中の私はその場に崩れ落ち、その場に頭を叩き付けた。



 ガッチリホールドが、緩んだ。

 今がチャンスと、腕の中で暴れようとした瞬間。



「………くふッ、」


 唇から盛れた声。

 その声の主へと顔ごと向けた。


「レ、ジス?」


 ……ドクンッ。

(反応するな!アタイの心臓ッ)



「すみません。ころころ変わる貴女の顔が……あはは、お、面白くて……ふふっ」


 あ、良く言われました。

(前世で)


 眉を寄せ、目元が柔らかい。

 屈託なく笑う顔は、いつもの彼じゃないように見えた。


 陰湿ぽさ、皆無ですわ……


 その笑みに私は目を奪われた。

(奪われてんじゃねーよ!)



「あの─、私が居るの忘れてませんか」


 ハッ!

 私とした事が、これじゃ誤解を招きますわ!!


 腕からすっぽり抜けるように、

 まるでモグラ叩きの如く、私はレジスの腕から逃れた。



「残念、です……」


 おい、黙れ!

 シュンとすんな!


 盛大な溜息が否応もなしに耳に入った。


「歳頃なのは分かりますが、相手はしっかりと選ばれた方が良いと思いますよ?」


 斜に構え、レジスを一瞥した。

 露骨な態度。

 ぶっきらぼうな声音。


 そう話すのは、セリオスだった。



 ……意外とハッキリ言うのね。

 あれ?レジスさん、めちゃくちゃ睨んでます、よね?



 先程の熱のこもった瞳はどこへやら。

 もう、氷の刃が炸裂してますわ!

 何も言わないところが、逆に怖い、怖すぎるッ!



「……王女さま、迎えが来たようです」


 腰に軽く手が当たる。

 ゾクッとした感覚に、腰が浮く。


「え?……迎え?───ヒイッ!?」



 侍女達の群れを引き連れる女史。


 その名は……



 ────熱血教育ママン ジョアンナ。



 遠くからでも、分かってしまう。


 だって、ママン……

 般若を背負っておられるんだもん!


 今にも、腰が砕けそうです。




「───王女様!!!とっくにお時間は過ぎてますっ!!」




 いつの間にか、雨は止んでいた。







 ✣✣✣✣








 あの後、無抵抗の私を連行した侍女+ママンは

 即座に湯殿に私を押し込みまして、今に居たります。




 ずぶ濡れの私を見たジョアンナは、

 もうぎゃああああって悲鳴を上げてましたわ。



 その表情は……傑作!

 今思い出しても、笑えますわ!



「王女様、今は少し……動かないでくださいませ」


 あっ、ゴメンッウウウ────!


 ギィィィイとコルセットが音を上げる。


「ぐるじぃ……そんなにいぃ、締め付けるぅ?」


 顔まで力を込め上げるミアを鏡越しで睨む。

 苦痛で眉根に幾つもの縦皺がありますが、さすがエスティア様のご尊顔はこんな状況でも、美しいです。


「もう少しの辛抱です!今、縛りますからッ」


 次は服装の改革でもしてやろうかしらね!

 そんな考えを企んでいる中、コンコンと扉を叩く音が。


 しかし、入ってくる気配はない。


「だ、誰かしら?」



 私の声で、控えていた侍女が扉へと向かい、少しだけ扉を開けた。


「……王太子殿下」


「エスティアは?」


「今、お支度を整えておられます」


 ふたりの声が耳に届いた。


「あと、どれくらいだ?」


「そこまで掛からないかと……」


 私の支度の様子を伺いながらそう述べると、カーディアスはダメだダメだと何かブツブツ言っている。


「そ、そうなの、か………困った」



 カーディアスと侍女とのやり取りを耳にしながら、私の支度はゴールテープが見えてきた。



 チラチラと私とカーディアスを見る侍女さん。


 なんだが、可哀想に思えたので、

 長い髪を揺らしながら扉へと足を運んだ。



「お兄様、お仕事お疲れ様です。もう、こちらに戻られてよろしいのですか?」


 私の登場に思わず、飛び上がりそうになったカーディアス。


「?!エ、エス……もう、支度終わったのか?」


「はい。朝のドレスも素敵でしたが、雨に濡れてしまって……」


「何?エスも、か?」


 目を見開き、動揺するその瞳。


「えっ……あ、はい」


 セリオスから聞いてないのかしら?


 カーディアスの目を見ながら、小さく頷く。


「もしかして、アイツに会ったか?」


 口に手を当て、小声で耳打ちしてきた。


 その声に、私の顔がボンッと赤くなる。

 感触を身体が思い出す。


「エス?どうした?雨に打たれたから、熱が出たのか?……オイ、侍医を呼べ!!今すぐに!」


 大袈裟に騒ぎ立て、暴走するカーディアスを止めようと手を伸ばした。


「違い、ます。何でも、ないですから、そんなに騒がないで大丈夫です」


「だか、顔色が───」


「もう!私は正常ですから、放っておいてください!!それじゃ、ご飯になったら、呼んでくださいね!」



 ガチャンと扉が猛々しい音を上げた。

 私は綺麗になった身なりのままベッドへと倒れ込む。



 後ろで、ミアが心配そうな声を掛けてくる。



「気にしないで、少し……疲れたの」




 頬の熱は、なかなか冷えることはなかった。







 ✣✣✣✣







「……行ってしまわれましたね」



 王女様が去った先を女々しく眺め続ける陰湿な公爵へと言葉を投げ棄てた。


 雨で濡れた漆黒の髪から雫が垂れた。



「……ご主人様に似て、嫌な趣味してるね」



 やっとこちらへと双眸が向いた。


 凍てついたその瞳。

 その眼で数え切れない人を斬り殺して来た。


 幾ら戦場だったといえど、


 表情をひとつも変えず、ただの作業のように繰り返していた。



「我が主を、侮辱しないで頂きたい。例え、貴方でも────」



 ………カチャ。

 剣が音を立てた。



 コツ。

 ────コツ。


 物静かにこちらへと歩き出した。


 雨に濡れたせいで、この人から香るいつもの匂いはしない。



 ………………コツ。



 私の傍を通り過ぎようとした途端、足が止まった。




「……これ以上の、邪魔をしたら


 ─────許さない、から」



 空気がひりつく。

 言いようのない殺気。


 汗が首へと流れる。

 思わず、指先が震えた。


 久しぶりに感じた生命の危機に、身体がジワジワと浸食されていく感覚に陥る。


 その悦に、無意識に口が緩んだ。




「……忠告はした。


 それでも、踏み込むつもりなら、



 ────殺して、あげる」




 その声が耳に残る。



 ───いいですよ。


 次は、無様に殺されたりしませんから。



 背後へと踵を返す。


 置いてあった、乾いてあるジャケットを手にしてレジスはこの場を後にした。








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