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王都に家族で旅行に行きました ケイトの物語

「すこいわね。人が一杯。お店が一杯。」

ケイトは馬車の中から街並を眺めて言った。

「ローラン領とは規模が違いますね。お母様。」ラシェル。8歳。

「沢山お買い物してもいいんだよね!お父様!」クリス。5歳。

「うん。もちろん。ケイト、遠慮せずにドレスや帽子、バッグや靴を買っておいで。ラシェルとクリスもな。」アーサー。

「緊張してしまいそうです。」ケイト。

「とりあえず、ローラン領の特産品を置いてる店を見てみよう。もうすぐ着く。」


王都にローラン子爵一家は視察という名の観光に来ていた。ラシェルが学園に通う年齢になったので、下見も兼ねている。


ローラン領の特産品の店、「ローラント」は沢山の客で賑わっていた。主に食品の加工品、酒類が多い。


「ローラン子爵様、ようこそいらっしゃいました。奥様、ご子息様方。楽しみにしておりました。」キレイなお姉さんが、一家が店に入ると挨拶に来た。


「ああ、久しぶりだね。よく繁盛しているようだ。アデリア店長、この調子でよろしく頼む。」アーサー。


「奥にどうぞ。」

案内されてローラン子爵一家は奥の応接室に通された。

お茶を飲み菓子を出されて一息つく。

アーサーとアデリア店長は帳簿や品揃え、最近の売り上げの、流行の話をし始めた。

そこに取引先の商会が来て、アーサーがいると知り、面会を望んだ。

「ごめん。一緒に買い物に行けなくなった。」残念そうなアーサー。

「大丈夫よ。私たちだけで行けるわ。」ケイト。

「店の者に案内してもらって。王都は不慣れだろう。行く店を伝えておく。」アーサーが店員を呼んだ。

メリッサという若い女性店員がケイトと子供達と買い物に行くことになった。護衛二人も付いている。


馬車にケイト、ラシェルとクリス、メリッサとが乗る。御者台の後ろに護衛一人、馬車後部に護衛一人か立つ。

こうしてメリッサの案内で幾つかの王都の有名店で買い物し、各店舗で宿泊しているホテルに届けるようにしてもらった。

リッチモンド伯爵家は祖母が亡くなり、従兄弟が伯爵位を継いでいる。滞在させてもらうのはケイトが気をつかうからやめた。視察も兼ねてホテルに宿泊している。


有名店での高価な買い物は終わった。

次は市場で庶民的な買い物だ。ケイトたちはこちらの方を楽しみにしていた。有名店は場違いな感じがして落ち着かなかった。平民意識が抜けないのだ。

最後の店舗で町人風の服に着替えて、市場の近くで降ろしてもらった。

色々な露店を見てまわる。珍しい果物、駄菓子、怪しい骨董品、古本、土産物。異国の店もある。あちこち見て楽しんだ。


「すまん!逃げた!避けてくれ!」

突然の叫び声。悲鳴と共に子豚、鶏が道を占拠した。


「キャア!」

メリッサさんが人に押されて転んで数頭の豚がメリッサさんを踏んで走った。

メリッサさんはドロドロ、手足の皮膚が出ていた箇所には擦り傷で血が流れていた。一箇所は傷が深い。

護衛一人とメリッサさんが馬車で医者に行くことになった。


ケイトとラシェルとクリスは護衛一人とまわることになった。

しばらく露店をまわり、そろそろ帰ろうとしたら、「どいたどいた!」

荷運びの行列が何列も来て、母子、護衛を引き離した。さらに人波にもまれて、ケイトは子供、護衛ともはぐれた。

ケイトは真っ青になって、「ラシェル!クリス!」と声を上げて探した。


ラシェルとクリスは荷運びの幌馬車、人波でケイトとはぐれると建物の横に隠れてこれ以上移動しないように人波から逃れた。

するとすぐに、手が伸びて路地にクリスが引っ張られた。大人の力で引っ張られたクリスはされるがままだ。「兄様!」「クリス!」ラシェルはクリスを追いかけた。


ケイトには喧騒の中で、我が子の声が聞こえた。人波をもがいてそちらに走る。

路地裏で一人の男の子がこちらを見ていた。その子に「金髪の男の子二人、見なかった?8歳と5歳よ!」と叫ぶように聞く。

「あ、あっち!」

指差してくれた。しかし、我が子の姿は無い。

「お願い、私の子なの!追いかけて足止めして!お礼にこれ!」

必死の形相でケイトは男の子に銀貨を握らせる。

「子供が戻ったら、またお礼をはずむわ!」ケイト。

男の子は、近くにいた二人の仲間らしき子供に言う。

「金髪の子供二人を探して!足止めして!いい稼ぎになるよ!」

すると路地裏からウジャウジャと子供が顔を出し、あちこち散って走り出した。

子供達が行ったり来たり、ボソボソと伝言しあっている。

しばらくして、最初にお金を握らせた子供がケイトの手を引っ張った。

「こっち!」

表通りに出て、馬車道を横切り、街の警備隊と母子が揉めている場所に連れて行かれた。

ラシェルとクリスの姿が見えた!

ケイトは走り出した。


「お母様!」

クリスがケイトに気がついて叫んだ。

ケイトはラシェルとクリスに駆け寄った。

そこに金髪の貴族女性が立ちはだかる。

「私の子に近寄らないで!」

金髪女性。20代半ばくらいの年齢の美人だ。服装で貴族とわかる。


ケイトは混乱した。この女は誰?

「この女は私の子供を拐かそうとした乳母ですわ。私が病で静養している間に子供を手懐けて、母親ヅラしておりますの。あなたは解雇したはずよ。この女は盗賊の手下のようですの。見目の良い貴族の子供を売る一味です。捕縛してくださいまし。」金髪女性。

ぽかんとするケイトに、警備の一人が近づく、腕をひねり上げた。そのまま、腕を後ろ手にされて両手をくくられた。

「やめてください。私が母親です。ラシェル、クリス!」ケイト。

「お母様を放してください!嘘をついているのはこの人のほうです!」ラシェルが金髪女性を指差す。

「お母様を放して!」クリスがケイトのスカートにしがみついた。

「私は本当に子供の母親です。子供達は父親に似たのです。アーサー・ローラン子爵が夫です。私は逃げませんから、子供をあの女に渡すのをやめてください!」ケイトが叫ぶと、

「黙れ!」警備隊員がケイトの顔を殴った。ケイトの口の中で血の味がした。


「乳母が図々しい!見てください。子供達を町人の服に着せ替えてさらう途中でしたのよ。子供達は私と同じ金髪。どう見ても、私達が親子ですわ。子供達は乳母に懐いてしまっているだけです。騙されているの。盗賊の一味ですから、早く牢屋に入れてくださいな。夫が待っておりますので、私達は失礼しますわ。」

女性はラシェルとクリスの腕をとり、馬車に引きずり乗せようとする。どこからか屈強な男が3人が出てきた。護衛らしい。

「嫌だ!お母様!助けて!」クリス。

ラシェルは引きずられなら、叫んだ。

「おい、警備隊員!僕はローラン子爵令息、ラシェル・ローランだ。これは弟のクリス・ローラン。この無礼、決して許さない。僕らの母上、ケイト・ローラン子爵夫人を殴り縄をかけた事、忘れるな!名を名乗れ!捕縛すべきはこの金髪女だ!こいつこそが人攫いの一味だ。これくらいのことがわからないとはな!何が警備隊だ!母上を殴ったこいつも一味だろう!この女とこの護衛を捕縛せよ!」ラシェル。

「うるさい!ほら、奥様と馬車に乗れ!」警備隊のケイトを殴った男が怒鳴りつける。

「お前、名を名乗れ!僕はラシェル・ローラン!アーサー・ローラン子爵の嫡子、次代のローラン子爵だ。アーサー・ローラン子爵の姉はクロフォード伯爵夫人。妹はサンフォーク公爵夫人だ。僕らに手を出したらやんごとなき方が黙っていない!」

ラシェルの子供ながらに堂々と声を上げた。周囲の大人達は固まった。困惑している。


騒ぎになって、人だかりが出来ている。

一人の男が進み出て話しかけた。特徴のない若い男だ。

「あの、警備隊の方。私は王宮使用人のジャックと申します。収集が付きませんから、全員保護ということでどうでしょう?」

「そうして下さい。夫に連絡を取ってください。ローラン子爵に。」ケイト。

「ああ、父上が来てくだされば、はっきりする。全員保護で頼む。」ラシェル。

ラシェルが女を睨んだ。


女は後ずさり、ハンカチを出して鼻を押さえた。素早くスカートから何かを出して警備隊の足元に投げつけ、走り出した。煙が広がり、異臭が漂う。ゴホゴホと皆が咳き込む。視界がゼロだ。

しかし「ギャア!」「グォ!」「ウア!」「クゥ!」という叫び声とドサドサと人の倒れる音がした。煙が消えていくと、金髪女と護衛3人、警備隊の男1名が縄でグルグル巻きにされて猿ぐつわを噛まされていた。


遠巻きに見ていた町人もぼう然としていたが、警備隊数名も驚いている。

「どうなっているんだ?」

「何が起こったんだ?」


「わからないのか?あの王宮使用人のジャックという男がいなくなっている。金髪女は、騙りがバレそうになり、逃走しようとした。煙玉を出したのを見たろうが。さっさと金髪女と自称護衛と警備隊1名を警備隊で連行して尋問しろ。」ラシェル。

オロオロしながら、警備隊員が子供のラシェルの命令を遂行した。


「奥様!見失いまして、誠に申し訳ございません!」

やっと、ケイトと令息達を見つけた護衛が駆けつけた。遅い。

そこへ、アーサーが人垣の中を割って歩いてきた。護衛2名が後ろにいる。

「なんの騒ぎだ?、、ケイト、何故顔を腫らせている?護衛に付けた者がメリッサに付いて帰ってきたから心配したぞ。」


「お父様!僕たち、誘拐されそうになったの!」クリス。

「警備隊に協力者がいました。4名の捕縛を頼んだ所です。ですが、豚が逃げ出したり幌馬車が僕らをはぐれせたり、もっと協力者がいるはずです。」アシェル。

「そうか。しかし、ケイト、早く手当を。美しい顔が台無しじゃないか。王都は治安が思ったより悪いようだ。警備隊も信用ならんとはな。ふん、警備隊より子供の方が役に立つし賢いらしい。」アーサー。

アーサーの後ろから、ヒョコリと路地にいた子供が顔を出した。ニコッと笑う。アーサーを案内して来たらしい。

「そうよ!子供達にお礼をしなきゃ。この女を足止めしてくれたのよね?ありがとう!あなた達がいなかったら、息子達は誘拐されていたわ。」ケイト。


警備隊の一人が、

「失礼ながら、こちら、奥様ですか?」美貌の子爵と、普通の女性のケイトを交互に見る。

「ああ。私の妻だ。いくつになっても愛らしい。優しく賢く、誠実で倹約家で良妻賢母!その上料理上手で可愛らしくて上品だ。容貌ににじみ出ているだろう?私の宝物、聖母、天使、大切な妻のケイトだ。」

美しい美男のアーサーは30歳程に見える。陶器のように白い肌。スラリとした見るからに貴族の紳士。父親そっくりの金髪青い目の容姿の整った子供達。

しかし、妻のケイトは茶髪茶目の十人並み。30半ばの普通の平民に見える。そろそろオバチャンの域に入る。

天使にはみえません、と、その場にいた者たちは思った。


「かわいそうに、ケイト。キレイな顔が腫れて。よく頑張ったね。」

アーサーがケイトの腫れた頬に手を当てた。美しい顔を悲しげに歪めて言う姿にその場の人達は見とれた。

「お母様を殴ったのは、こいつ!」クリスが警備隊の捕縛された男を指さした。

アーサーがその男に無表情で近づく。

「妻への暴行に対し、夫からの暴力は許されますね?」

警備隊の一人に聞き、許可を得ると、アーサーは男の顔を拳で殴り、腹に膝で殴りつけた。ボコッドコッ。攻撃に一瞬のためらいもなった。男は泡を吹いて倒れた。

子爵の美麗な、虫も殺さぬ容貌で、凄まじい威力の攻撃を見せられて、人々は唖然とした。

「さて、帰ろうか。」

振り返ったアーサーは紳士の顔で微笑んでいた。

護衛が水筒の水でハンカチを濡らし、アーサーに差し出した。

アーサーがケイトに頬にハンカチを当て、ケイトの顔を心配そうに覗き込んだ。

「あ、ありがとう。あなた。」ケイトが赤くなる。

「うん。ホテルに帰ろうか。医者を呼ぼう。

ああ、協力してくれた子供達で親や家のない子は、うちの領地に来ないか?孤児院で預かるし、勉強する気のある子には学校に行かせてやるぞ。」アーサー。

子供達はわあ!っと喜んだ。


後日、馬車5台が用意されて子供達をローラン子爵領の孤児院に運んだという。うち、成長した何人かはアシェルとラシェルの良い従僕となった。


誘拐犯たちは牢に入れられ、然るべき処罰を受けた。街で見目の良い子供をさらって売っていたという。今回の事件で貴族の嫡子誘拐なので全員斬首。

ただ、不思議なことに煙が充満していた間に犯人たち四人を捕縛したジャックと名乗った人物は最後までわからなかったという。



美麗な子爵が普通の容姿の妻を褒め称えた噂が街に広がった。

金髪碧眼目の凄い美男が、普通の容姿の茶髪茶目の奥様を美しいと褒め称えたと。

ローラン子爵領では、茶髪茶目が美しいらしい!

ローラン子爵領では、普通の容姿の者でも、美男美女と結婚出来るかもしれない!

一回で良いから美男美女にモテてみたい!

ローラン子爵領への旅行者が増えたらしい。


ケイトは知っている。

アーサーが演じている事を。

結婚前、アーサーはモテた。家の借金があっても、モテた。

結婚しても、言い寄る夫人は後をたたなかった。ケイトが普通の容姿であることで「奥様よりも私のほうが、、、」と言う不倫希望の奥様達。美人な妻ならハードルが高いが、ケイトごときの容姿で満足なら、美人の自分ならいける!と思うらしい。


アーサーが人前でケイトを褒め称えるのを、ケイトは恥ずかしいから止めてほしいと思う。しかし、その演技で「子爵は目がおかしいようだ。」「子爵には奥様が美しく見えるらしい。自分は無理だ。」「子爵は変な人かも。」と噂が立ち、アーサーに言い寄る奥様が激減した。

それに、どうやらアーサーはケイトを本当にかわいいと思っているようだし。

まあ、良いかな、ってケイトもアーサーの演技に付き合う。

しかし、息子達がケイトに似た女の子(普通の子)を「あの子かわいいな。」「あの子とお友達になりたい。」と言い始めた。あれは父親の演技だよって、いつ言おう?

アーサーは「女も男も、顔じゃないぞ。お互いに一緒にいて楽しくて、自然体でいられて、信頼出来る人を伴侶にしなさい。」と言う。息子たちはどんな子と恋をするかな?


子供たちが眠った夜、まだ先の未来を、ケイトはアーサーと笑いながら語りあう。

二人きりの時間にも、夫から「キレイだ」「カワイイ」と囁かれてケイトは赤面する。照れるケイトをからかいながら、アーサーは愛を囁く。本当にケイトをカワイイと思っているから。


スピンオフのケイトの物語が浮かんだので。書いてみました。ローラン子爵夫妻は幸せに暮らしています。

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