番外編 いい夫婦の日(遅刻)
昨日がいい夫婦の日だったので。
コミックス3巻後くらいの時空の二人です。
「……オーウェン様」
オーウェン様と結婚して、数日。
つまり、私がオーウェン様の奥さんになってから数日が経っていた。
「どうした? わたしの可愛い奥さん」
オーウェン様はその呼び名が気に入っているようで、私のことをよくそう呼ぶ。
恥ずかしいけど、幸せな日々。
「オーウェン様……とっても素敵な旦那様にお願い事があるのです。きいてくださいますか?」
「もちろん、あなたの願いなら」
柔らかく蜂蜜色の瞳で微笑んで頷いてくれたオーウェン様。
そんな優しいところも素敵だわ……。
って、いけない。
今は見惚れている場合じゃないもの。
気を取り直して、オーウェン様をじっと見つめる。
「オーウェン様、私……、妖狐姿のオーウェン様を撫で回したいです!」
「!?!?」
オーウェン様はよほど驚いたのか、一緒に食べていたクッキーを取り落とした。
やっぱりはしたないって思われちゃったかしら。でも、でも……!
「だって……」
「ど、どうしたんだ?」
オーウェン様は、涙目の私の背中をおろおろと撫でてくれた。
そんなところも優しい。
好き。大好き。
「オーウェン様ばっかり、ずるいです!」
「ずるい……?」
結婚してからというもの、私ばっかりときめいているような気がする!
私だって、オーウェン様にときめかれたいのに!
私がそう主張すると、オーウェン様は納得した顔をした。
「……ああ。わたしが妖狐姿にならないから、不安になったんだな?」
オーウェン様が妖狐の姿になるのは、感情が昂った時。
でも、最近そんな姿を全く見ていないのだ!
「……そうです」
「それは、その……あなたにときめいていないわけではなくて」
オーウェン様は、苦笑すると私の頬を撫でた。
「あなたの前でかっこつけたかったんだ」
「え?」
思わぬ言葉に、ぱちぱちと瞬きをする。
「だって、口付けをするときに毎回妖狐になっていたら、満足にできないだろう?」
……でも。
「私は、妖狐なオーウェン様にも、いつものオーウェン様にもキスしたいです!」
だって、どんな姿でもオーウェン様であることには変わりない。……といいつつ、不安になってしまったのだけれど。でも。
「だって、私はオーウェン様のことが大好きで、愛してるから」
「!!!?」
ぼふん!
音と煙と共に、オーウェン様の姿が消えた。そのかわりに、恥ずかしそうな妖狐なオーウェン様が……。
「オーウェン様!」
私は思わずオーウェン様にかけより、頬擦りをする。
もふもふだ。
もふもふすぎる。
そんなオーウェン様も好き。
「だから……隠さないでください」
蜂蜜色の瞳を見つめる。
やっぱり月よりも綺麗なその瞳は、何よりも大切な私の宝物だ。
「……わかった。だがーー」
ぎゅうぎゅうと抱きしめていると、またぼふん、と音が鳴って、オーウェン様が人の姿に戻る。
「あなただって、ときめいたら、ときめいたと教えて欲しい」
それは……かなり恥ずかしい。
でも、オーウェン様はわかりやすい変化があるのに、私にもわかりやすいほうがいいわよね。
しかし、いちいちときめきました! というのは、風情がない気もする。
「わかりました。それならーー私がときめいたときは、鈴を鳴らします!」
……ちりりん。
ーーヒューバード公爵邸では、今日も可愛らしい鈴の音が聞こえる。
それと同時に、狐姿の公爵もよく見られるようになったとか。
確かなことは、今日もヒューバード公爵夫妻は、幸せだということだ。
いつもお読みくださり、ありがとうございます。
本作のコミカライズは全3巻、書籍も3巻で完結しているので、もしよろしければ、お手に取っていただけたら幸いです!
特にコミカライズは、ムネヤマヨシミ先生がとってもとっても素敵に描いてくださったので、必見です!
何卒よろしくお願いいたします!




