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さよならいとしのペンギンライフ  作者: 天川さく
第4章 その前に人々はなすすべを知らず
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1-2 みしり、と店が音を立てる(後編)

「この時間だから地下鉄の終電は終わっていますが。朝になっても動くかどうかわかりませんね」


 地下鉄が朝になっても動かないかも? そんなにかなりの広範囲での停電? いつ復旧するかもわからない? 朋子は胸で繰り返し、ゆっくりと首をかしげた。

 えっとえっと。それって。広範囲って。

 ……うんと。

 ここがそうなら、大学もそうだよね?

 研究室だけじゃなくて、そうじゃなくて、何もかもで。

 そ、それって?

 地震でもさめなかった酔いがさめる。背中からぽぽぽんとペンギンたちが勢いよく飛び出した。それこそ大きく跳ねて朋子の頭を蹴り飛ばしとおりの向う側へジャンプする勢いである。


「由加さんっ」と朋子は由加の両腕をつかんだ。

「装置は?」

「はい? いきなり何?」

「SEMとかどうなっちゃったかなっ」


 ああ、と由加も酔いがさめた声になる。


「そっか。もう、最低」

「由加さんってば」

「真空装置だったもの。電源入れっぱなしだったでしょう? 停電なら緊急停止になったわね。通常停止手順を踏んでいなかったから真空度のチェックとかしなくちゃ。トラブルがなければいいんだけど」

「SEMのメンテナンスに入るってこと? 明日っていうか今日はもう使えないってこと?」

「あれほどいったのに使うつもりだったの?」


 由加が呆れた声を出す。「うわ、おそるべし」、「まだあきらめていなかったんですか」と元気と木橋の声が続く。「どうなのっ」と由加に詰めよる朋子の背中をペンギンたちが立て続けにフリッパーで叩いたけれど朋子に構う余裕はない。

 はあ、と由加は息をはき、朋子の肩に手をおいた。


「朋子センセ、よく聞いて。地震による緊急停止なの。被害があるかどうか確認をしなくちゃいけない。被害があったら部品取りよせとか業者さんにきてもらって本格保守になって一週間以上は装置は使えないわ」

「一週間もっ」

「それも部品が道内にあればの話で、製造元から部品発注となると、しばらくは使えないわ」


 めまいがした。少なくとも。


「学会までには装置は使えない」

「そういうこと。その学会だって今日の日中の話でしょう? 無茶よ。そもそもそのころでも電気がとおっているかどうか」

「あ」

「SEMの建物もそうだけど、ジンパ研のある棟も停電だからカード電子キーは使えないわよ。守衛さんに開けてもらわないと建物にも入れない。学会準備も無理でしょ。学会の会場の建物にも入れないかもよ?」


 学会ができない? なしになる?

 いっきに力が抜ける。

 思わずその場にへたり込んだ。由加があわてて「大丈夫?」と声をかけたけれど朋子は声も出ない。なんだどうした、とペンギンたちが朋子に詰めかける。息苦しいくらい顔をよせてくる。その気配を感じながら朋子はぼんやりと顔をあげた。空を見る。


 そして息をのんだ。

 ぽっかりと口があく。目も見開いて釘づけになる。そこにあったのは、いちめんの星空。

 鳥肌が立った。

 だってここは二百万人都市の市街地のど真中で。

 真っ暗の街の中のその上に。

 いったいこれはなんなのだ。

 この満天の星空はどこから出てきた?

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