FILE4 記憶
龍牙
「おい起きろ、もうウロボロスに着くぞ」
龍牙に起こされた時、船は光の国ウロボロスを肉眼で確認できるところに来ていた。
ウロボロスは500年以上前、朱雀、青龍、白虎、玄武の四国の戦後に作られた国で、元々は戦場となっていた場所である。
国同士が離れて存在するため、中心に位置するウロボロスは中継地点にちょうどよかったのだ。
結果、ウロボロスを手に入れた国が勝利というような考えになり、激戦区となった。
しかし、自国から遠い国での戦争は莫大な人と金を必要とするため、21年間の戦争は勝負がつくことなく、表面上の和解という形で幕を閉じた。
戦後、その四つの国の特徴である、玄武の蛇の体、青龍の龍の顔、白虎の虎のタテガミ、朱雀の鳥の羽が生えた生き物が自分の尾を食べている形の国を作った。
理由は二つある。
四国の特徴を取り込むことにより、その国を世界の商業や行政の中心とすること。
そして、もう一つ理由。
互いに傷つけあっても、結局は自分を傷付けているのと変わらないという戒めの意味が込められている。
しかし、そんな戒めの言葉も虚しくその後の500年も事あるごとに小さな戦争を繰り返していた。
誠一
「光の国・・・か。」
甲板に出た誠一は意味ありげにウロボロスを見た。
そこはホワイトホールと太陽からの光が重なっていて他の国よりも明るい。
天候は白虎の国のように一定でなく、その日によって雨が降ったり晴れたりするため、自然が最も多い国でもある。
現在では、明るく活気があると言う意味で光の国と呼ばれているが、戦争を知っている人は暗雲の中、空から降ってくる砲撃の光の雨を見て光の国と呼んでいた。
誠一にとっては後者の考えだった。
龍牙
「お前はウロボロスで生まれたんだろ?」
誠一
「ああ・・・・・」
確かに誠一はウロボロスのスラム街で生まれた。
物心付いた時には既に戦争が始まっていて、子供の誠一が生き残れたのは奇跡に近い。
仲間と騙し、盗み、殺し、生きるためならなんでもやってきたが、15歳の時に白虎族の部隊に目を付けられ、ねぐらを襲撃された。
軍の備品や食糧を奪うこともしばしばあったので当然の結果だった。
仲間も大半逃げることも出来ずにその場で捕まってしまい、抵抗したもの数人は殺された。
本来なら、そこで全員殺されてもおかしくなかった。
殺せば別に拘束する手間も無ければ、食費もかからない。
だいたい社会のゴミダメの中で生活してきた俺達を生かしておく必要など少しも無い。
しかし、なぜか全員殺されずに、ただ拘束されるだけだった。
やがて戦争が終わり、全員開放された。
開放された時、俺を捕まえた軍人に何故殺されなかったのかを聞いてみた。
誠一
「なんで俺らを生かした?
俺らを捕虜にしても意味がないだろ?」
軍人
「俺は殺したかったね。
お前らに備品を整理中だった仲間を一人殺されているからな。」
誠一
「・・・」
軍人
「だがな、上からできる限り捕らえて殺すなという命令が出ていたんだよ。」
誠一
「なぜ?」
軍人
「さあな、あいつは殺生が嫌いっていうのもあるし、殺すために戦っているんじゃないが俺らの心情だ。
わかったらさっさと消えな。」
誠一はいら立って軍人の胸ぐらをつかんだ。
誠一
「なんだよそれ、隊長の同情で殺されなかったのか?ふざけんな!
俺は同情される義理もねえし、される気もねえ。」
スラムに生まれ、自分に利がないことはしても無駄だと叩き込まれて生きてきた誠一には全く理解できなかった。
時に仲間同士でも食糧を奪い合い、殺し合ったこともある。
リーダー的な存在のやつの命令でも、自分が気に食わなければ自分の思いどおりに行動していた。
でなければ自分が死んでいたからだ。
現に誠一は食糧難のときに、育ての親に殺されかけた。
誠一
「同情なんざいらねえ、そんなことされるくらいならいっそこの場で殺せ。」
そう言った刹那、誠一は銃で殴られ地面に叩きつけられ、理解も抵抗もする暇なく顎に銃口を突き付けられた。
軍人
「ダダをこねるのもいい加減にしろクソガキ。
てめえ悲劇のヒロインにでもなったつもりか?」
さっきまで無表情だった軍人の顔が怒りに満ちていて、誠一は指一つ動かすことができなかった。
顎に突き付けられた冷たい銃口から確かな死の匂いがした。
軍人
「自分だけが不幸と思うな、幸運は自分でつかみ取るもんだ。
命をなげだすな、命があるだけありがたいと思え。
生きてりゃ何とかなることも死んだらどうしようもねえ。
てめえが死んで悲しむやつがいねえなら今から悲しんでくれる仲間を作ればいい。」
不意に軍人の目から涙があふれた。
誠一は理解することもできずただその顔を見て困惑した。
軍人
「てめえらが襲った食糧庫の備品整理をしていたのは俺の親友だ。
同じ飯食って育った俺の・・・。
てめえが生きなけりゃあいつの死は完全な無駄になる。
俺がその答えを出すのにどれほど苦しんだかわかるか・・・。」
突き付ける銃口をつたって涙が流れてきた。
仲間?
親友?
そんなもの一時的なもので、最終的には生きるために利用するためにあるものだと思っていた。
なぜそんなもののために涙を流せる?
わからない・・・。
でも、痛い・・・。
辛い・・・・。
長い沈黙の後、先に声を発したのは誠一だった。
誠一
「なあ。」
軍人
「・・・なんだ。」
誠一
「どうやったらあんたの軍に入れる。」
軍人
「・・・はあ?」
軍人は何を言っているのかすぐには理解出来ていなかった。
誠一
「俺には本当の仲間の意味がいまいちわからないからあんたの涙のわけもよくわからないんだ。
いままで泣く暇さえなかったから。
でも、あんたの軍に入ればその理由がわかる気がするんだ。
どうせ身よりもないし帰る場所もない。
悪党に逆戻りするくらいなら、あんたの軍に少しでも恩返ししたほうがあんたの親友を殺して生きながらえたことが無駄にならずにすむんじゃないのか。」
軍人は、フッと笑うと銃をしまってヘルメットを取った。
すると、朱雀族特有の赤髪が姿をあらわした。
誠一
「なあ、おっさん。」
軍人
「グランドだ。
おっさんっていうほど年食ってねえよ馬鹿。」
誠一
「グランド、ってことはやっぱ朱雀族なのか?」
グランド
「ああそうだ。」
朱雀族はみな直毛の赤髪をしている。
白虎族と一番仲が悪く、ことあるごとに小競り合いを繰り返している種族だ。
誠一
「なんで敵のはずの白虎族の軍にいるんだ?」
グランド
「おまえといっしょだよ。
俺もウロボロスのスラム生まれだ。
もっとも、物心ついたころには軍に拾われてたから自分が朱雀族だという実感はないけどな。」
そう言うと誠一の胸ぐらをつかむとぐいっと顔を近づけた。
グランド
「だが遊びじゃねえぞ。
普段は人の護衛が主な仕事になるが、戦争が始まれば第一線に出ることもざらだ。
いつ死んだっておかしくねえ。
それでも入りたいんだな。」
誠一
「俺は生きてるほうが不思議なくらいの生活してきたんだ。
これからはあんたたちに命を預けてみるのも悪くない。」
そこまで言うとグランドはつかんだ手をパッと離してた。
立ち上がって砂を払う誠一にむかってニッと笑うと、持っていたヘルメットを誠一にかぶせた。
グランド
「いいだろう、俺の部隊に入れてやる。
しばらくは地獄みせてやるから覚悟しろ。
使えねえと思ったら即座に叩きだすからな。」
誠一
「よろしくな、上官。」
グランド
「アルファ部隊隊長だ馬鹿やろう。」
龍牙
「誠一?」
龍牙の声ではっと我に帰り辺りを見回す。
船がウロボロスに着こうとしていた。
いつも読んでいただいてありがとうございます。
作者です。
やっとこさ再試が終わったので久々の連載になります、が!大学が、、、始まってしまうんですよね。
下宿先にはインターネットがないので、次の連載も予定は未定ということで気長に待っていただければ光栄です。
ではまたFILE5で会いましょう。