爆走タッグ! デンジャラス&ドライビング
工場に入った人間に反応して灯りがついた。まだ施設は生きているようだ。
ディンゴたちはすぐにクリアリングを始める。
人の出入りはないはずだが、魔獣が入り込んでいる可能性はある。長期の絶食に耐えられるタイプの魔獣であれば休眠状態になっていることもある。
ディンゴとサイカは二手に分かれ、広く遮蔽物の多い工場を時間を掛けて隅々まで索敵していく。
ちらりと視線を上げると、物音一つ立てずに移動するモミジが見えた。二人よりも天井を這って移動できる彼女が一番活躍している。ザイルはどうやっても静かに動けないので退路を確保している。
しばらくすると、面頬越しにくぐもったサイカの声が聞こえた。
「……クリア」
「こっちもクリアだ。綺麗なもんだぜ」
リボルバーを仕舞って工場を見回す。
埃こそ被っているものの施設に大きな損傷などはほとんどなかった。多少の劣化はあるかもしれないが、これなら機材を入れ替えれば問題なく動くだろう。
「何作ってたんだろうな」
「ここはディンゴの大好物、カロリーバー工場だね。それも一番安くてマズイやつだ」
「よしてくれよ……思い出の味だが、好き好んで食ってるわけじゃないぜ」
口では嫌がりつつもそう言われると興味が湧いてしまう。
味こそ最低だったが、あのカロリーバーはディンゴがバルドシティで生きていくための第一歩を思い起こさせる味だ。
「バイオアームってちょっと不気味だよな」
「効率化のためとはいえ、こうもたくさん生えているとな……毎日一緒に作業していると慣れると聞くが……あまりいい気分ではないな」
面頬を外したサイカがふぅと息をつきながら、朽ちたバイオアームを複雑な顔で見やった。
作業用のバイオアーム……虫型魔獣の腕などを魔術信号で操る機材は、そのほとんどが使い物にならなくなっている。安価で汎用性があるが、適切なメンテをしないと有機的な魔具は長持ちしないのが欠点だ。
節くれだった甲殻のアームは劣化でスカスカになっており、まともな形を保っているものは一つもなかった。
「他に誰かが見つけた形跡はない。私たちが一番乗りのようだ」
「よっしゃ、良い稼ぎになりそうだぜ」
マーカー代わりのサイリウムを放り込みながらガッツポーズを取る。
灯りがついたことから魔素タンクも生きているようだし、工場としては生きていると言っていい。これならば提示された報酬をほぼ満額受け取れることだろう。
「なら、ここ確保して他も探そうぜ。四号があるってこたぁ当然、一・二・三号もあるだろうよ」
「うむ。この区画入ってすぐの工場が手つかずということは、他のハンターにも見つかっていない可能性が高い……座標を送信したらすぐに動こう」
一個でも美味しい報酬が手に入ったことでサイカの声も弾んでいる。
それがまだ三つある可能性にテンションを上げない方が無理というものだ。借金を返して欲しかった装備を購入してもまだお釣りがくる。
これまでにない収入を目前にした二人が目を輝かせる
―――突然、大きな音がした。
そこまで近くはないはずだが、余波で工場が微振動するレベルの衝撃だ。
ディンゴでも聞き取れるほどの轟音に、咄嗟にリボルバーを抜きながら身を低くする。
「砲撃!? さっきのカタツムリか!」
「いや……威力が違い過ぎる! これは、もっと大きな……」
サイカが兜から伸びる耳をしきりに動かし、音の出所を探る。
彼女を他所にディンゴはすぐに入口へ向かって扉を開け放った。建物が揺れると扉が歪んで閉じ込められることがあるためだ。
「ザイル! そっちはどうなってる!」
砂埃が舞い散る中、外から攻められないよう見張っていたザイルを探す。
彼は少し離れた場所でハサミで目元に庇を作りながら音のした方を見ていた。ディンゴに気づいていたのか、見た方が早いとばかりに尾っぽの先を向ける。
尾に釣られて動かしたディンゴの顔が驚愕に見開かれる。
「なんだありゃぁ!?」
それは疾走……いや、爆走していた。
廃墟をサーキット代わりに見立て、己の性能を限界まで試さんと縦横無尽に駆け回っていた。
二つの影が交差しながら走り抜ける。
車輪のような体を高速回転させて悪路をものともせずに走破しているそれは、自身のテリトリーに入った人間をどこまでも追いかけ続けている。
恐らくディンゴたちと同じく廃工場を探索しに来たハンターだろう。
彼らは建物に身を隠しながら必死に逃げ惑っているが、魔獣らしき車輪はそれをあざ笑うかのように先回りして逃げさない。
もう長いこと追い回されているのか、ハンターたちは大分参っているようだ。
よろよろと逃げ惑う彼らが死んでいないのは、魔獣側が嬲っているせいだろう。獲物を甚振るのは獣型の魔獣に見られる傾向だが、アレは果たして獣なのだろうか。ピンボールのように壁を反射して動き回る様子はとてもまともな生き物には思えないのだが。
「しかしさっきの爆撃はどこからだ?」
外見からはそれっぽい攻撃器官が見当たらない。
そう思って首を傾げていると動きがあった。
建物から出てこないハンターたちに業を煮やしたのだろう。
魔獣は瓦礫をジャンプ台に跳びあがり建物付近にポロリと何かを落とした。
粘土のようなそれが地面に落ちると、一瞬光ったあとに激しい爆発が起きて周囲の建物を吹き飛ばした。
中にいたハンターたちは瓦礫に紛れて吹っ飛んでいる。シールドのおかげで生きてはいるが、大分削られているようだ。全身を覆うオートモードではなく、頭部や心臓など重要な部位だけを保護する省エネモードに切り替えている。
あれが先の爆音の正体らしい。手榴弾以上、グレネード未満といったところか。
「つうか、またウンコかよ……」
文句を言いながらディンゴが双眼鏡で魔獣を観察していると、欄干に乗り出したサイカが驚きの声を上げる。
「あれは……ロードレイジ!」
「なんだそりゃ、煽り運転でもすんのか?」
酷い名称に呆れ気味な突っ込みを入れるが、彼女はそれどころではない様子だ。
「まずいぞディンゴ。あれは荒野の走り屋と言われていて、やたらと攻撃的なんだ。大抵は渓谷みたいな場所でいつも同族と喧嘩しているんだが……たまに縄張り争いに負けた個体が八つ当たりで廃墟を荒らしまわるらしい」
「って言うと、あいつら放置すると……」
「工場は広くて横に長いからな。一直線に潰せばさぞ気持ちいいだろうよ」
「マジかよ」
コースから外れて雪に跡を残す頭の悪いボーダーかよ。
どうやら、このままではマナーの悪い輩にせっかくの成果を台無しにされてしまうようだ。
ならばディンゴたちのやるべきことは一つ。
くるりと回したリボルバーを片手にニヤリと歯を剥いて笑って見せる。
脅威が前でも笑え。それが伊達と酔狂に生きるガンマンの教え……生き様だ。
それを受けてサイカは微笑み、そっと面頬を付けた。
”カシュ”っという音がして彼女の口元が覆われ、紫の瞳が戦いに赴く戦士の……侍のモノになる。
縄張り争いに負けて八つ当たりするような情けない奴など、たとえ魔獣相手だろうと怯むわけにはいかない。心持は違えど、二人の意志は同じであった。
「場所を弁えない走り屋にはお引き取り願おうかね」
「ああ。違反切符を切ってやらねばな」




