私達らしい距離感で
凄く長い間、最終話に未完成の文章を載せていたことに気付かなかったポンコツは私です。
また読みに来てくださった皆様に、全力の感謝を捧げます。
アメリアは得難い男性を婚約者に出来たと実感した。
自分で言うのも何だが、恋愛に関して冷めていると言うか、四六時中一緒にいたいタイプではないと自覚している。
本来、婚約期間というのは前世でいう“お付き合い”の段階である。
今世の知識でも、婚約したてのカップルというのは、お互いに顔合わせから憎からず想っているのなら、四六時中一緒にいたいと恋焦がれたりお互いの事を知りたいと手紙を遣り取りしたりする、らしい。
可も無く不可もなく、というカップルでさえ、礼節を持ってプレゼントを贈りあったりする、らしい。
しかし、アルフレッドと自分の関係はどうだ?とアメリアが思い返すと…
正直、“ないわ〜”と言われるものだと思う。
冷めすぎだろう、と言われればその通りだが。
会えば胸はときめき、会話は弾む。
恋してるな、この人と結婚するんだ!と心は浮き足立つのだ。
しかし、会わない時期がつらいとは思わず、じゃあ私もやりたいことしますわ。と過ごせる。
アルフレッドも同じだ。
これでお互い不満が出ないなんて、最高じゃないか。
「アメリア!」
いつの間にか、呼び捨てでアメリアを呼ぶようになったアルフレッドの声が聞こえて、アメリアは振り返った。
最近は王太子の勧めで、頻繁にアルフレッドが交流に訪れるようになった。
それはそれで、うれしい時間だ。
「アル様!」
いつの間にか、略称でアルフレッドを呼ぶようになったアメリアが答える。
今日は騎士団の制服ではなく、普段着だ。
制服の禁欲的な感じも色気を感じ堪らないが、ラフな普段着も素晴らしい。
と、内心鼻息荒く観察するアメリアは、最近自分がエロじじいになった気分だった。
そんなアメリアの目つきに気付くことなく、小さな花束をもって笑顔のアルフレッドが駆け寄る様は、尻尾を振って駆け寄る大型犬の様に愛らしい。
“婚約者との逢瀬の時には小さくてもいいから花束を持参すること”
先輩騎士からそう教えられ、忠実に守り続けているアルフレッドをアメリアは微笑ましく思う。
「今日のアメリアも一段と美しいな!」
「まぁ、アル様も今日も一段と素敵です」
そう褒めあってクスクスと笑い合う。
ハラリと耳にかけていたアメリアの髪が顔にかかり、アルフレッドがその髪を払いのけるとアメリアの頬に触れる。
そうすると、アメリアの胸が早鐘を打ち顔を赤らめるのだ。この時ばかりは、内心エロじじいも鳴り潜め、乙女のアメリアが顔を出す。
伏せた長いまつげさえ愛おしいと言う様にアルフレッドはアメリアを見つめた。
王宮騎士団に選出され、出世を果たしたアルフレッドとの婚姻は予定より早まり、最近はこうしたスキンシップが増えていた。
以前アメリアも、負けるものか!と謎に対抗心を燃やし、そんなアルフレッドに抱きついたりもした。
その時は、体格差によりスッポリとアルフレッドの胸元に収まり、胸板の厚さと圧倒的な筋肉感を頭部に感じで、無駄に敗北感を覚えつつ興奮する失態を晒した。
これが雄ッパイか!と、前世での知識が叫びをあげたものである。
ムフムフと鼻息荒く胸元に抱きつく柔らかさに、アルフレッドが意識を飛ばしそうになっていたのを、アメリアは未だに知らない。
見かねた護衛と侍女が「お嬢様、お戯れが過ぎますよ」「アメリア様!婚姻前にございます!」と止めに入ったのだった。
そんなエロじじいアメリアも、アルフレッドからのスキンシップには顔を赤らめるのだ。
やるのはいいが、やられるのは弱い。
アメリアはチョロイン属性持ちなのだ。
「この花を貴方に」
頬に触れた手を離し、アルフレッドが小さな花束をアメリアに渡す。頬から離れた熱さを名残惜しく感じながらアメリアは花束を受け取った。
「ありがとうございます。可愛らしいわ」
そうして2人で庭に設置されたテーブルに座り、会えなかった日々の出来事を話すのだ。
一度、アルフレッドが聞いてきたことがある。
「頻繁に会えず、不満はないですか?自分は、器用ではないので、1つのことにのめり込むと他のことが頭から抜けるのです」
そんなアルフレッドに対しアメリアはこう答えた。
「実は、私も同じ事を思っていました。趣味に没頭している時は、それ以外考えられなくなるのです。決してアル様を蔑ろにしている訳ではないのですが、その期間は連絡も疎かに…」
そして2人で笑い合う。
「お互い様…ですかね?」
「そうですわね?私はアル様との、この距離感、心地よく感じていますわ」
「アメリアがそう感じているなら安心です…が、もし不満に思うことが出てくれば、お互いに言葉にして伝え合いましょう。別の個性をもつ人間同士です。伝えなければ分からないことも多い」
「大切なことですわね」
式まで数ヶ月。
伯爵令嬢として蝶よ花よと育てられたアメリアは、名ばかりの子爵夫人になる。
生活も変わるだろう。使用人は数人雇う予定だが、専用侍女はいなくなる。
前世の記憶がある分、新しい生活に不安は少ない。
結婚生活もだ。
束の間の逢瀬では見えなかった相手の一面が見え、すり合わせや妥協をお互いに強いられるというのは、思った以上にストレスがかかるものだ。
だから、伝え合わなければいけない。
普通はこうだろう、言わなくてもわかるだろう、の積み重ねが不満を溜めてゆくのだから。
「私、我慢しませんわよ?一生好きなことだけしてゴロゴロのんびり過ごしたいのです」
「ええ、承知しています。その上で貴方に婚姻を申し込んだんだから」
暖かな陽射しが降り注ぐ庭で、2人で笑い合う。
これから意見が衝突する事もあるだろう。
しかし、最終的にはこうやって笑い合えればいい。
彼となら、それが出来る気がすると、アメリアはそう思った。
ランド子爵夫人となったアメリアは、その後も気まぐれに発明(という名の前世の知識)を発表し、度々世間にブームを巻き起こした。
騎士団長となった夫のアルフレッドと共にいる姿を見ることは少なかったが、共にいる時は仲睦まじい様子であったと、周囲の人々は語っていたとか。
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