ⅩⅢ.権藤渚沙
——全て分かった。
違和感の霧が、金色の目を見た途端に晴れていくのが分かった。
中村杏梨が殺された時だ。
あの三人が殺したのだろうと思っていたけど、どこか違和感があった。
『カミサマ』は生きた贄しか欲しない。
予定を変更して、彼女を贄にしようとしたとして、あんなに傷つければ、井戸に運ぶ前に死んでしまうじゃないか。
それから、消えた右脚——七年前の被害者と同じ、右脚。
揺れる渚沙の瞳の先で、金色の目がニッと笑った。
「前の時にね、足りなかったから、右脚」
ちょうどその頃、町田は黒猫が行方不明になったと言っていた。
渚沙は猫の口元にそっと触れる……黒く滑らかな毛に、乾いた何かがこびり付いていた。
「あぁぁ……」
声にならない悲鳴が渚沙の口から漏れる。
そうなると、もうひとつ、思い当たることがある。
サイレンだ。
あれは、ペンションの玄関と呼声井に設置されたセンサーに反応して鳴るようになっている。
玄関のセンサーは、先着した猪崎と安住が解除している。だから、中村姉弟が入った時も、渚沙が五味を連れ込んだ時も反応しなかった。
ならば、あの時鳴ったサイレンは……。
何かで汚れた口から牙が覗く。
「エサが来たと思ったら、待ち切れなくなっちゃったんだ」
サイレンは、井戸から出てきた『カミサマ』に反応して鳴ったんだ。
中村姉を喰った後、人間が集まってきたから、咄嗟に黒猫に取り憑いたんだ。
カミサマは、実在したんだ……。
黒猫はピョンと渚沙の膝に乗る。
「街にはいっぱい人間がいるんだろ? ねえ、早く連れてってよ——少し先の別荘に、結界になってる祠があるんだ。あれを壊せば、ボクは自由になれるから」
渚沙の脳内をぐるぐると映像が巡る。
街を歩く人々が、濁流に呑まれる光景。
それに重なる、それらの人々が渚沙に向けた無関心。
渚沙が助けを求めたくても、拒絶した無言の壁。
そんな奴らのために、私は殺されそうになっていた。
あいつらに、守るべき価値なんてあるのか?
渚沙は薄笑いを浮かべた。
「いいよ」
——これで、私も自由になれる。




