↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/13

Ⅰ.五味秀一

 その廃ペンションに到着した五味秀一(ごみしゅういち)は、彼らの他に二台の車が停まっているのに戸惑った。

 この場所は現在、立ち入り禁止区域である。なぜ先客がいるのか?


 運転席から様子を伺っていると、助手席でダッシュボードに足を投げ出す権藤渚沙(ごんどうなぎさ)がだるそうに言った。


「暗くなる前に終わらせようぜ。死体をひとつ埋めるだけじゃん」

「そういう訳にいかない。顔を見られたらまずい」


 五味はいわゆる『反社』と呼ばれる組織に属しており、万一問題を起こせば、組織全体に迷惑がかかる。今どきのヤクザというのは、何事も慎重にしなければならないのだ。


 一方、見た目は女子高生に見える渚沙の方が大胆だ。


「誰も見てない(・・・・・・)ことにすればいいだろ」


 さすがの五味も隣を睨む。


「バカか。相手が何人いるか、どんな奴なのかも分からないのに、突っ込んでも返り討ちに遭うだけだ——それに」


 五味は、手前に停まる黒いセダンを指す。


「あれは覆面だ」


 普段から注意を払っている五味には一目瞭然だ。

 それで渚沙もようやく事態を把握したのか、厚底のブーツを下ろし身を起こした。


「なんで警察がこんなところに?」

「知るか」


 そう答えた五味の背筋に冷や汗が流れる——もしやこの依頼は、五味、もしくは五味の所属する「九頭龍会」を陥れる罠なのではないか。


 思えば、奇妙な依頼だった。


「とある場所に、死体をひとつ、埋めてもらいたい」


 男とも女とも判別できない変声機越しの声は、非通知のものだ。


「誰をだ?」

「誰でもいい。死体の用意はそちらに任せる」


 ちょうど一人、死体に心当たりがある時だったため、五味は組織の人間だろうと思った。死体を山に埋めた経験も一度や二度ではない。そういう仕事に慣れた五味に、依頼者が身元を明かさないよう、意図を悟られないよう、話を持ち掛けることも珍しくない。

 そして、見張り役に誰かを伴わせることも。


 ……だがそれが、パンクファッションに身を包んだ少女というのは、普通ではなかった。

 初対面の五味にも怯まず、黒く縁った目でトランクの死体を見ても、彼女は表情ひとつ変えなかった。


「誰? これ」

「組織を裏切った、伊達という男だ」

「ふうん」


 慣れた手つきで遺体袋を閉じ、渚沙は「道案内をするから」と助手席に収まった。


 ——そして到着したのが、この廃ペンションである。

 人里離れた山奥に、鬱蒼とした森に隠れるようにポツンと建つ、二階建てに時計塔の付いた洋風の建物。廃墟となって随分と経つのだろう。窓ガラスは全て割られ、スプレーの落書きも酷い。


 道中、五味はこのペンションについてスマホで調べた。

 何年か前に殺人事件があり、それ以降、心霊スポットとして粗暴な若者たちに荒らされたために、地主が立ち入り禁止としたらしい。


 そんな場所になぜ死体を捨てるのか?

 五味は何度か渚沙に尋ねたが、

「さあね」

 と濁すばかりで判然としなかった。


 こういう仕事は深く知らないに限ると五味は心得ているから、しつこくは聞かなかったが、いざ現地に到着したら警察がいたとすれば話が別だ。

 五味は上着から拳銃を取り出し、渚沙のこめかみに当てた。


「騙したのか?」


 渚沙はじっと前を見ているが、濃いアイメイクの下で瞳が細かく震えている。


「知らない。警察がいるなんて聞いてない」

「なら、これはどういうことだ?」

「分からないよ……」


 言葉の最後は消え入りそうだった。これは純粋な恐怖に対する反応だと、五味には分かった。嘘は吐いていないだろう。


 五味は拳銃を収め、舌打ちする……罠でないとしたら、こんな場所に警察、しかも覆面パトカーがある理由は……。

 すると、渚沙が言った。


「逃げた方がいいんじゃないか?」

「いや、相手も俺たちに気づいているはずだ。逃げれば余計な詮索を呼ぶ」


 果たして、どうしたものか……。

 そう考えあぐねている時だった。



 ゥゥゥウウウウウウ————



 腹の底に響くようなひび割れた音が、五味の鼓膜を突き刺した。

 サイレンだ。

 スピーカーが手入れされていないのか酷く耳障りで、五味は両手で耳を塞いだ。


 人も寄り付かないこんな山奥で、何のサイレンだ?

 そう疑問に思った次の瞬間。


 サイレンの周波数の隙をつくように、甲高い女の悲鳴が轟くのが聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
おぉ……いきなり五味氏(笑)イップさんは嬉しいですね(^^) 理沙はミステリアスな感じがします。まぁここからでしょう。 スクリームスPROJECTで注目の作品。楽しんでゆきましょう(*´ω`*) …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。