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最強魔王の夢物語(ユニバース)  作者: チャミ
第一章 悪魔遊戯《デスゲーム》
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第20話 特訓開始

 ニックには、ダメな所が約三つあるらしい。魔力を引き出すのが遅い、魔力操作、イメージ。この三つの全てをこれから特訓するようだ。

 シルヴァは、コートの内ポケットから何かを取り出しニックに軽く投げる。弧を描いて飛んでくるものを慌てて両手でキャッチする。受け取った物を両手を広げ見てみると透明なガラス玉だった。両手で持つと丁度良い大きさのガラス玉を見つめながら眉をひそめる。


「それは、お前にうってつけの魔術器具だ。そのクリスタルは魔力をある程度通すと形状が変化する。お前の当分の目標は、そのクリスタルに魔力を通して形状変化させてそれを維持させることだ」


 一体どんな形になるのだろうと疑問に思っているとシルヴァが補足の一言をニックに告げる。


「ちなみに、そのクリスタルだが魔力を入れすぎると壊れるから覚えとけよ」

「……え」


 魔力入れすぎると壊れるの? それ、特訓になる?一万個は壊せる自信があるよ。


「安心しろ。このクリスタルには、二つの術式スペルが刻んであってな。一つは、魔力が一定値入ってくると形状変化する魔術」

「もう一つは?」

自動再生オートヒールだ」


 これまたすごい魔術を。

 『自動再生オートヒール』は発動している最中、傷を受けると自動で治してくれるという上位の回復魔術だ。ただ既に傷ついている所には、自動再生オートヒールは機能しない。


「だから、別に何度壊しても良い。物は試しだ。早速やってみろ」

「う、うん」


 ガラス玉のようなクリスタルを手に乗せたまま意識を集中させる。

 とりあえず、いつも防御壁ディフェンドを使う感じでクリスタルに向けて魔力を通していく。入れすぎると壊れるというのだが、少しずつ慎重にクリスタルに魔力を通す。

 パリンッ! 一瞬にして甲高い音とともにクリスタルが弾ける。その音と弾けた衝撃にニックは、一瞬何が起きたのか分からず驚く。少ししてクリスタルが、割れたのだと分かった。


「魔力の入れすぎだ」


 シルヴァは、腕を組みながら割れたクリスタルを見る。


「え、でも今、ほんの少ししか魔力入れてないよ?」

「だが、クリスタルは割れた。つまり?」


 ニックに答えをうながす。


「つまり……このクリスタルに入る魔力が少ないってこと?」

「そういうこった。下手にたくさんの魔力を入れられるように設定したところで大した練習にはならん。だったらいっそ入る魔力の制限を極限まで小さくした方が練習になる」


 ニックは、手に持っている割れたクリスタルに視線を落とす。


「どれだけ入る魔力少ないんだよ。これ」


 苦笑いするニック。シルヴァは、「ほら、もっかいやれ」と顎で急かしてくる。

 もう一度、手のひらを見るとさっきまで割れていたはずのクリスタルは、時がさかのぼったように汚れ一つ無い透明なガラス玉に戻っていた。

 自動再生オートヒール、初めて見たけど、すごいな……。

 心の中で感心したニックは、シルヴァに言われた通りにもう一度クリスタルに魔力を今度は慎重に通していく。


「よし、今度こそ」


 パリンッ! また、クリスタルは壊れてしまった。


「あ、また割れちゃった。でも、まぁまだまだこれから! ドンドンいこう!」


 パリンッ! パリンッ! パリンッ! パリンッ! パリ──








「全然出来なーーーーーーーい!!!!」


 地面に両手を着き四つんいの状況で心の底からさけぶ。シルヴァは、そんなニックを見て呆れたようにため息をつく。


「まさか、ここまで出来ないとは正直思ってなかったぞ……」


 それは、こっちの台詞せりふです! 自分が一番驚いてるよ! さすがに、百回以上やって全部割れるとは思わないでしょ。いや、確かに魔術は全然使えないよ? けどここまでとは……。

 そんな事を思っても結果は、変わらない。特訓を始めてから一時間程経ったが、クリスタルはことごとく一瞬で割れ全く特訓になっていなかった。


「お前、真剣にやってるか?」

「本人は超真剣です!」

「それにしたって……これは、普通ありえねーぞ」


 もう、やめて。心が傷付くから。


「ニック。そのクリスタル貸せ」


 手を軽くあげるシルヴァに向かって地面に置いてあったクリスタルを立ち上がるついでに掴みシルヴァの方に投げる。手を横に動かしキャッチしたシルヴァは、手のひらでクリスタルを安定させる。

 何をするのか、と凝視しているとシルヴァが持っているクリスタルがみるみる球体から箱のように四角くなっていく。どうやら、魔力をちゃんと通すと四角くなるらしい。

 っていうか、サラッと成功させたな。シルヴァ。


「クリスタルに問題は、無いか。それなら、やっぱお前だよな」


 ニックを見ながらつぶやく。

 数秒間の沈黙。その沈黙が、ニックの心を傷つけていく。

 明らかにシルヴァの視線が冷たい。完全に呆れてるよ、これ。さすがに笑えない。

 そんな事を思っていると、どこからともなく声が聞こえる。


「おーーい! ニックー! シルヴァー!」


 聞き覚えのある声が聞こえ、二人でその声の方向に首を向ける。

 視線の先には、赤い髪を左右に揺らし右手を大きく振りながら走っているリナの姿があった。いつものように、太陽のような笑顔だ。スカートがヒラヒラと翻って、白い太ももが交互に瞳にうつる。それと同時に手を振っている手とは反対の左手に麦でんだカバンを持っている。


「ごめん。ちょっとバタバタして遅れちゃった」


 近くまで来たリナは、申し訳なさそうに笑う。

 そんなリナにシルヴァは不思議な表情をする。


「おい、リナ」

「ん?」

「なんで、お前がここに来てんだよ。俺は、呼んでねーぞ」


 言い方が冷たすぎるよ、シルヴァ。


「あ、ごめん。やっぱり、来ちゃダメだった?」


 肩を落として落ち込む。

 このままでいけないと思いニックは、すかさずシルヴァに昨日シルヴァが帰った後の話を説明する。





「っていうと、お前も魔術を教わりたいって事か」

「う、うん」


 リナは、何故か苦笑いしながら答える。


「別に良いが、最優先で教えるのはニックこいつだからな。そんなに教えられんかもしれんぞ」

「分かった!」


 リナの顔から太陽の笑顔が戻る。

 とりあえずは、一安心。自分が了承しておいて、帰らせるのはさすがに酷い。リナが来ることをシルヴァに言うのを忘れていたのも酷いが……良かった。


「ところで、リナ?」

「なに?」

「そのカバンはどうしたの? 魔術の道具とか持ってきたの?」


 リナが持ってるカバンを指差しながら問いかける。リナはカバンを少し持ち上げた。


「あ、これね! 朝ごはん!」

「朝ごはん??」

「うん! みんなの分、作ってきたの」

「えっ!」


 朝、遅れてきたのは朝ごはんを作ってたからだったのか。本当に嬉しい。女子の手料理を食べれる機会なんてそうそう無い。


「朝早くて食べて無いでしょ? 二人とも」


 笑顔で少し首を傾げる。

 リナは、カバンからチェック柄のレジャーシートを取りだし地面にく。三人で座るには少し大きいが、問題はないだろう。


「ほら、座って座って」

「あ、それじゃ」


 シートに座ると、シルヴァが声をかけてくる。


「おい、特訓はどうする気だ」

「それは……これを食べてからってのはダメかな?」


 特訓も大事だが、女子の手料理も大事だ。それにお腹も空いてたし。丁度よくニックのお腹が鳴る。


「……分かった。食い終わったらまた再開するぞ。それまでに、クリスタルをお前に合わせて調整しといてやる」


 シルヴァは、そう言ってニックとリナに背を向け歩き出そうとする。その背中を呼び止めたのは、リナだった。


「シルヴァ!」

「あ? なんだ?」


 肩越しに振り返る。


「どこに行くの? 一緒に食べよっ」

「俺は、別に腹は減ってねーよ。それに俺は──」

「ほらっ! こっちこっち!」


 シルヴァの意見を無視してシートの空いている所に手を二回ポンポンと優しく叩く。

 一瞬、静かな時が流れたがシルヴァは、諦めたように振り返りシートに座る。嬉しそうにニコニコするリナにニックは、感心させられていた。

 シルヴァが、リナに……。シルヴァも意外と女の子には弱かったりするのかな? それとも、リナがすごいのかな?


「それじゃあ、食べよっか!」


 リナは、カバンからカバンと同じような麦で編まれた箱を取り出す。それを三人の中心に置いてふたを両手で開ける。


「おーー!」


 思わず声が漏れる。

 箱に入っていたのは、ぎっしりと詰められたサンドウィッチだった。タマゴサンドにレタスとハムを挟んだ物や、ハムとチーズを交互に重ねたものをサンドした物があり見ているだけで食欲をそそる。


「どーぞ!」

「じゃあ! いっただきまーす!」


 ニックは、タマゴサンドを手に取り一口食べてみる。卵とマヨネーズの風味が口の中を満たしていく。少しだけ入ったこしょうが、アクセントになって旨味をさらに引き上げる。食べるスピードが、次第に早くなっていった。長方形に切られたサンドウィッチをペロッと一つたいらげる。

 横からのリナの視線を感じる。


「うん! すっごく、美味しいよ! こんなに美味しいサンドウィッチ食べたの初めてだよ!」


 純粋な感想をリナに言うと、リナは少し不安そうな顔から一気に明るい表情に戻る。自分の胸に手を置いて安心したように息を一つ吐く。


「良かった~。美味しくなかったらどうしようか、心配だったんだ」

「そうだったんだね。でも、リナ、料理上手なんだね。ちょっと意外かも」


 静かに取った二つ目のサンドウィッチを食べながらニックは、そんな事を言った。その発言にリナは、ムスッとする。


「えー、どういうことーそれー。私だって料理くらいでーきーまーすぅ!」


 頬を膨らませるリナ。

 どうやら、怒らせてしまったらしい。ここは、素直に謝っておこう。


「ごめん、ごめん」

「もー、ニックのバカっ」


 だが、その後小さくボソッとニックには聞こえない声で呟く。


「出来るようになったの最近だけどね……」

「どうしたの? リナ」

「なんでもない!」


 リナもサンドウィッチを一つ取り、モグモグと食べていく。食べながらリナはシルヴァの方を横目で見る。


「どうしたの、シルヴァ。食べないの?」

「あ、あぁ。それじゃ……」


 シルヴァは、戸惑いながらも一番近くにあったサンドウィッチを手に取る。青い瞳で、サンドウィッチを見つめた。

 何やら、シルヴァの様子が変だ。


「シルヴァ。どうかしたの?」


 思わずニックは、シルヴァに声をかける。


「だ、大丈夫だ」

「そう? でも、なんか……」

「……」


 シルヴァは、サンドウィッチを見つめながら小さく喋り始める。


ここの飯・・・・を食うのは・・・・・初めてだからな・・・・・・・


 一瞬何を言ってるのか分からなかったが、少し考えるとそれはすぐに理解できた。

 恐らく人間の食べ物を食べたことがないのだろう。魔族の食事が何かは分からないが、魔王でも少しは躊躇ちゅうちょするのかと親近感が湧いた。


「まぁ、食ったことはたぶん・・・あるから大丈夫だ。お前もさっさと食え」

「う、うん」


 ニックは、三つ目を手に取り食べていく。

 シルヴァも、サンドウィッチとのにらめっこは止め普通に食べ進めていく。サンドウィッチを一口食べたとき一瞬シルヴァの目が輝いた気がした。








「ごちそうさまでした!」


 朝食を食べ終えたニックは、手を合わせリナに向かってお礼を言う。シルヴァもシートから、立ち上がる時に、「うまかった……」とリナに小さく呟いていた。その時、リナは嬉しそうに「ありがと!」と満面の笑みで返していた。


「じゃあ、特訓再開するか」


 ニックもシートから立ち上がる。


「うん」

「後、一時間くらいしか無いがな」


 あと一時間もすれば、生徒たちが起きてくるだろう。短い間だが、真剣に取り組もう。


「ほらっ、お前はこれやれ」


 シルヴァは、さっきまで特訓に使っていたクリスタルをニックに軽く投げる。


「さっきのやつよりは、やり易くなってるはずだ。術式スペルを少しいじったからこれでとりあえず練習しとけ」

「結局、魔力の入れる量変えたんだね」

「あぁ。どっかの誰かさんが、予想以上に出来ないんでな」


 身に覚えがありすぎる。自分の不甲斐ふがいなさに涙出てきそう。

 分かりやすく肩を落とす。そんなニックを、よそ目にシルヴァはリナにも同じようにクリスタルを投げる。リナは、器用に両手でキャッチした。


「シルヴァ、これは?」

「それは、特訓用の魔術器具だ。お前もニックと同じようにそのクリスタルに魔力を入れてもらう」


 シルヴァは、魔力を上手く通せば形が変わる事と何度壊れても元通りになる事を手短にリナに伝えた。


「オッケー! とりあえず、やってみるよ!」


 リナは、クリスタルを両手の手のひらに置き見つめる。ごく少量の魔力が、感じられた。

 パリンッ!

 リナの持っているクリスタルは、ニックと同じように呆気あっけなく割れてしまった。リナは、目を丸くする。


「……これ、難しいね~」

「まぁ、やったことないやつには難しいだろうな。だが、すぐコツは掴めるはずだ。どっかの誰かさんとは違って」


 やめてー、シルヴァさん。こっち見ないでー。そんな目でこっちを見ないで。





 そして、約一時間が経過し朝の特訓は終了となった。

 ニックは、相変わらずクリスタルを壊しまくった。せっかくシルヴァに新しく作ってもらったが一時間で壊した回数は、やはり百回以上だった。だが、まだ特訓初日だし焦ることもないだろうと心の底で小さく思っているもののかなり心に来る。

 リナは、ニックとは違い百回以上割る事はなかった。最初のうちは、結構割っていたが最後の三十分は十回やって二回は形状変化を成功させていた。初めて形状変化をさせたとき、リナはジャンプしながら喜んでいた。


「なかなか、いいすじしてんな」

「すごいよ! リナ」

「えへへー、二人ともありがとっ!」


 特訓を終えた二人は、シルヴァにクリスタルを返しもうすっかり日が昇った空に向かって大きく背伸びをした。


「あー! 疲れたー!」


 ニックは、大きく背伸びをしながらそう言った。


「結局、成功してねーけどな。お前は」

「うっ……。ごめんなさい」


 シルヴァの一言が胸に刺さる。


「まぁ、とりあえず早くここから解散すんぞ。他のやつらが、いつ来てもおかしくねーからな」


 ニックと、リナの二人を置いていくように一人でスタスタと歩いていく。その背中を二人で見つめていると、シルヴァはこちらを振り返らずに声だけを向けてきた。


「放課後もここでな。あと、早く教室行けよ」


 魔王とは思えぬ言葉を言ってその場を去っていく。


「なんか、今の先生っぽいね」

「ニック。今は、一応先生だよ。シルヴァは」

「そう、だね」


 一瞬沈黙が、流れる。二人きりになったせいで何気に緊張する。


「……えーと、シルヴァにも言われたしとりあえず教室行く?」

「そ、そうだね!」


 ニックとリナの二人もその場から離れて、自分たちの教室へと向かった。だが、並んで歩いた二人の距離は少しだけ離れていた。




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