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最強魔王の夢物語(ユニバース)  作者: チャミ
第一章 悪魔遊戯《デスゲーム》
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第19話 約束

「──と、そんなこんなで俺は教師をすることになったって訳だ」


 教師になった理由を簡潔に説明したシルヴァは、息を吐く。


「そういう事だったんだねー」


 リナが納得したように「うん、うん」と腕を組んで頷いている。ニックも大体の事は理解出来た。

 ロゼリア先生が、最善の策って言っていたのもこの事だったのだろう。先に言っておいてくれれば良かったのに。


「まさか、今日からだったのは驚いたけどな」

「そのわりには、結構教師してたと思うけど?」

「お前、ぶん殴るぞ」


 シルヴァの視線が怖い。青い瞳の奥底から静かに怒りが燃えていた。ニックは、小さく一言謝り視線を反らす。そんな様子にリナは小さな笑いをこらえているのか肩を小刻みに揺らしていた。


「でも、まさかシルヴァが新しい先生だとは思わなかったよ。教室に入ってきた時、ビックリしたんだから」

「うんうん、私も」


 笑い終えたリナがシルヴァの方を見ながらニックに賛同する。

 シルヴァは、一言返事をして後ろを振り返り歩き始める。いきなりの事だったので思わず声をかけてしまう。


「どうしたの?」

「帰るんだよ。もう、暗くなってきたからな」


 そう言われて空を見上げる。さっきまで一面オレンジ色だったはずの空が、今では半分はオレンジだがもう半分は紫色になっていた。まるで、絵の具で塗られたような鮮やかな色合いに思わず見とれてしまう。所々にある雲が空の色と混ざりあい、その景色をより一層綺麗なものに仕上げている。


「ホントだ……」

「そういうこった。じゃあな」


 歩き出すシルヴァだったが、足を止め振り返る。


「おい、ニック」


 空から視線を落とす。


「明日から、朝と放課後はここに来い。朝の五時半前にはここに来とけ。放課後は、ホームルームが終わったらすぐにだ」

「え? なんで?」


 訳がわからずニックは首をかしげる。ニックのその反応に不満そうに眉を八の字にする。


「お前、昨日の約束忘れたのか?」

「……約束?」


 何か約束したかな? ……あ! あれか!

 ニックの頭の中で昨日のシルヴァの一言がフラッシュバックする。


 ──だから、俺が魔術を使えるようにしてやる。


 そんなシルヴァの言葉が頭に浮かび上がる。


「思い出したか……」


 呆れたようにシルヴァは、ため息をついた。


「明日からここで魔術の特訓をする。遅れたらぶん殴る。ついでにテストの点を1秒ごとに引いていく」


 物理的ダメージと精神的ダメージ、どちらとも与えてくる辺りシルヴァ先生は鬼畜きちくですね。


「う、うん。分かった。遅れないように気を付けるよ」


 そんな事は絶対にされたくないので、ニックは明日絶対早く起きようと決意した。苦笑いしながら返答したニックはさらに続ける。


「ありがとね、シルヴァ」


 シルヴァが教える特訓は随分と厳しそうな気がするが、ニックは心の底から感謝した。こんな自分に魔術を教えてくれることに。

 シルヴァは、それだけ聞くとズボンのポケットに手を突っ込みロングコートを揺らしながら歩いてその場を静かに立ち去った。


「じゃあ、私たちもそろそろ行く?」


 腕を上げて体を伸ばしながらリナは、ニックの方を向いて話しかける。

 ニックもリナの方を向いて返答しようと思い顔をリナの方に向けるが、伸びをしているリナの体に視線が移ってしまう。制服の上からでも分かる二つの丘が伸びをしているせいでより強調されニックの視線は自然にそちらに移る。見ないようにと努力するも全く無意味だった。


「どうしたの? ニック」

「え!? いや、あの、な、なんでもないですよ!?」

「なんで敬語?」


 伸びをし終わったリナは、小さく笑いながら腕を下ろす。


「ホント大丈夫なので、はい。ごめんなさい……」


 男のさがというものの恐ろしさを身に染みたニックは、一応リナに謝っておく。


「大丈夫ならいいんだけど……」


 リナは、そう言いながら歩き出す。恐らくりょうへと帰ろうとしてるのだろう。ニックもリナの隣まで来て一緒に歩みを進める。

 だが、少しするとリナはうつむき緊張したような表情でニックに向かって口を動かした。


「ねぇ、ニック」

「なに?」

「その……さっきシルヴァが言ってたやつ、私も行ってもいいかな?」

「え?」


 シルヴァが言ってたやつというのは魔術の特訓のことだろうか?


「い、いや! ほら、私もシルヴァから魔術教わりたいな~……なんて」


 ニックの方を何度もチラ見しながら聞いてくるリナにニックは、優しく微笑む。


「もちろん! 大丈夫だよ!」

「ホント!? 良かった~」


 嬉しそうにリナは、自分の手を胸の前で握っている。

 そんな、リナの様子にニックは、よほどシルヴァに魔術を教わりたかったんだなと少しだけ何故か嬉し気持ちになった。


「そんなにシルヴァに教えてほしかったんだね! 一緒に頑張ろ!」

「そ、そうなんだよね~。私もいっぱい魔術覚えたくて~。が、頑張ろうね!」

「うん。じゃあ、寮に戻ろうか」


 二人は止めていた足を動かし寮へと向かった。


「魔術を教えて欲しいのも少しあるけど……本当はニックと一緒に少しでも居たいだけなんだよな~……」

「ん? 今なんか言った、リナ?」

「え!? な、なんでもないよ! ほ、ほら早く寮に戻ろう!」

「う、うん」


 まるでさっきの自分を見てるかのようなリナの反応を不思議に思ったが、ニックは気にせずに寮へと向かう。向かってる途中でニックのお腹が鳴り、それから寮に着くまで今日食べる食堂のメニューを何にしようか二人で話しながら帰っていた。




 しかし、この時すでに恐ろしい脅威が近づいている事に誰一人として気がついてはいない。ニックや学園の教師、シルヴァでさえその時が来るまで気がつく事はなかった。




***********************





 朝、目覚まし時計により目が覚めたニックは紺色の制服とグレーのズボンを着て、姿見で身嗜みだしなみをチェックする。黒縁の眼鏡を掛け、少し急ぎ気味に自分の部屋から出た。昨日の放課後、シルヴァと約束した場所まで足早に向かっていく。

 寮は、朝早いこともあって誰もいなかった。ニックの歩く音だけが廊下にこだまする。こうも静かだと逆に新鮮で少し気持ちがゆったりとする。

 外に出たニックは、一度玄関で体を伸ばす。うっすらまとわりつく眠気を朝の冷たい空気で退治する。だが人間の体は無力だ。思わず欠伸あくびがニックから溢れた。


「さすがに眠いな~」


 朝五時。三十分も早く起きてしまった。シルヴァに殴られテストの点数を引かれまいと早めに目覚ましをセットしたが、さすがに早すぎたようだ。


「五時だと食堂もまだ開いてないし……」


 時間を潰すあてのないニックは、早めに昨日いた場所まで行くことにしたのだ。というのも、シルヴァに魔術を教わるのだから少しでも早く来て自主練に勤しもうというのだ。自分のほほを両手でたたき気を引き締め、ニックは再び歩き出す。





 昨日約束した場所に着いたニックは、シルヴァがまだ来ていないことを確認しとりあえず安心する。

 やっぱ、早すぎたかな。

 一人で小さく笑ったニックは空を見上げる。朝日は、ほとんど顔を出しておらず空は水色に染まっている。所々薄い雲が浮いていて鳥たちもその空を自由に飛んでいた。

 朝の気温は思ったより冷えており、少しだけ手が冷たい。芝生に朝露あさつゆが降りたせいでニックのズボンは、所々グレーから濃い黒に変わっている。歩いている時に、跳ねてつゆがズボンについたのだろう。

 ニックは、改めて深呼吸して朝の新鮮な空気を肺に取り込む。


「さて、とりあえず──」

「ほぉ、まさかこんなに早く来るとはな」


 急に後ろから声が聞こえニックは、勢いよく後ろを振り返る。すると、そこには黒い教師用の制服にロングコートを来たシルヴァがズボンのポケットに手を突っ込んで立っていた。


「な、なんだシルヴァか……ビックリした~」

「なんだ、とは失礼だな。お前の為に来てやってんのに」

「それは、確かに。ごめん」


 体をしっかりとシルヴァの方に向ける。


「でも、なんでシルヴァがこんなに早く? 約束の時間までは結構時間あるよ?」

「はぁー……」


 わざとらしくシルヴァは、ため息をつく。


「俺とお前は、契約の証で繋がっている状態だ。つまり、お前が何をしてるのかもある程度はこっちも把握はあく出来るって事だ」

「へぇー、そんな機能もあるんだ」

「知らないのか……」

「使い魔召喚が載ってる本、ドラゴンが来たときに無くしちゃって使い魔召喚の事よく分からないんだよね」


 図書室から借りた本だから期限までに返さないといけないのに何処に行ったのか分からない。完全に詰みだ。この事を司書の先生に伝えるとひどく怒られ、数週間本を借りるのを禁止されてしまった。

 結局細部まであの本を読むことはできず、使い魔召喚についても全然分からないのが本音である。


「まぁ、いい。さっさと始めるぞ」

「うん!」

「それじゃ、まずお前が出来るっていう防御魔術からやってみろ」

「分かった」


 ニックは、シルヴァと五メートル離れた辺りの距離で防御魔術をするために目を閉じ大きく深呼吸する。体をゆっくり落ち着かせる。そして、手のひらを広げながら両腕を上げる。手のひらに魔力を集中させる。体の中から沸き上がってくる魔力が手のひらに送られていくのが分かる。


「──この身を守りし しゅの精よ 猛攻を防ぐ盾となれ」


 防御魔術の防御壁ディフェンドをゆっくりと詠唱えいしょうするニック。すると、青い魔法陣が宙に発動されニックの身長と同じくらいの大きさの防御魔術が完成した。


「出来たよ。シルヴァ」


 目を開いたニックは、前にいるシルヴァの方を向くとシルヴァは口を小さく開けたまま硬直こうちょくしていた。

 ニックの声で我に返ったのかシルヴァは、白い手袋を着けた右手で頭を抱える。


「どうかしたの? シルヴァ」

「……お前、それマジでやってるのか?」

「あたりまえじゃないか」

「そうか……。ニック、ちょっとそのままでいろ」


 シルヴァが何を言いたいのか分からないが、とりあえず頷いておく。

 シルヴァは、地面を軽く見渡すと何かを見つけたのか五歩ほど歩きだす。身をかがめ、何を拾い上げまたニックの元へと戻ってくる。

 最初は何を持っているのか分からなかったが、近づいたシルヴァが持っているものが見えた時やっとそれが何なのか理解した。


「それって……」

「あぁ。ただの石だ」


 シルヴァが、持っていたのはあめ玉ほどの大きさのまだら色の小石だった。石を軽く宙に投げ同じ手で掴み取る。それを数回繰り返す。


「なんで、そんな物……」

「いいから、そのまま防御魔術発動しとけ」

「う、うん」


 ニックは、困惑しながらも防御魔術を維持いじする。

 シルヴァは、石を掴んだままゆっくりと腕を引く。ある程度引いたところで一旦いったん止める。


「よし、行くぞー」

「えっ? なにが──」


 来るの? と言おうとしたニックの顔の横を何かがものすごい勢いで通り抜けていく。その時に、防御壁ディフェンドも破られ青い魔法陣がガラスが割れたときのように高い音を出しながら壊れる。

 ニックは、何が通ったのかゆっくりと後ろを振り返ると遠く後ろにとう間隔かんかくで並んでいる一本の木に何やら何かがめり込んでいる。目を凝らしてよく見るとそれは、さっきシルヴァが持っていた斑色の小石だった。

 一瞬にして血の気が引く。ニックは、ゆっくりとシルヴァの方を向くために後ろを振り返る。振り返るとシルヴァは、ポケットに片手を突っ込んで呑気のんきに欠伸をしていた。


「あのー……シルヴァさん?」

「あ? どうした?」

「今のって……」

「俺が投げた石だが? 見りゃ分かんだろ」


 ってことは、石に負けたって事か……。

 色々と悲しくなり肩を落とす。思わずため息まで漏れてしまった。


「これで、分かっただろ。お前は防御壁ディフェンドさえろくに扱えてない。俺がさっきマジでやってんのか、と聞いたのはそう言うことだ」


 自分で言いながらシルヴァ自身もあるじであるニックが、こんなにもひどいのかと実感し頭を抱える。


「よくドラゴンに会って生きてたもんだな」

「それに関しては僕が一番ビックリしてます……。ドラゴンに攻撃された時、防御壁これで守ったんだけど、全然意味なかったね」

「あんな防御魔術で守ろうとしてたのか……そりゃ死にかけるわ」


 ドラゴンにやられたはずの脇腹が少しうずく。もちろんシルヴァに治してもらったおかげで傷なんてものは無いのだが、あの時のことを思い出すとトラウマが蘇る。

 シルヴァは、呆れた顔をしながらポケットから右手を出す。


「さっきのお前の防御魔術を見て思ったことは、色々あるがまとめるなら三つだな。まず、魔力を引き出すのに時間がかかりすぎだ。意識を一度集中させて、魔力を引っ張ってくるようじゃ話にならん」


 右手をニックとは九十度別の方向に向けて手を広げる。


「そして、二つ目。魔力操作だ。防御魔術を使うときに必要な魔力が足りていない。お前には、魔力がバカみたいにあるくせにその操作が全くできていない。容器に満タンに水を入れろと言ってのに半分くらいしか入れないで、満タンに入りました! と勘違いしているのと同じだ」


 広げた手のひらから、一瞬にしてニックのよりも一回りも大きく分厚い防御壁ディフェンドが発動される。


「三つ目、これに関しては見た限りそう思っただけだがイメージが全くできていない。というかしてないだろ?」


 それを言われてニックは、ハッとする。確かに魔術を使うとき、ただを詠唱をして魔術を発動するということをだけを考えて使っていた。


「魔術ってのは、基本的にイメージが大切だ。そのイメージによって魔術の質も変わってくる。と、大体はこんな感じにまとめたがそれをより正確にすればこれくらいは出来るだろ」


 発動させていた防御壁ディフェンドが手を降ろしたと同時に静かに消滅する。


「一つ良い? シルヴァ」

「なんだ」

「その、一つ目と二つ目はなんとなく分かったんだけど……。三つ目のイメージって具体的にはどんなのをイメージすればいいの?」

「そうだな……。イメージなんてもんは、人それぞれ違うもんだ。だから、別にどんなものをイメージしても構わない。ちなみに聞くがお前ならどんなのをイメージする?」


 突然の質問に、思わず声が出る。ニックは、腕を組んで数秒考える。


「僕なら壁とかかな? 守るっていったらそういうのじゃない?」

「壁か。いいんじゃねーか。防御魔術を使う時はそれをイメージして今度から使え」

「うん! そうするよ。じゃあ、シルヴァは、何をイメージしてるの?」

「俺か? 俺は……布だな」

「……えっ!?」


 あまりにも予想外の発言に目を見開きシルヴァの顔を見つめる。


「どうした?」

「えっ、ぬ、布? なんで布?」


 どう考えたって防御というにはあまりにも不釣り合いではないだろうか。普通なら、ニックが言ったような壁や鉄などといった固くて頑丈がんじょうなものをイメージすると思うのだが。だがシルヴァが答えたのは布。ニックには、理解出来ずにシルヴァに素直に聞いてみる。


「布ってのは糸が一本一本規則正しく絡み合って出来るもんだ。なら魔力で同じ事をすれば壁みたいな単純なものより複雑なものが出来上がる」


 いまいちよく分からない。

 ニックが、首を傾げているとシルヴァが頭をく。


「さっきも言ったがイメージは人それぞれだ。わざわざ、他人のイメージを理解しようとしなくても良い」

「なるほど」

「さて、それじゃ本格的に始めるか」


 こうして、ニックとシルヴァの特訓は開始された。いろんな意味でニックには、不安しかなく思わず弱音が漏れる。


「これ、僕ちゃんと魔術使えるようになるのかな……」





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