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結末が残酷な死に方なので棚ぼた玉座は遠慮します!なのに、最大の敵が溺愛してくるんです!  作者: 幻燈 カガリ


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✣ 9話 淑女のヒールにお気を付けてあそばせ




 しばしの沈黙。

 お互いを見つめ合い中でございます。


 普通ならここでト・キ・メ・キ!を感じるのでしょう。

 頬を林檎のように赤く染めて……なんて、流れになるのでしようね。


 ですが、今の私の瞳は点。

 開いた口が塞がりません。

 唇の端がピクっとします。



 トキメキなんてモノは既に私は捨てたのですわ!



 しっかし、この距離バグ兄サン改め───ノルドさん。



 私のこと、がっしりと掴み過ぎだからね!?



 か細い足を一歩前へと踏み出し、その手から逃れようと力を入れる。


 ビクとも動け─────ん!



「そう逃げるなって」


 頭上から声が落ちてきた。

 何とも涼しい顔が……



 ─────ムカつくっ!!




 もう、こうなったら……アレしかないわ、ね。



 チラッとノルドの靴の位置を確認。

 射程距離オッケー。


 口角が上がるのを耐えつつ、

 膝を上げノルドの靴目掛けて、勢い良くヒールで踏み付けた。



 グリグリも忘れずに。



「───んぐっ?!」


 咄嗟にノルドの手から解放された。その隙に私は急いでノルドから離れると、ゴボジイの前に立った。



 目の端で足を抱えている色男が見えます。

(ざまぁwwww)



 ゴボジイは、ぼいんオジサンから支払われた代金を数えていた。お金から私へと視線が移る。


「あ、娘さん。さっきはありがとうね。助かったよ」


 頭を深々と下げられた。

 得意なことをしただけで、こうも感謝されるのは何だか心がむず痒い。


 だけど、私はお礼を聞きに戻ってきたわけじゃなくて。

 大きく息を吸う。聞き取り易い声を意識しながら、声を発した。




「あの!良かったら、私を雇って─────」


「ダメだ」




 ピシャリとあの男の声と重なった。

 邪魔が入った。




 ッチ。



 思わず、舌打ち。

 こちらへと向かう男を突き刺すように睨む。


「ハッ、この俺様に舌打ちか?────フッ、そんな目で見るなって。……また、捕まえ」


「───結構ですわ!それよりも、貴方に指図されたくないのですけど」



 腕を組み、私の前にまた立つノルドを迎え撃つ。

 眉を吊り上げる。



「指図ねぇ……」



 首を少し傾け、流し目で私を見る。

 片手の指先で髪をとく。



 うわ〜色気ヤバい……




 あっ!

 私としたことが!?

 うっとりしかけた。



 慌てて目を伏せる。

 気を逸らすように、服を指で弄くり回す。



「と、とにかく!アナタに何か言われる筋合いはないのですわ」


「へぇ。悪いが、口を出す権利が、俺に出来ちまったんでな」



 目を細め、口角が上がる。

 唇の隙間から見えた白い八重歯。



 な、なんか……

 嫌な予感がしますわ。



 一筋の冷や汗が流れた。

 ゴクリと息を呑み込む。



「───コレ?どうしてくれる?」



 にこやかな笑みを浮かべ、下へと指を差した。

 その先を視線で確認する。



 指し示されたのは……





 ────────踏み付けた靴





 でした。




 よく見るとヒールの跡がくっきりと。

 しかも、お高級な匂いがぷんぷんと醸し出しておられてます。



 あれ?これ……

 やっちまったんじゃ……



 一気に血の気が引いていった。

 あわあわと唇が戦慄く。



 ノルドの口が動いた。



「 」



 私の耳にノルドの声は届かない。



 膝が砕けたように、そこに座り込む。

 触れた地面は、とても冷たかった。



 カツカツと音を立てて靴が私の視界に入り込む。

 ヒールの跡を見せつけるように。



「じゃあ、ついてきてもらおうか?」



 心底楽しそうな声が耳に響いた。



 差し出された手を私は無視し、ゾンビの如く立ち上がると重い足を引き摺りながらついて行った。








 ✣✣✣✣







「好きなところに座りな」



 連れて来られた場所は市場から、そう遠くない通りに面した二階建の建物だった。その二階の奥の間に私は通された。




 温かみのある絨毯。

 壁に掛けられた美しい絵画。

 書棚には難しそうな本がズラリ。

 ワインレッドのベロア生地のソファ。

 ソファで挟むようにシンプルながらも、落ち着いた色味のテーブル。


 そして、極みつきの白檀の香り。




 あ───

 コレ、絶対関わってはいけないヤツ。



 直感がそう警鐘を鳴らす。



 私はノルドの言葉には従わず、扉の近くで突っ立ていることにした。



「いえ、結構ですわ。靴の弁償をすれば、私を帰して頂けるのでしょう?」


 ノルドは私の前のソファの肘掛けに腰を落とした。

 足を組み、背もたれに肘を押し付ける。

 暇な指先は眉尻に添えられた。



「それは口実だ。うだうだ言うのは俺のタチじゃない。単刀直入に言う。俺は、」



 蒼玉の瞳が私を見上げた。




「────お前が、欲しい」




 逆光でも分かるその鋭い瞳。

 獲物でも見るような目に私はたじろいだ。



「な、何を……」


 震えだそうとする身体を抱き締める。


 そんな私を面白そうに眺めながら、ノルドはしゃあしゃあと言ってのける。


「勘違いするな。安心しろ、お前の身体が目的じゃない。お前のここが欲しいんだ」


 ここという所を指差す。ノルドが差したのは頭だった。



 まさか、私の髪?!

 それとも……頭かち割って脳ミソ売るつもり?!



 ガタガタと足を後ろに引いた。

 扉に身体がぶつかった。



 逃げなきゃ!!



 必死な私をノルドは肩をブルブルと揺らしながら、

 口元を手の甲で押さえながら笑ってやがる。



 ビビった私が愚かにみえた。



 ああ、そっちじゃないのね。

 ビビり散らかして私、バカじゃないの。


 口を尖らせる。


 調子が戻ってきた私は、まだ笑っているノルドに言葉を投げつけた。



「私に何かして欲しいってことですわね」



 揺れる肩を何とか抑えたノルドは、改めてこちらに顔を向けた。



「……ああ、そうだ。お前の計算能力が欲しい」


「それで靴はチャラにして貰えると?」


「あ?それは別だな。それより、お前……なんで城から」


「ノーコメントです。ッチ、靴別件とか……なんなん」



 あ、口に出ちゃった。


 それより、ノルドも城にいたって事は貴族ってことよね?



 服装からして、側仕えではないのは明らか。

 このイケメン度具合から関わらない方がいいが、どうやら逃がしてはくれなさそうだ



 ガクリと首を落とす。



「フンッ、また舌打ちか……。ホント、お前。いい度胸してるよ」



 ギィィ。


 ノルドが肘掛けから立ち上がった。

 そのまま、私へと迫ってくる。



 ───カツ。カツ。


 もう私の逃げ場は残されておらず、

 必死にノブを手でまさぐる。



 またか?!とまつ毛をギュッと閉じる。


 だが、ノルドは私の一歩手前で止まった。



「仕事をやる。だから、ここで働け」

「へ?」

「ここはヴェテル商団。この俺、ノルドが経営する商団だ。好きなだけ計算させてやるよ」


 コツンと額に指パッチンを食らった。


 でも、今の私にはそんなことどうだって良い。



 だって───計算の仕事でしょ!

 ちょっと……危険な香りはするけど。


 とりあえず、お金は必須!

 ここで働いて溜め込んで、遠くの支部とか作って王都をトンズラすれば良いのだわ!!


 ニヒヒ。

 無意識に笑みが溢れ出す。



「フンッ。それにしても、お前……あちこち怪我し過ぎだろ?」



 ノルドの指先がそっと優しく頬に触れた。

 そこは奇しくもカミラの爪が当たった場所。



「麗しき乙女に傷をつけるとはな。───が見たら……」



 ん?なんか、ひと言聞こえなかったような?

 まあ、気にしてもダメね。



 ノルドはスラックスのポッケから何やら取り出した。


「コレ付けときな」


 小さな容器を差し出した。

 なかなか受け取らない私にノルドは手持ち無沙汰の腕を掴み上げた。


 ぷらっとした私の手の平にその容器をふわっと置いた。



「薬だ。膝とその手の平にも塗るといい」



 それだけ言うと、ノルドは私があれだけ探したドアノブを握り、扉を開け、廊下へと足を向けた。



「明日から頼むぞ。────エスティア」



「……え?」



 ノルドはそのまま背を見せ、手を軽く上げると歩いて行ってしまった。



 私はその背中からしばらく目が逸らせなかった。







 拝啓 お母さん様



 桜の蕾が膨らみ始め、そろそろ開花しそうな今日この頃。

 私、就職先か見つかりました。


 だけど、なんだか胸騒ぎがするのは新しい環境だからでしようか?

 それとも、雇い主が距離バグ兄サンだからでしようか?


 とりあえず、あなたの可愛い娘は今日も波乱万丈です。


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