にじゅうに
慌てて支度をして、朝食の席につく。
「おはよう」
「おはようございます、オーウェン様。昨夜もオーウェン様のお陰でぐっすり眠ることができました。ですが……」
「どうした?」
オーウェン様が飲んでいた紅茶のカップをおいて、心配そうに目を瞬かせた。
「オーウェン様は、休まれていますか?」
「ああ、もちろん」
オーウェン様は頷いた。だめだ、この言い方だと、起きてずっと椅子に座っていることもオーケーになってしまう。なので、もっと突っ込んだ質問を。
「オーウェン様は、昨夜眠られましたか?」
「っ、それ、は……」
オーウェン様の目がうろうろと泳ぐ。やっぱり、ずうっと起きていてくれたんだ。気持ちはとても嬉しいけれど、オーウェン様の健康に何かあってはことだ。
「オーウェン様、眠ってください」
「一月ぐらい寝ずとも、私は問題ない。それに、」
確かにオーウェン様の顔色は特に悪くないように見えるけれど。
「あなたが鬼に拐われるなんてたえられない」
オーウェン様はとても優しい。ただの婚約者でしかない私にそんな言葉をかけてくれるなんて。でも。
「私だって、オーウェン様に何かあったら嫌です。だから、私が眠ったらオーウェン様も寝てください」
「でも、あなたが夜中目を覚ます可能性だってある」
うっ。そこをつかれると痛い。実際に、昨日夜中に起きたし。
「目を覚まさないよう努力します」
「絶対目を覚まさないとは言い切れないだろう」
うーん、どうする。すると、マージが割って入ってくれた。
「では、こうするのはいかがですか?」
私が眠れるまでオーウェン様には側にいてもらって、夜中に目が覚めたときは誰かと一緒に過ごすこと。決して一人にはならないことを約束することになった。
「私でもマージでもいいから、叩き起こしてくれ」
頷いてはみたものの、実際に叩き起こすなんて気が引ける。だから、一度眠ったらもう起きないようにする方向性で行こうと思う。
そうと決まれば、レッツ筋トレ! 体を動かせばぐっすり眠れる。基本中の基本だ。それに美ボディになってオーウェン様を悩殺できる、かもしれないし。
「いち、に、さん……」
オーウェン様になんて美しい体なんだ! と誉められる姿を想像しながら、筋トレする。するとあら不思議! めちゃくちゃはかどる。にやにやとしながら筋トレをする私に、気持ち悪がらずさっとタオルを差し出すマージは本当にできた侍女だ。ありがとう、と感謝しつつ、筋トレに励んだ。
さて。筋トレで時間を費やしたものの、まだオーウェン様が帰ってくるまで時間がある。何をしようかしら。はっ! そういえば。オーウェン様にある確認をとっていなかった。
旦那様が出来たら──旦那様というかまだ婚約者様だけれど──、一度はやってみたいと思っていたのが、手料理を振る舞うこと。オーウェン様は、貴族が自分で料理をするのをどう思われる方かしら。
マージに聞いてみる。
「オーウェン様もときどきされますよ」
! そうなの!? オーウェン様の手料理なんて、ぜひ、食べてみたい。でも自分でされるくらいなら、私がしてもはしたないとは、思われないわよね?
「セディ」
「はい、お嬢様」
昼食を終え、一息ついている料理人に声をかける。
「クッキーを作りたいのだけれど、材料と厨房を借りてもいいかしら?」
許可がでたので、クッキーを作る。公爵邸と同じレシピにしようかと思ったけれど、せっかくなので我が家秘伝のレシピで作ることにした。母がまだ生きていた頃に、私によく作ってくれた味だ。
「あとは、オーブンで焼けば出来上がりね」
オーブンの中に型抜きしたクッキー生地を入れて、焼き上がるのを待つ間で片付けをする。
「お嬢様、手が荒れますから、僕が片付けますよ」
とセディがいってくれたけれど、料理は片付けまでが料理だ。洗って、使った器具を元の位置に片付ける。この世界、普通に洗剤とかハンドクリームとかあるから便利なのよね。
そうこうしているうちに、クッキーが焼けてきた。生焼けになったり、焦げたりしないタイミングを見計らって、クッキーを取り出し、冷ましたら完成だ。
ひとつ、味見をしてみたら、ほどよい甘さとバターの香りが広がった。うん、美味しい。この出来ならオーウェン様に出しても嫌われないんじゃないかしら。
オーウェン様、早く帰ってこないかなぁ。
読書をしながら、オーウェン様の帰りを待っていると。
『見つケた』




