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俺達はあの強い悪鬼と多摩山中地下の存在の捜索を続ける…そして…加奈が戻って来た。

翌日、朝のトレーニングにやはり加奈は姿を現さなかった。

しばらく加奈から目を離さずに、しかし静かに見守ろうと言う事に俺達は決めた。


朝食にも加奈は姿を現さず、圭子さんが朝食を持って行った。

なんとか二言三言の言葉を交わし、朝食も少し残したが食べたようなので少し安心した。


コーディネーターに電話をかけ、あの強い悪鬼の捜索の情報を岩井テレサの組織と共有することにした。

あの落ち着いたコーディネーターはどんな女性なんだろうかと、電話を替わった岩井テレサに尋ねたらその内に会えるかもね、と含み笑い交じりに答えた。


今日は明石がはなちゃんを連れて多摩の捜索に行っていた。

四郎がリリーのエレファントガンを持ってガレージ地下で射撃練習をするから付き合ってくれと言われた。


地下でイヤーマフを付け、四郎が射撃するのを見た。

やはり悪鬼の四郎でも相当な反動があるらしく、その制御に苦労しているようだ。

2発撃つと四郎はエレファントガンを台座に置いて顔を歪めて肩と腕をさすった。


「いやはや、リリーはこんな化け物を撃っていたのか…。」


確かにエレファントガンはイヤーマフをしていても耐え難い轟音がして標的にもバカでかい穴が開いた。


「四郎、だけど大体的に当たってるじゃないか。」

「彩斗、30メートルだから何とか当たるがな、距離が開けばどうなるか判らんな。

 それにリリーや加奈の様に素早く弾を再装填するのには、かなり練習もせんとな。

 見よう見まねで反動を逃がしているが、われでも10発続けて撃てと言われたら今の段階では…きついぞ。」


はなちゃんが居れば音の壁を張ってもらい、屋外で遠距離射撃の練習も出来るのだが今は仕方が無い。


「これではリリーに笑われてしまう…情けない旦那だとな…。」


四郎は呟きながらまた射撃を始めた。

しばらく四郎が撃っていると地下入り口から加奈が顔を出した。

俺が気付いて手を振ると、加奈は伏し目になって顔をひっこめた。

加奈は階段を駆け上って姿を消した。


四郎は四郎なりの考えで何とか立ち直れそうだが、加奈はもう少し時間が掛かるだろう。

ジンコと凛たちを失った加奈の心の傷が思った以上に大きい事を改めて感じた。


もっとも俺でさえ今もその傷を引きずっていて何とか忙しくして紛らわせようとしているのだが…。


午後から秘密のトンネル出口の小屋を作る工事を見に行った。

小屋が完成したら、十数メートル走れば岩井テレサの敷地に逃げ込める。


夕方になって明石とはなちゃんが戻って来た。

収穫は無かった。

夕食を食べた後、俺と四郎、はなちゃん、明石夫婦と喜朗おじ、死霊が見えるメンバーで閉店後の『ひだまり』の個室に集まり、買って来た大きな地図をホワイトボードに張ってスケベヲタク死霊軍団達からあの強い悪鬼の捜索の事についての報告を聞いた。


スケベヲタク死霊達はかなりの範囲を捜索してくれている。

俺達がはなちゃんとしらみつぶしに回るよりずっと効率が良いだろう。

スケベヲタク死霊達は地元にいる浮遊霊たちからも聞き込みをしてくれているようだ。

だが、今のところ有力な手掛かりは掴めなかった。


このような感じで数日が過ぎた。

流石に毎日多摩山中の捜索に出ていたはなちゃんに休みをあげる事になった。

あした、さととまりあが一緒に多摩山中に来てくれる事になっている。


午後になって四郎がエレファントガンの練習をしたいと言い、はなちゃんがついて来て音の壁を張ってもらう事になった。

大学が休みで『ひだまり』のシフトに入っていない真鈴も同行する事になった。


俺達は少し歩いて100メートルほど射距離をとれる場所に来ると、俺と真鈴は双眼鏡を覗き、四郎の射撃のスポッターを務めた。

はなちゃんに音が敷地外に漏れないようにしてもらって四郎が射撃を始めた。

まあまあ標的には当たるがまだまだリリーや加奈のようにワンホールとはいかない。

四郎が顔を歪めてエレファントガンを下げて肩をもんだ。

やはりかなりの反動で肩が痛いらしい。

反動の逃がし方もリリーや加奈に比べたらぎこちなかった。


「駄目ですよそれじゃ~。」


声に振り向くと2つに折った『加奈・アゼネトレシュ』を肩に担いだ加奈が立っていた。


「加奈…。」

「加奈…。」

「加奈…。」

「加奈じゃの。」


俺達は異口同音に呟いた。

加奈はそれを無視して四郎に近寄った。


「四郎、リリーのエレファントガンは『加奈・アゼネトレシュ』よりも400グラムも軽いから反動の制御がちょっとシビアなんですぅ~。

 反動の逃がし方を間違えると肩を痛めるし、うまく当たらないし、弾の再装填も時間が掛かるし、あまり一杯撃てないし、使いこなすには練習がもっと必要ですぅ~。」


そして加奈は肩に担いだ『加奈・アゼネトレシュ』に弾を装填して続けて2発撃った。

2発とも見事に標的のど真ん中を撃ち抜き、奇怪な舞いを舞って反動を逃がした加奈は流れるような動作で『加奈・アゼネトレシュ』2つに折って排莢して再装填してまた射撃姿勢を取った。


「奇麗に踊るような感じでリズムをつかんで流れに乗るですぅ~。

 四郎、やってみるですぅ~!」


加奈は四郎に手取り足取りと言った感じで反動の逃がし方、素早い再装填の仕方を教えていた。


相当な数の600ニトロエクスプレス弾を撃ち、かなり四郎の撃ち方が様になって来た時にぽつぽつと小雨が降って来た。

加奈と四郎のエレファントガンの熱くなった銃身は小雨を蒸発させて湯気が立った。


「今日はこの辺にするですぅ~!

 この銃はあとの手入れをしっかりしないと直ぐに錆びるから注意ですぅ~。」


そこまで言うと加奈が沈黙して俯いた。


そして叫んだ。


「加奈は!…加奈は!…ジンコや凛やリリー達の為にも頑張るですぅ!

 加奈は頑張ると!加奈は頑張ると!ジンコや凛やリリー達に約束しますぅ!

 だから!…だから皆も加奈に約束して欲しいですぅ!

 加奈が!…加奈がぁ!…加奈が皆を守るからぁ!絶対に!…絶対に加奈より先に死んじゃ駄目ですぅ!

 …うわぁあああああああ~!」


加奈が大きな声を出し、涙を溢れさせて、顔を覆ってしゃがみこんだ。


「加奈ぁ!」


真鈴が加奈に飛びついて抱きしめた。

そして加奈と真鈴は互いの身体を抱きしめ合いながら大泣きに泣いた。


「どうやら加奈はな…。」


四郎が俺の肩に手を置いて…しかしその先の言葉が出ないようだ。

どうやら、四郎も俺と同様に泣いているのだろう。


「うん…加奈は大丈夫さ、絶対に。」

「加奈が戻って来たようじゃの!」


冷たい雨粒がぽつぽつと俺に当たるのが何故か心地良かった。

俺も四郎も泣きながら、そして笑顔で加奈と真鈴を見つめていた。


加奈が戻って来た。


やがて加奈と真鈴は互いのおでこを当てて泣き腫らした目で見つめ合い、笑顔になって立ち上がった。

俺達は小雨の中を死霊屋敷に戻った。

小雨に濡れながらも、俺達は皆、笑顔だった。


明石夫婦が俺達と一緒に『加奈・アゼネトレシュ』を担いで加奈が戻って来るのを見ると玄関先で初めは驚いた顔をして、それから笑顔になって加奈を出迎え、明石は真っ赤な目で盛大に鼻をかみ、圭子さんなどは涙を流して加奈を抱きしめた。


加奈が戻って来た。


俺達はワイバーンファミリーなんだ。


うん、やって行ける。





続く 


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