第69話:見舞い、眠れる幼女と、ほくそ笑む悪魔
栗色の柔らかな髪がゆるりと、寝息に連動して小刻みに揺れる。
普段は快活な少女も眠れる時は見る者にそのあどけなさを感じさせていた。
「はっ!?リリィちゃんびっくりっ!!」
それ以上に衝撃を与える子でもある。
いや、びっくりなのは私たちの方なんですが。
「お店最初のお客様が倒れてお姉さんもびっくりしちゃったよ。
でも何事もないようで良かったけど。」
「お姉さん……あっ!テリヤキのお姉さんっ!!」
「元気だねぇ。そうそう、テリヤキのお姉さんだよ。
気絶するぐらい美味しかったようで何よりかな。」
「お姉さんっ!!」
「えっ、あっ……うん。」
勢い良く私の手を取って、熱いまなざしを向けてくるリリィちゃん。
「あなた……凄いわっ!!」
「あ……ありがとう?」
そして幼女に全力で褒められる私。
うん……なんだこの絵面。
料理漫画の様なオーバーリアクションをしたと思ったら、見事に気絶。
起き上がってすぐにこのアクティブさである。
もしかしたらこの子は将来有望なのかもしれない……なんてね。
「リリィねっ!感動してるのっ!
リリィびっくりしたって言ったけどね!それどころじゃなかったの!
びびびっくりしたの!もうね、びっくりのびっくりのびっくりしたの!!」
「なるほど、凄かったのね。」
「そうなのっ!!」
お騒がせな子だなぁとも思いつつ、憎めない純粋さに愛くるしさすら感じていた。
何よりここまで絶賛されると、こっちだって結構嬉しいものだ。
「それでねっ!リリィねっ!……あれ……何でリリィちゃん病院にいるの?」
「ん?あぁ……一応ね。」
そう、彼女が言う通りここはこの町に一つ存在する『病院』なのだ。
異世界に来て、まさか大きな病院があるとは私も想定の中には入ってなかった。
病院は三階建てで病室の区切りはなく、広間に大量のベッドが置かれている感じだが、それでも十分な大きさの医療施設だ。
話によれば魔王軍との戦争中に医療強化の為に作られた名残で現在もこういう大きな病院が残っているらしい。
小さな町医者がある程度と思っていた私にとってはかなり驚きの新発見であり。
同時に過去にあったとされる戦争の規模が凄まじかったことがまじまじと伝わってきた。
もちろん、今を生きる彼らにとっては過去の事ではあるわけだが……。
こちとら戦争相手だった魔王軍だったみたいだし……他人事には感じられないものがあった。
「お姉さん……リリィちゃん、悪いことしちゃった?」
「えっ?まぁ、確かに驚きはしたけど別に謝るようなことじゃないよ?
寧ろ、お父さんを驚かせちゃったと言う意味では私の方が申し訳ないぐらいだし。」
まぁ、そのお父さんは雨が降りそうだからと言って娘を置いて一旦家に帰ったけど。
娘が倒れても何か納得してたからね、寧ろお父さんに私が驚いたわ。
驚きが過ぎる娘さんとのんきが過ぎるお父さん……まぁ、良いコンビではある。
「違うわ、お姉さん。今はまだおそとがオレンジじゃないけど、太陽さん過ぎもしない。
お姉さんたちがいた場所はおそとがオレンジになりそうなぐらいがピーク時!
つまり……リリィちゃん悪いことしちゃったのだわ。
……ごめんなさい、お姉さん。」
「えっ?いや、それは全然大丈夫なんだけど……。」
そもそも、お客さん自体リリィちゃんたちが3時間近く待ってやっとのお客さんだったぐらいだし。
初日だったため、廃棄も身内で食べれる程度に収めてはあった。
しかし、そんなことよりもだ。
はへぇー……そうなのか。
いや、人がこないなぁとは思ってたけど、区域によって客入りの時間があるわけか。
確かに市場自体は中々の規模だし、人が来ない区域と言うのも出てくるものなのだろう。
いや、寧ろ新参のうち何かはそれ以上に客入りは厳しくなっていくはずだし。
リリィちゃんの話を解読すれば、真昼と夕方の間の特に夕方よりの時間。
……つまり3、4時が売れ時なわけか。
なるほど、となると仕込みはもっと遅くして……。
……いや、それより昼時を逃した場合の対策を……てか、リリィちゃんすげぇな!?
「……リリィちゃんさ、もしかしてあの辺について詳しかったりする?」
「いいえっ!リリィちゃんより詳しい人なんてそうはいないわっ!!」
「へぇー……そっかぁ……。」
リリィちゃんに付き添って来たのも、大事なお客様第一号って理由なだけではあったが。
これは……とんでもない神引きをしてしまったのではないだろうか。
「……ねぇ、リリィちゃん。」
「むぅ?なぁに、お姉さん?」
その時、魔王軍幹部の口角がいやらしく吊り上がった。
「テリヤキバーガーについて詳しく知りたくない?」
「えっ!?」
その言葉に、目を輝かせて嬉しそうにする幼女を見て私は確信する。
こりゃあ最強のカードを手中に収めてしまったとね。




