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第66話 九日目の朝

 開拓者ランキングが発表された日、ハルシオンロードの面々は装備の更新に午後を費やした。夕食の席では互いの新装備を見せ合い、それをどう戦いへ生かすかでひとしきり盛り上がった。


 翌朝。


 シキは三日月亭の客室で、新しい装備へ腕を通していた。


 天狼の戦装。黒い革を主体とした軽鎧に黒銀の板金が重なり、細い銀線と幾本ものベルトが全体を引き締めている。昨日まで着ていた簡素な初期装備とは、見た目も手触りもまるで違った。


 腰や胴回りに走るベルトを一本ずつ留め、肩を回し、膝を折る。動きに引っかかりがないかを確かめてから、シキは満足そうに息を吐いた。


「おお……やっぱり良い感じだな。下に着てる服の着心地も全然違うし。ベルト多いのはめんどいけど」


 昨日、ヒカリにも同じところを指摘された。そんなにベルトばかりで戦えるのかと真顔で聞かれ、実際に外で走ってみせる羽目になったのだ。幸い、どれだけ身体を動かしても金具が外れたり、垂れた革帯が足へ絡んだりすることはなかった。激しい動きにもしっかりとフィットし、性能の高さを示した。


 朝の支度を終えて廊下へ出ると、ちょうどサラも部屋から出てきたところだった。


「サラ、おはよう。気分一新って感じだな」


 サラの視線が、シキの肩から足元までをゆっくり辿る。まだ見慣れない姿を確かめるように一度だけ頷いた。


「ええ、おはよう。きっとすぐ慣れるわよ。その……似合ってると思うわ」


 そう評されて、シキは少し照れくさそうに笑った。


「ありがとな。サラも格好いいぜ」


「……昨日も聞いたわよ」


 サラはふいと目を逸らした。


 彼女が選んだ装備の銘は、緋燕の戦衣。機動力を重視した装備だ。防御的な金属部分が少ない造りで、身体の動きを妨げない赤と黒の生地が幾重にも重なっている。色もデザインもサラによく似合っていた。


   ◇


 二人が一階の料理屋へ降りると、そこにはすでにヒスイとダンがいた。


「おはよ、二人とも。やっぱりダンは街の兵士の格好だろそれ」


 ダンは椅子に座ったまま、両手を広げて見せびらかしてくる。


「おはよう。俺はまさしく街の兵士の装備を参考にさせてもらったからな。兵士っぽくて当然だ」


 街の衛士が使っているものと同型の一式が、開拓者向けに売り出されていたのだという。兵士たちが使う品には独自の搬入経路があるらしいが、それとは別に店頭へ並べるための品も作られている。こちらは圏外での戦闘を前提に、より高品質な素材を使ったものだ。半額券がなければ購入は難しい逸品だった。


 自慢するかのようなダンの態度に、ヒスイが笑った。


「俺のは軽いぜー。ダンのは重い上に暑そうだけどよ」


「裏地にヒノシシ変異体の毛皮を当ててもらったと言っただろう。もともと熱を通しにくい素材だからな。おかげで火にも強いし、熱がこもることもない」


「見た目の話だっての」


 二人のやりとりを聞きながら、シキは笑って椅子を引いた。サラもシキの向かいに腰を下ろす。新しい鎧の金具が触れ合い、普段の朝にはなかった硬質な音が卓上へ混じった。


「俺はヒグアナの皮の手袋を卒業できて良かったぜ。あれけっこう硬いっていうか、伸縮性が良くなかったからな」


「私はあの革手袋をスキップできたことが、今回何よりの報酬だわ」


 サラが真顔でそんなことを言うので、男三人は揃って笑った。


 女将が注文を取り終えたころ、賑やかな声が近づいてくる。


 扉を開けるなり、ヒカリが元気よく手を上げた。その後ろからリアが小さく頭を下げ、サクヤとアヤネが続く。


「おっはよー! みんな格好いいね!」


「お、おはようございます」


「おはようさん」


「おはよう」


 四人が挨拶を交わしながら席についた。


 ヒスイがヒカリの足元へ目をやり、露骨に眉を寄せる。新調した軽装は脚運びを妨げない短い造りで、膝より上まで大胆に露出していた。


「おいヒカリ、やっぱり足を出し過ぎじゃね? 普通にケガしそうだ」


「おしゃれも大事でしょー? それにスパッツ履いてるしだいじょうぶだよ! 機動力重視ってやつだね。それにコケなかったらケガもしないしへーきへーき」


「生足の無防備さは認めてんのかよ……」


 ヒカリは椅子に座って軽く足を振ってみせた。ヒスイが諦めたように息を吐く。


 その隣で、サクヤが自分の服を摘まんだ。


「うちらだけ普通の格好で逆に浮くなぁ」


 サクヤとアヤネは初期装備から街着へ着替え、今では街の住民に混じっても違和感のない姿になっている。


「こんな良い宿に寝泊まりしてる時点で浮いてるし、いまさらじゃない?」


 アヤネの言う通りだった。


 本来、三日月亭の宿泊費は一人一泊四千フロー。八人だと一日で三万二千フローが飛んでいく。ランキング報酬の宿泊半額補助が効いているのは、上位十位に入った六人分だけだ。サクヤとアヤネには適用されないため、その分は報酬を受け取った六人が援助していた。割引を差し引いても、八人で一日に二万フローかかる計算になる。


 もっと安い宿もあるが、そもそも宿へ泊まっていること自体が少数派だった。無料で寝泊まりできる場所はすでに人で溢れ、路上で夜を明かす開拓者も日ごとに増えている。これもまた、街が抱え始めた問題の一つだった。


 シキがサクヤへ声をかけた。


「今日が屋台デビューだよな。なんとかなりそうか?」


「あ、うん。昨日ウォーカーの人がヒノシシの肉を五十個売ってくれたから、百五十本分は仕込み済みやで。四切れ刺しと二切れ刺しのどっちの注文が増えるかわからんから、全部串打ちするわけにもいかんのが課題やね」


 迷いのない答えに、シキは口元を緩めて頷いた。


「完売できれば二人の生活費くらいにはなりそうだよな。頑張ってくれよ」


 サクヤが苦笑いを浮かべる。


「まずは宿代と食い扶持を自分らで稼げるようになるんが目標やからな。任せとき」


 その様子を見ていたアヤネが、ぽつりと口を開いた。


「……ダメでも俺が養ってやる、とか言わないんだね」


「は? なんでそうなるんだよ」


「ううん。アドベントの男連中なら、絶対そう言ってたなと思っただけ」


 アヤネは水の入ったコップへ視線を落とした。その横顔に、責めるような色はない。


 ダンが話を引き取るように尋ねた。


「今日は二人だけか? どんなトラブルがあるかもわからないから、できればもう何人かいた方が安心だとは思うが」


「それやったら大丈夫。今回のお肉を売ってくれたんがウォーカーのカイトさんなんやけど、屋台に興味あるってことで休憩がてら見学するって言ってくれとるんよ」


「紅蓮とタスクフォースの人も、怪我で今日は休むって人が見にきてくれるみたい。焼き魚の屋台を始めるための準備の話も聞かせてほしいって言われてるよ。秘密にすることじゃないんだよね?」


 問いかけを受け、シキはサラへ視線を送った。


「護衛と情報料で相殺のパターンだよな?」


「そうね。むしろ彼らにはなるべく詳細に教えましょう。他の開拓者にも焼き魚の屋台は多く始めてほしいわけだし、その彼らから広めていってもらうのがいいわね」


 サラの返答を聞き、アヤネの肩から力が抜けた。これから一緒にやっていく相手に、秘密ばかりではぎくしゃくするだろうと考えていたのだ。


 三つのクランから見学者が集まれば、結果として屋台の周囲には何人かの開拓者が残る。正式に護衛を頼んだわけではない。それでも、二人だけで南門外に立つよりはずっと心強かった。


「シキさん達は、今日は日帰りやんな?」


 今度はサクヤが尋ねた。


「ああ、今日はレント町の先を見てくるぜ。何事もなければ帰ってくるよ」


「不安やねんから、絶対帰ってきてな」


 思いがけず強い言葉だった。シキたちが顔を上げ、言ったサクヤ自身も驚いたように目を瞬いた。


 緊急依頼でプルア村へ向かった時も、日帰りの予定だった。結果としてレント町で一泊することになり、その夜、サクヤは一人で街に取り残された。


 シキが一瞬言葉に詰まる。


 今日の開拓で怪我人が出れば、場合によってはまたレント町で一泊する可能性もあるからだ。


 そこへヒカリが横から口を挟んだ。


「大丈夫だよ! 絶対帰ってくるからさ。ね、そうだよね、シキ?」


 ヒカリがウィンクを飛ばしてくる。シキは少し驚いてから、笑って答えた。


「ああ、必ず帰ってくるぜ。全員でな」


 絶対といえる根拠はなかった。


 だがそれでも、この日の最優先事項が決まった。ハルシオンロードのフロントメンバー六人が頷き合い、その意思を確かめる。そしてサクヤも、安心したような笑みを浮かべた。


「朝食お待たせいたしましたぁ。皆さん、装い新たに心機一転ですわねぇ」


 三日月亭の女将が、少し間延びした声とともに配膳を始めた。湯気と焼きたてのパンの匂いが広がり、ひとまず卓上にはいつもの朝が戻ってきた。


   ◇


 三日月亭での朝食を終え、ハルシオンロードの八人は南大路を南大門へ向かって歩いていた。


 まだ朝の早い時間だが、すでに活動を始めている開拓者の姿がいくつも目につく。武器を携えて南へ向かう者、新たに購入したらしい装備を見せ合う者、仲間と地図を囲んで話し込む者。二日目や三日目のころには見られなかった光景だった。


 その彼らがハルシオンロードに気づくと、次々に足を止めた。


「あれがハルシオンロードか……」

「ランキング一位のシキだ」

「あの赤い髪の女、めちゃくちゃ良い女だな」

「あれがサラだろ。ランキング三位の」

「二位があの水色の髪の方だ」

「まじかよ。まだガキじゃねぇか」


 囁き声が通りのあちこちから届いてくる。リアは俯き、夜鵺のローブの袖口を指先で摘まんだ。


 少し前を歩いていたシキが振り返った。


「リア、気にすんなよ。お前がすごいのは俺たちが知ってる」


 サラ、ヒスイ、ダン、ヒカリも揃って頷く。


 ただし、列の最後尾を歩くサクヤとアヤネだけは少し驚いた顔をしていた。二人はまだリアの戦いを見たことがない。無理もなかった。


 注目を浴びながら歩くこと数分。一行は南大門へ着いた。


 門をくぐると、いつもの閑静な農地と畜産場の光景が広がる。朝露を残した作物の列が陽光を受け、柵の向こうではミミネコたちが大きな耳をぺたぺたと動かしながら歩いていた。


 城壁の外へ出たところで、シキがぐっと伸びをする。


「二日ぶりの外だな。また今日から始まるわけだ」


「楽しみが勝っているんでしょう?」


 サラに問われ、シキが振り返ってにっと笑った。


「まぁな。装備一新でどれくらい強くなったのか、早く試してみたいぜ」


「あなた、今は九等級なのよね? 何か変わった?」


「ん? そうだな……」


 外見で変わったのは装備だけだ。九等級という区分も、リングストレージに登録された名前の横へ小さく記載されているにすぎない。


 シキは胸の中央へ手を当てた。


「なんていうか、ガソリン? エネルギー? それがここに溜まってる感じだな」


 一昨日まで、その感覚は霧の向こうにあった。力が存在することだけはなんとなくわかる。だが意識を向けた途端、輪郭が霞んで掴めなくなる。


 それが今は、確かな存在感として内側にある。胸の奥へ蓄えられた何かに、意識が触れられるようになっているのだ。


「珍しく説明が下手ね。やっぱりスポーツとは違う?」


「そうなんだよなぁ。サラは言葉にできるか?」


 振られたサラが思案顔になった。


「私も言われてみればなんとなくあるような気もするけれど、もっと全体的な感じがするのよね」


「全体的って?」


「こう、全身に薄く? 全身を覆ってる? そんな感じよ。正直まだまだ分からないわ」


 シキが後ろを歩くリアへ声をかける。


「リアは? リアは普段から魔法力を感じてるんだろ?」


「はい、感じます。そうですね……わたしの場合は体の周りに纏っているようなイメージでしょうか。体の中にもうっすらあるような感じはします」


 サラが軽く目を見張った。


「なるほど。個性があるということね。九等級と十等級の境目は魔法力の認識の差にあるのかしら。リアは魔法が使えたから、最初から認識できていたようだけど」


 リアが右手を開いて上へ向ける。


 その掌の上へ、白い輝きが丸い形を結んだ。歩調を緩めることもなく、光球の輪郭が安定して保たれている。淡い光が水色の髪と藍色のローブへ反射した。


「昨夜も試していたんですが、以前よりもずっと簡単に束ねられるようになりました。これでもっと、みなさんと一緒に戦えそうです」


「つっても、足まで速くなったわけじゃないんだろ? 突出しないようにな」


 図星をつかれたリアが慌てる。掌の光球も形を崩し、白い粒となって消えた。


「そ、そうでした……。調子に乗らないように気をつけます」


「はは、だよな。できることを一つ一つ試していこうぜ」


 シキの言葉に、リアとサラが力強く頷いた。


 そんな話をしているうちに、一行は南大門から少し離れた屋台の予定地へ着いた。通行の邪魔にならず、門を出入りする開拓者からも目につきやすい場所だ。


 サクヤとアヤネが早速、屋台の設営を始める。リングストレージから取り出された業務用のコンロは、大人が数人がかりで運ぶほどの大きさだった。地面へ置かれた機体が重い音を立て、その脇へテーブルを据えて調理器具を並べていく。


 シキたちもそちらへ足を向け、作業を手伝い始めた。


「こうして見ると大掛かりだな。金が貯まったらテントとかも買ってみるか?」


 聞かれたサクヤが笑った。


「日焼けしそうやし、買ってくれたら助かるなぁ」


「屋根だけのやつでいいんだろ。支柱を立てて布を張るだけの」


「それで十分やね。日中も日本の真夏ってほどやないし、しばらくは大丈夫やと思うけどな。でも、期待しとくで」


 そのまま八人で設営を進めていると、南大門のほうから大きな一団が近づいてきた。


 紅蓮とウォーカーのメンバーだ。シュリとナイクを先頭に、護送へ参加する者たちが列を作っている。その中には屋台を見学するために来た休養組も混じっていた。


 カイトはサクヤたちを見つけると片手を上げ、一団から離れて屋台へ向かってきた。


「おはよう。昨日の肉、具合はどうだった?」


「ばっちりやで。おかげでしっかり仕込めた」


「そりゃよかった。今日は隅っこで見学させてもらうからな。邪魔になったら遠慮なく言ってくれよ。あ、忙しそうなら手伝うからな」


 カイトが気安く笑い、サクヤも礼を返す。


 ランキング上位に入った者たちは、すでに初期装備を卒業していた。揃い始めた装備には各々の戦い方が表れ、同じような革装備ばかりだった昨日までとは、集団全体の印象が明らかに違う。


 南方戦線連合の四クランのうち、護送隊にタスクフォースの姿はない。屋台へ見学に来る休養組を除き、彼らはプルア村の復興と人員調整にかかりきりだった。


「おー、これが屋台か。かなり本格的だな」


 屋台を吟味するように足を止めたナイクが、感嘆の声を上げた。


「おはよう、議長さん。まだ開店準備中だから肉串は待ってくれよ」


「議長さんはやめろって」


 シキの挨拶に、ナイクが苦笑いで答えた。


 そのナイクへ、ダンが歩み寄る。


「やはり盾持ち前衛はその装備だな。鎧仲間ができて嬉しいぞ」


「開拓者っていうか兵士だろってからかわれるまでがセットなんだよな。わかるわかる」


 二人ががっちりと握手を交わした。似た装備を選んだ二人の腕から、金属同士がぶつかる硬い音が鳴る。


 その傍らでは、シュリが屋台のコンロを興味深そうに覗き込んでいた。


 膝を折って屈み込むと、深い赤を基調とした上衣の裾が揺れる。腰から下は袴を思わせる形に整えられ、その合わせから黒の差し色が覗いた。手甲と足回りは黒銀の防具で固められているが、そのどれも刀を振るう動きを妨げるようには見えない。


「これが業務用のコンロか。なるほど、バーベキュー用の魔石コンロとは違うな。魔石の欠片で動くのか?」


 これにはアヤネが答えた。


「あ、いえ。欠片じゃなくて魔石そのものが必要みたいです。火と雷を二個ずつで一日分。使う時間が短くても長くても、必要な数は変わらないみたいで」


「なるほど。燃料代というわけだ」


 シキが横から補足する。


「火のほうは俺らが持ってくるぜ。成体のヒノシシが落とすからな。一体で平均三個だし、二体も倒せば一日分は余裕だ。雷はギルドで交換してもらうしかないけどな」


「ヒグアナも火、コカリスは風か。外での狩りは肉だけではなく、屋台の燃料を持ち帰るところまで込みというわけだな」


 シュリが得心したように頷き、膝を伸ばして振り返る。束ねていない長い黒髪が肩から流れ落ち、その立ち姿には武人らしい隙のなさがあった。


 シキと目が合う。


「シュリのは軍服みたいだな。女隊長! みたいな。めちゃくちゃ似合ってるぜ」


 シュリのほうも、シキの姿を上から下まで確かめた。


「そういう君はまさしく冒険者という感じだな。今日はレント町まで同行してくれるのだろう? 頼もしく思うよ」


 そう言われて、シキは嬉しそうに笑った。それから集まった一団を見渡す。


「護送するのは三十人か。けっこう多いな」


「人数が多いほど護送依頼の単価が上がるとわかったからな。三クランで組めば、それだけ多くを引き受けられる。今回は君たちもいるんだ、最大人数で行かせてもらう」


 護送されるのは、街の住民が十人とレント町の復興依頼を受けた開拓者が二十人。


 護送する側は、ハルシオンロードの六人にウォーカーが十人、紅蓮が八人。


 総勢五十四人という大所帯だった。護送対象の三十人を列の中央へ集め、紅蓮とウォーカーが前後と左右を固める。ハルシオンロードは先導と遊撃を担い、魔物と遭遇した際にはすぐ前へ出られる位置につく形だ。


 万が一にも乱戦になれば、収拾がつかなくなるのは目に見えている。護送依頼である以上、遭遇した魔物はより迅速に排除していく必要があった。


 そして、その最前線を任されているのがシキだ。


「はは、それで片道二万四千フローだろ? きっちり仕事して、ナイス判断だったって言えるようにしてやるよ、シュリ隊長」


 ハルシオンロードが受け取るのは、その往路分だけだった。レント町へ着いた後は先の偵察とヒノシシ狩りへ回るため、復路の護送は引き受けていない。


 隊長と呼ばれたシュリが、少し驚いた顔を見せる。それから柔らかく笑って頷いた。


「期待しているよ。では、そろそろ出発しよう!」


 全員へ届くよう、シュリが号令をかけた。止まっていた大きな列が、一つずつ足並みを揃えて動き出す。


 屋台の前では、サクヤが大きく手を振っていた。その隣で、アヤネも小さく手を上げている。


 南門前にはサクヤとアヤネの屋台組が残り、プルア村ではタスクフォースが復興を進め、旧街道にはレント町を目指す護送隊が延びていく。南方戦線連合はそれぞれの持ち場で動き始めていた。

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