ピンク髪ヒロインは押しが強い?
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
「本気で美味かった。ありがとな」
「ふふっ、すごい勢いで食べてくれて嬉しかったわ。今度はもっと手の込んだもの作るわね」
「は?何言ってんだ。これはお礼だって言ったのは桃瀬だろ?なら、今回で十分してもらったからもう終わりだ」
「あら?お礼じゃないと料理を作ってあげちゃダメなんてことはないはずよ?」
「……わかってねえなぁ」
俺はわざと強引に、望愛の腕を掴むとその体を引っ張り、片腕で望愛を抱き締めた。
「きゃっ!?」
「いいか?男の家に来るってことはこのまま襲われても文句言えねえってことだぞ?」
「……あぁっ……んっ……」
俺の脅しに対し、望愛は頬を染めて甘い声を出した。
あれ?期待してた反応と違うんだが?
てっきり、「やめて!」と嫌悪感を示されると思ってたのに……。
って、おい!?こいつ、自分から俺の胸元に体ごと顔を寄せてきたぞ!?
「すぅぅぅ~………はぁぁぁ~………えへへ、本物だわ……」
え?待って?今の深い呼吸と嬉しそうな声の呟きは何?もしかして……、俺匂い嗅がれてる!?どういうこと!?
「も、桃瀬?」
「……やっぱりいい匂い……」
駄目だ。完全に自分の世界に入ってやがる。
ってか、望愛って匂いフェチだったのか!?そんな情報、漫画になかったんだけど!?
しかも、本物って言ってたよな……?まさか俺のシャツの匂い嗅いでた、とか?
いやいや、そんな訳……。うん、これはお互いのためにも触れないでおこう。
……どうやら体験で危機感を抱かせる作戦は失敗したみたいだ。
俺は望愛の体をそっと離した。
「あっ……」
望愛が明らかに残念そうな顔をしていた。
だからそういう顔を簡単に見せるなっての。
「……桃瀬。男ってのはな、いつだってお前みたいにいい女とヤりたいと思ってるもんなんだよ。だから、一人暮らしの男の家なんか簡単に来ようとすんな。いいな?」
俺は気を取り直して、言い聞かせるように言葉で伝えた。
「……龍賀くんも、そう思ってる?」
「はぁ?何言ってんだ。今は俺がどう思ってるとかじゃなくてだな―――」
「お願い。答えてほしいの」
なぜそんなことを聞きたがるのか俺にはわからなかったが、俺を見つめる望愛の表情から冗談で言ってる訳ではないことはわかった。
「……はぁ。桃瀬がいい女だとは思ってるけどな。襲ったりしねえから安心しろ」
「ありがとう……。けど、そう思ってくれてるのにどうして?……もしかして、付き合ってる彼女がいたりするのかしら?」
お前……、相手が俺じゃなかったら、襲ってほしいって言ってるように受け取られても仕方ねえぞ?
「んなヤツいねえよ。ただ単に、望んでもいねえ女を無理やりヤる気なんかねえってだけだ」
「……やっぱり龍賀くんは優しい人ね」
「あん?なんでそうなるんだよ?」
俺のこの疑問は、望愛に笑ってスルーされた。
「ふふっ。ねえ、龍賀くん。私ね、龍賀くんが最初に言ってたこと、ちゃんとわかってるつもりよ?だから男の人の家に簡単に行ったりなんてしないわ」
「嘘言うな。それに、さっきだって俺だからよかった―――ってのも変な言い方だが、隙だらけだったじゃねえか」
マジでわきが甘いんだよ。
俺が以前のままの龍賀玲旺だったら、間違いなく食っちまってるって断言できるぞ。
「そんなことないわよ」
望愛はプイっとそっぽを向いてしまった。
ま、伝えるべきことは伝えたから、これでよしとするか。
隙を与えさえしなければ、漫画のような寝取られ展開なんて現実で滅多に起こるもんじゃないはずだからな。
俺は、苦笑一つで切り替えて、財布から金を取り出した。
「今日の食材分だ。言っておくが、受け取らないってのはなしだからな?」
「……ふふ、ええ、わかったわ」
料理を作ってもらった上に、食材費まで出させるのはさすがに許容できない。
すんなりと受け取ってもらえたことに俺は内心安堵した。
「にしても今日はマジで驚いたぜ?まさか、桃瀬がこんな大胆な行動するとはな。普通しないぞ?」
「そうよね……。でも、放っておけなかったのよ。龍賀くんからすれば迷惑だったかもしれないけど……。ううん、ごめんなさい。結局は私の我が儘だわ」
「……優し過ぎだな。ま、俺が余計なこと言っちまったせいだが、そんなんじゃいつか騙されるぞ?」
実際、漫画では俺に騙されてるし。まあ、その俺がしないんだからそんな機会ないのかもしれないけどな。
「そこまでお人好しではないわよ。それに、食事が心配だったのは本当だけれど……、我が儘と言ったのはそうではないの。……ねえ、龍賀くん。やっぱり今、何か悩んでるでしょう?スーパーで会ったとき、すごく難しい顔してたもの。私が料理しているときも同じ顔してたから勘違いではないはずよ?……ううん、本当はもっと前。学校で、お昼休みに青葉会長に呼び出されて、戻ってきたときから少し様子がおかしかった気がするわ。私はそれがすごく気になってたの」
「……桃瀬には関係ねえことだ」
急に話の流れが変わりやがった。しかも俺にとってはあまりよくない方向に。
けど、内心、望愛の洞察力には心底驚いた。
勘違いどころか、大正解なのだから。
でも、だからこそ巻き込んじゃいけない。
「そうかもしれないけど……。でも、人に話すだけでも気が楽になるかもしれないし、私が力になれることもあるかもしれないわ。だから聞かせてほしいの」
「なんでそんなに積極的なんだよ?」
「本当にね。自分でも驚いてるわ」
「何だよ、それ」
「私はあなたのこともっと知りたいの」
「……桃瀬って押しが強いよな。正直、意外だったぜ」
「う~ん……そういう訳ではないのだけど……。だって、龍賀くんにだけだもの」
さっきからのやり取り。ここまで意識的に除外していた可能性。
……もしかしたら俺は間違えてしまったのだろうか。
望愛が俺に興味を持つなんて思ってもいなかった。
だって、望愛の想い人は昇のはずなんだ。
俺が寝取りさえしなければ二人は幸せになれるはずで……。
そんな根本的なところまで漫画と異なってしまうなんてことがあり得るのか?
「……なあ、桃瀬。突然何をと思うかもしれないが、一つだけ教えてくれないか?……お前は浅野のことどう想ってるんだ?」
俺が訊いた瞬間、望愛の表情には驚きが、続いて戸惑いが見て取れた。
「っ、……昇くんとは付き合ってるわ。今はまだ」
え!?お前らもう付き合ってんの!?
望愛の答えは衝撃的なものだった。
「ちょ、おま、それなら――――!」
男の一人暮らしの家に来て、手料理を食べさせるなんてダメだろ!?
昇がどう思うか……、このままじゃ事実は違っても寝取られ展開みたいになっちまうじゃねえか。
けど、俺の言葉は望愛によって遮られた。
「でも!……もう別れるつもりよ」
「別れる!?いったいなんでそんなことになってんだ?」
次々と放たれる望愛の言葉に処理が追いつかず、俺の頭は混乱していた。
「……それじゃあ、先に私の話を聞いてくれる?その後で龍賀くんも話してね?」
ちゃっかり交換条件にして、否定する隙を俺に与えず、望愛は話し始めた。
俺がナンパされている望愛を助ける前にあったことを―――。
「何やってんだよ、あいつ……」
話を聞いた俺はそんな言葉しか出てこなかった。
男として、機能しなかったことには同情するが、言い訳が最悪だ。
なんで望愛のせいにしてんだよ。
こんなすこぶるつきのいい女の体がだらしないって……。
「すごく……本当にすごく傷ついたわ。涙が勝手に出てくるくらい……。そんなときだったのよ。龍賀くんに助けてもらったのは」
「そうか……。ただな、その、浅野もきっと今頃後悔してると思うぞ?心にもないこと言っちまったって」
「いいえ。昇くんは何事もなかったみたいに振舞ってきたわ。あくまでも悪いのは私で自分は次こそ頑張るって」
「……大馬鹿野郎が。こんないい女相手にそれはねえだろ」
「ふふっ、ありがとう。あのときも傷ついた私を龍賀くんが癒してくれたのよ。見苦しいところなんて全くないって」
「ああ、それで……」
あのとき、服が透けて見えた眼福でしかないモノを見苦しいなんて言っていたのはそういう理由だったのか……。
ってか、漫画に描かれていないところで、望愛と昇の間にそんなことがあったなんて誰が想像できるってんだよ!?
「それから私、自分の気持ちをあらためて考えてみたの。それで気づいたわ。昇くんのことは幼馴染として仲良くしていたけど、異性として付き合いたいと思ってた訳じゃなかったんだって」
「……そうか」
漫画ではその初体験失敗を乗り越えて付き合いを続けていたのだろう。
それなのに望愛の初めては俺に奪われ、そのまま寝取られた。
だが、今の望愛は寝取られた訳じゃない。自分で考えて出した結論に俺が言えることなんて何もなかった。
……それともこれが強制力なのだろうか。漫画と同じように望愛と昇の関係は必ず壊れる運命だったと―――?
俺はすぐにその考えを振り払った。
違う。これはどこにでもあるような気持ちの問題だ。
それに、この現実の望愛は、漫画のように不幸になっている訳ではないのだから。
「だからね、私、これからは自分の気持ちに正直になろうって思ったのよ。とりあえず、私の話はこんなところかしら。それじゃあ次は龍賀くんの番ね?」
「……俺は桃瀬を巻き込むつもりはない。だから絶対に危ないことはしないって約束できるか?」
「……わかったわ」
望愛が真剣な顔で頷くのを見て、俺はため息を一つ吐き、慎也のこと、美涼に起きようとしていること、そして今、どうすれば美涼を関わらせないようにできるかで悩んでいることを望愛に話した。
「……そんな。明らかに犯罪だわ。それもすごく卑劣な。警察を頼った方がいいんじゃないかしら?」
「もちろん、最終的には警察に任せることになるが、証拠を揃えて奴らを完全に潰しておきたい」
「……どうして龍賀くんがそこまでしてあげるの?……もしかして青葉会長のことが好き、なの?」
「そんなんじゃねえよ。ただ……、知っちまったから。何とかしてやりてぇと思っただけだ」
「そう……。わかったわ。今の私にはまだ、これ以上言う資格がないから……。でも、龍賀くんこそ絶対無理はしないでね?」
「ああ、わかってる。心配かけて悪かったな」
まだこれ以上言う資格がない、という望愛の言葉はスルーすることにした。
どういう意味か、今聞いてしまってはいけない気がしたから。
「ううん。教えてくれてありがとう。それに、青葉会長のことなら私が力になれると思うわ」
「何?」
それからさらに色々と話して、当日の動きを粗方決めることができた。
その終わりに、美涼の件で今後連絡を取る必要があるから、と連絡先を交換することになったのだが……、交換後、望愛はスマホを見て口元をニマニマと緩ませていた。
そんな望愛の様子に俺は何とも言えない気持ちになり、意識的に深く考えないようにしたのだった。
話が長くなってしまい、外がもう暗くなっていたため、俺は望愛を家の近くまで送っていくことにした。
「ねえ、龍賀くん。近くだし、本当に一人で平気よ?」
「何度も言わせんな。ほら、行くぞ」
「ありがとう……」
嬉しそうに微笑む望愛に苦笑を一つ。
部屋を出た俺達は、並んで歩き出した。
「……ねえ、龍賀くん」
「また来たい、なんて言うなよ?」
どうやら正解だったようで、先手を打った俺の言葉に望愛はぷくっと頬を膨らませた。
拗ねた顔も可愛いな、おい。
それにしても、今日だけで本当に色んな表情の望愛を見ている。
綺麗で、可愛くて、親しみやすくて……、そのどれもが魅力的だった。
俺だって望愛の色んな手料理が食べられるなら正直嬉しいが、俺みたいな奴とはこれ以上関わらない方がいい。
昇のことだってそうだ。一度は付き合うと決めた相手なんだから、今後、あいつの頑張り次第では、現状望愛の気持ち的に可能性は低くても、元鞘ってこともあり得るかもしれない。
何にしても、つまり俺は、望愛には不幸になってほしくないのだ。
だからこそ、今日が特別だっただけだ。
そう思っていたのに―――。
「……龍賀くん、私を部屋に入れて無理やり抱いたわよね?」
望愛がいきなりヤバいことを言ってきた。
「おい、何言ってやがる?」
それじゃまるでヤったみたいじゃねえか。
「間違ってはいないと思うのだけど?」
「言い方が致命的に間違ってるだろうが……」
「このこと、クラスの友達に言ったらどうなるかしらね?」
そんなもの、俺が望愛を無理やり襲ったって噂が流れるに決まってる。
間違いなく、今よりもっと居づらくなるじゃねえか。
「脅しかよ!?ヒトがせっかく真面目に学校行くようになったってのに」
「ふふっ、さあ?どうかしら?それで……また行ってもいいでしょ?」
「……桃瀬の方こそ、あんま俺と関わると変な噂立てられるぞ?」
「大丈夫!何の問題もないわ」
「問題しかねえだろ……」
俺は呆れた目を望愛に向ける。だが、それはほんの僅かのこと。
月明りの下で、満面の笑みを浮かべる望愛は、そこだけ一枚の絵画みたいに美しく、俺は思わず見惚れてしまっていた。
そんなやり取りをしていたら、望愛の家まではすぐだった。
「ここが私の家よ。今日は本当に楽しかったし、色々話せて嬉しかったわ」
「俺の方こそ、メシありがとな。マジで美味かった。話も、まあ、できてよかったって思ってる」
「ふふっ、次はもっと期待してね?それじゃあ、送ってくれてありがとう、龍賀くん」
「ああ。……なあ、桃瀬」
「なに?」
「また明日……な」
「っ、……ええ!また明日ね!」
望愛は笑顔で家に入っていった。
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