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さよならいとしのペンギンライフ  作者: 天川さく
第3章 闇の精霊を呼び出しているのか
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5-2 元気と木橋に連行されるように(中編)

 朋子は薄い笑みを浮かべる。


「援護なんてしてくれるかなあ。どうかなあ。無理だろうなあ」

「そうですね。無理でしょうね」

「元気さんまで。どうしてよ」

「岩ポンは面白いことに賭けるタイプだから。わたしが野次られても『もっとやれ』とあおるくらい。場合によっては攻撃もしてくるし。どっちの味方だって感じで」

「まさか」

「感情的な反論意見が出てきたら『俺の研究にケチつけるのか』って助けてくれるというかケンカになるかな。そうしたらなだめるのはわたしで。これまた大変で。そうならないためにも、もうちょっと準備したかったんだけど」


 はああ、と長いため息が出る。まあまあ、と木橋があわてて朋子へ揚げ出し豆腐を差し出し、元気が朋子のグラスにビールをついだ。

 由加は子持ちシシャモを口に入れ、それってねえ、と肩をすくめた。


「どうなのかしらね」

「何が」

「そこまで岩嶋先生を理解している朋子センセ。春までは学生と教員というくくりがあったけれど。いまは違うわけだし。大学も別でしょ? 朋子センセは本当に岩嶋先生のこと、なんとも思っていないの?」

「またその話? ないない。ないって」


 そうですか? と木橋がずいと身を乗り出す。


「キライな相手にここまですることはないですよね」

「好き嫌いでボスは選べないんだよ」

「キライなんですか?」

「嫌いじゃないけど」

「男としては」


 まったく、と朋子はグラスをカウンターテーブルにおく。


「木橋くん、もう酔ったの?」

「いえ、大事なことです。どうなんです?」

「元気さんまで。ないってば。そりゃ人間としては好きだけど」

「本当に?」

「あのねえ、由加さん。岩ポンは五十五歳だよ? 三十歳近く年上なんだよ?」

「年齢を理由にするの? 最低」


 サイテー、と木橋と元気がまねをする。「そうじゃなくて」と朋子は身もだえる。手元からはぽぽぽんとペンギンたちまで飛び出した。


「岩ポンには奥さんと子どもがいるんだから。不倫しろと?」

「なんだ。既婚者か。まあ五十五じゃね。けしかけはしないけど朋子センセの気持ちはどうなのか知りたかったんだけど。だってはた目からもなんだかおかしな師弟関係だもの」


 おかしいかなあ、と首をひねる朋子の隣で元気も首をひねる。


「ひどい。元気さん、まねしなくても」

「そうじゃなくて。おかしいなあ。おれが聞いた家族情報と違うなあ」


 え? とあらためて元気を見る。元気は口元に手を当ててしきりにうなっている。それとも再婚したのかな、と意味深なことをつぶやく。


「まあ、あれから八年以上たっていますしね。でもそれこそ奥さんとは学生結婚したんでしたよね。奥さんも研究者で東北の大学にいらしてそれで。それほどの相手だったのに? 気持ちの切り替え?」

「なんのこと? 八年前って何それ。そのころはまだわたしは岩ポンを知らないからよくわかんないけど。そのあとに岩ポンが離婚とか再婚したって話は聞かないわよ?」


 元気はまじまじと朋子を見た。ひょっとして、と今度は低いうなり声をあげる。うわ、くっそ、めんどくせえなあ、と舌打ちまでする。

 なんなのだ。口をとがらせようとすると、「なら」と由加が続けた。


「あっちはどうなったのよ」

「あっち?」


 由加はなぜかちらりと元気に視線をやる。


「試料をいたずらされる事件。あれから被害はあったの?」

「ああ、そういえば最近されていないなあ」

「朋子センセ、なかったことにしないでください。薄片が割れていたり試料の順番が変わっていたことがありましたよ」


 あれはねえ、と木橋を見る。


「犯人はわたしだわ。あわてていて薄片箱に手をぶつけて落としたことがあったし、調べものをしていて焦っていたから順番通りにちゃんと戻したのか覚えていなくて」


 由加が身を乗り出す。


「データを消されたり改ざんされたりは?」

「こわいことをいわないでよ。本当に犯罪じゃん」


「そうですよ。それは犯罪です」と元気が重ねて、「紛失や妨害も十分に犯罪よ」と由加がぴしゃりとはねつけた。ペンギンたちもフリッパーで朋子の足をぺしぺしと叩く。ちょ、痛いし、と朋子はそれを手ではらう。

 はあ、と由加が大きく息をはいた。

 それからおもむろに朋子の足元を指さした。


「もういっちゃうけどね。そもそもペンギンって何?」


 な、何って、とうろたえる朋子に「私たちには見えないの。知っているでしょう?」と畳みかける。あ、う、と朋子は言葉に詰まる。


「けれど朋子センセにはしっかりと見えていて攻撃までしているらしくて。あまりに堂々と見えないペンギンたちと争っているからついスルーしてあげていたけど」


 そこで由加は呼吸を整え、ひといきに告げた。


「はた目からすると、あきらかに朋子センセ、不審者だから」

「そこまでいう? いっちゃう?」

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