さんじゅういち
応接室でベネッタと向かい合う。私は、頭のなかで、?マークを大量に浮かべていた。ベネッタがオーウェン様に恋をしているのはわかった。でも、そのオーウェン様を訪ねてくるならともかく、私を訪ねてくるとはどういうことだろう。
そこまで考えて、胸が、痛い。
オーウェン様は、私のそばにいる。私を離すつもりはないと言ってくれたけれど。ヒロインを前にしてもそうなのだろうか。いえ、オーウェン様は、浮気するような不誠実な人ではないけれど、ヒロインにだけ別という可能性がある。ヒロインは私と違って凡庸ではない。運命的な恋に落ちる可能性だって、捨てきれないのだ。
ぎゅっと手を握りしめて、彼女に何とか微笑む。
「……それで、本日はどういったご用件でしょうか?」
ベネッタはとても緊張していた。当然だろう。彼女は元平民。魔法の力に目覚めて爵位を賜ったとはいえ、こんなに立派なお屋敷で緊張しないはずもない。
「私は、閻実の界担当部のベネッタと申します。あの、まずは……仕事の話なのですが」
うう、声まで可憐だわ。乙女ゲームはヒロインにはボイスがついてなかったから、前回会ったときには気づかなかったけれど、かなりいい声をしている。
でも、まずは。ということは。仕事の話以外にも何か私と話したい話があるということだ。何だろう。やっぱり、オーウェン様のことかしら。
「あれから、鬼に悩まされることはありませんか? あなたを拐った鬼はアレクという名前なのですが、あれから閻実の界で暴れていて──」
「ええ。全く大丈夫です」
オーウェン様が、助けてくれたから。ふと、あのときのオーウェン様を思い出して、笑みがこぼれる。わざわざ鬼に変装してまで、私を助けに来てくれた。オーウェン様は、狐だから化かすのにはなれてる、と自嘲ぎみにおっしゃっていたけれど。
オーウェン様が、すぐに助けてくれたから、私は何もされずにすんだ。
「そうですか。……それは、良かった」
ベネッタも、うなずき、微笑んだ。けれど、ベネッタの手は震えている。まるで、なにかを恐れるように。? そんなにこれからする話が恐ろしいのだろうか。
「……実は、お話がもうひとつあるのです」
ベネッタは、声を落とすと、きょろきょろと回りを見た。
「大丈夫。この部屋には私とあなたしかいないわ」
ダグラスには、ベネッタが緊張したらいけないと、ドアの外でまって貰っている。でも、何かあればすぐに駆けつけてくれるだろう。そういうと、ベネッタは安心したように息をはき、深く息を吸い込んだ。
「このようなことを言っても、信じてはいただけないとは思いますが……、このままだとあなたは数日後に亡くなります」




