怒りを爆発させぶっ潰す
本日2話目の投稿になりますのでご注意くださいm(__)m
6月10日、水曜日。
とうとう放課後になった。
俺はチラリと望愛に目を向ける。
望愛もこちらを見ており、こくんと一つ頷いた。
それに頷き返して、俺は静かに教室を後にした。
やって来たのは河川敷。
すぐに向かっては、慎也の言っていた時間に対し、さすがに早過ぎるし、できる限り一緒にいたくはないからだ。
こっちの準備が整う前にキレる自信がある。
だから逸る気持ちを少しでも抑えるために、座ってぼんやりと川を眺めていたら、自然と今週にあったことが思い出された―――。
今週になって望愛が俺に話しかけてくる頻度が増えた。
休み時間、気づけばススっと寄ってくるのだ。
望愛を心配していた友人達も説得などを諦めたのか、とりあえず静観することに決めたみたいだった。
望愛が色々話して聞かせたそうだが、俺を少しは信用した、なんてことはないんだろうな。
そして、これは必然、と言いたくはないが、昇が俺を睨んでくることも多くなった。
けど、望愛から話を聞いた今、もう申し訳なく思う気持ちはなくなった。
それどころか、俺を睨んでないで、望愛と仲直りする努力をしろよ、と憤りのようなものを感じていた。行動を起こせ、と。
もちろん、言ってやる義理なんてないから言わないが。
マジで、ただただウザいだけなんだよな……。
それと、昨日美涼にまた小言を言われた。
屋上で昼飯を食っていたら、いきなり現れたのだ。
どうやら昼休みに入ってすぐに教室に行ったら、すでに俺の姿がなく、わざわざ学校の中を探し回ったらしい。
望愛から俺に話しかける頻度が上がったことが原因のようで、本当に脅している訳ではないんだろうな、と問い詰められた。
まあ、十中八九昇がまた告げ口したのだろう。
そんなことはしていない、本人に聞いてみればいい、と言ったら美涼は引き下がったからまあいいが、同時に、自らを省みて、責任を負い、望愛に直接的な行動をしない昇にイラっとしたのは言うまでもない。
ただ、このときの美涼はそれで終わらず、コンビニ弁当では栄養が偏るだとか、昼飯は一人ではなく、教室でクラスメイト達と食べた方がいいんじゃないかだとか、あれこれと俺の心配までしてきた。
俺としては無用な心配ではあるが、こういうところ、人情味のある女だなと思う。
俺の決意をさらに固めるには十分だった―――。
スマホで時間を確認すると、まだ少し早い。
「ま、これくらいならいいだろ。そろそろ行くか」
言葉に出して、立ち上がる。
正直、この状況で、ぼうっとしているのもきつくなってきたのだ。
今日はこれからが本番だ。
俺は気合を入れて、慎也から聞いていた住所にある廃倉庫へと向かった。
スマホをいじりながら廃倉庫の中へと入る。
「やあ、龍賀君。思ってたより早いお着きだね。けど、ちゃんと来てくれて嬉しいよ」
慎也がすぐに気づき、俺を招いた。
「……そりゃ、こんな面白そうなイベントに誘われたら普通に来るだろ」
慎也がいる廃倉庫内の一画、そこには色々なものが持ち込まれており、まるで秘密基地のようになっていた。
「ははっ、いいねぇ。今日はやりたいようにヤって楽しんでってよ」
スマホをポケットにしまった俺は、すぐにでもその顔面をボコボコにしてやりたい衝動を抑え、慎也の近くにいた男達に目を向けた。
以前慎也が言っていたとおり、人数は二人。
そいつらはパッと見俺と同類、という感じだが、体格は大したことなく、不健康そうだ。
「飛び入りだが、今日はよろしくな」
「おう。慎也から話は聞いてるぜ。今日の女にイラついてんだろ?けど、だからってお前一人で速攻ぶっ壊すのはなしだからな?」
「わかってるよ。俺もたっぷり味わいたいからな」
「こりゃ確かにこっち側だわ。お前相当女遊びしてんだって?今度いい女こっちに回してくれよ」
「……ああ、考えとくわ」
「やったぜ!」
「俺も頼むわ!」
男達に合わせて会話すると、奴らはゲラゲラと馬鹿笑いした。
そして、下らないことを言って盛り上がり始める。
そんな俺達の様子を、慎也はあの薄気味悪い笑みを浮かべて満足そうに見ていた。
「……久住。会長が来るまで、まだ時間があるんだよな?」
「うん。少し前に電話したから美涼が来るまでもうちょっとかかるかな。大切な話があるから二人っきりで会いたいって神妙な口調で言ったら、すごく動揺してたよ。これから自分がどうなるかも知らずにね」
「……さすが、慣れてるな」
「こういうのってメッセージは論外だし、早過ぎる連絡も色々リスクになるからタイミングを見計らう必要があるしで、結構大変なんだよ?まあ、最後の苦労ってやつだけどね」
「……へえ。色々考えてんだな。俺にはとても無理そうだ」
「そう?まあ、こういうのはそれこそ慣れだからね」
「慎也はそういうところ毎回抜かりねえからな」
「そそ。頭のいいヤツってのは怖えのよ。俺達にとっては最高だけどな」
俺と慎也が話していると、男達が加わってきて、また馬鹿笑いする。
どこまでも人の神経を逆撫でする奴らだ。
「……そういうことなら、まだしばらくは暇ってことだよな。ならよ、会長が来るまで、前言ってた動画見せてくれよ?」
「ああ、そう言えばそういう約束だったね。いいよ、ちょっと待ってて。…………はい、ここに入ってるの全部そうだから好きなのをどうぞ?」
「……あんがとよ」
俺は慎也からスマホを受け取った。
「おいおい。見ながら一人でおっぱじめんなよ?」
男の一人が揶揄い半分で笑いながら言ってきた。
「んなことしねえよ。……ただ、気持ちを昂らせとこうと思ってな」
怒り、って気持ちをな。
「ヤる気満々だな、おい」
俺はスマホに目をやる。
画面にはいくつものファイルが並んでいた。
性格なのか、それぞれのファイル名はご丁寧に女のフルネームになっている。
それが、こんなにも……。
怒りが膨れ上がっていく。
だが、まだだ。まだ抑えなければいけない。
それに、中身を確認できたのはよかった。
このスマホを警察に渡せば、確実な証拠になるだろう。
慎也に返すことは、もう、ない。
「今日の流れを考えると、一応オススメは、黄良彩音、かな?」
俺がどのファイルも開かずにいたからだろうか、慎也が一つの動画を薦めてきたため、俺はそれを再生することにした。
流れる動画は、弱弱しく泣く女の声と、笑ったりキレたりしている男の声が響き、まさに地獄といった内容だった。
吐き気がする。
「黄良彩音って誰だっけ?」
「ば~か、お前の学校にいた二個上の先輩だろ?かなりよかったの覚えてるぜ」
「あ~、あの女か。もう壊れて結構経つからすっかり忘れてたわ」
「んな時間経ってねえっての。お前が忘れっぽいだけだ」
「……捨てた、ってことか?なら今この女は?」
男二人の会話が聞こえた俺は気になったことを尋ねた。
「その女なら自殺しちゃったよ。だから今はもう動画での収入しかないんだよね」
慎也が何でもないことのようにサラッと答えた。
「……へぇ。そいつは確かに残念だな」
何て軽く言いやがるんだ、この野郎は。
はらわたが煮えくり返って、スマホを持つ手が震えそうになる。
しかも、慎也は未来を知っている訳でもないのに、この動画の女性、黄良彩音は確かに今日とリンクしやがるのが最悪だ。
何せ、漫画での美涼も絶望の末に自殺してしまうんだからな。
……いくらここがそういう漫画の世界でもよ、何でこんなやつらが普通にのさばってんだよ。おかしいだろ!?
「でしょ?美涼には簡単に死んでほしくないよね」
「……そうだな」
そのとき、俺のスマホが振動した。
見れば、望愛からの短いメッセージ。
『今のところは順調よ。会長も大丈夫。予定どおり警察に連絡するわね』
俺の口元は無意識に笑みの形になっていた。
いいタイミングだ。
これでもう我慢する必要はない。
心置きなくこいつらをぶっ潰せる!
「まあ、けど、すぐに美涼に厭きちゃったらさ、次は桃瀬望愛がいいなって思ってるんだ。美涼に負けず劣らずのいい体してるからね。アレは昇には勿体ない女だよ」
「……桃瀬を?」
こいつ、望愛まで狙ってやがったとはな……。
「うん。あ、そう言えば、龍賀くんは、最近彼女と仲がいいんだよね?もしかして龍賀くんも狙ってたかな?それならさ、物は相談なんだけど、彼女をヤるときは僕達も一緒させてくれない?ほら、美涼とバーターってことで。あの体は味わっておかないと損だからね」
「……なるほど、な」
そんなこと俺が許す訳ないだろうが!!!
俺は立ち上がり、慎也にスマホを返すフリをして近づく。
「あれ?もういいのかい?」
「ああ。サンキュー……な!!!!」
俺は左手でスマホを差し出しながら、一気に抑えていた怒りを爆発させると、右拳を振り上げ、勢いよく慎也の顔面中央をぶん殴った。
慎也はその場でぶっ倒れ、鼻からダラダラと血を流しながらピクリとも動かない。
倒れたときに変なところでも打ったのか?
たった一発でこのザマかよ。ふざけやがって!
だが、いい気味だ。鼻が曲がってやがる。
しばらくそのまま寝てろ、クソ野郎が。
「おまっ!?」
「お、おい!何やってんだよ!?」
突然のことに男二人は動揺を隠せないようだ。
俺はそいつらに近づきながら、慎也のスマホをポケットにしまう。
「何って……、てめえらみたいなクズがよぉ、俺は一番嫌いなんだよ!だからぶっ潰す!それだけだ!クソ野郎共が!!」
「アガッ!?……グァッ!?………グフゥッ……!?」
俺は男の一人の頭を掴むと額の辺りに思い切り膝蹴りを入れ、同じところ目掛けて頭突きをくらわした。
さらに、膝が折れそうになったところで、腹に本気の拳を叩きこんだ。
一連の攻撃で、男はその場に崩れ落ちピクピクと痙攣している。
これで残り一人。
「何なんだよお前……、何なんだよ!?ふざけんじゃねえよ!」
残った男が殴りかかってくるが……、遅い。
「ブフッ!?……ウッ……ガハッ!?……ガッ!?」
俺はその拳を避けながら、相手の力も利用して顔面を全力で殴った。
男はその勢いで足が宙に浮き、頭から地面に落ちたが、間髪入れずに、俺は男の鳩尾を勢いよく踏みつけ、最後に顎を思い切り蹴り上げてやった。
「……はぁ……」
終わった……。
少し冷静になってきた。どうも相当ブチギレてたみたいで、停学になったらとか、警察に捕まったらってのは頭から吹っ飛んでた。
けど、まあ……、しょうがねえか。そうなったらそうなったときに考えるしかねえ。
これであとは三人を警察に突き出し、証拠となる慎也のスマホを一緒に渡すだけだ。
いざ、やってしまえば実に呆気ない。
10分も掛かってないんじゃないだろうか。
この程度の奴らに、たくさんの人が不幸な目に遭わされてきたと思うとやるせなくなる。
「クソッたれが」
俺は倉庫内にあったロープを拾い、念のためにと順番に拘束していく。
一人目が終わり、二人目の男を拘束し終えたときだった。
ふと、背後に気配を感じた俺は、本能なのか、振り返ることもなく、咄嗟に体を横に逸らし、転がるようにして大きく距離を取った。
「グッ!?」
左腕に激痛が走る。
慎也がナイフを突き出している姿が目に入り、俺の左腕からは結構な量の血が流れていた。制服はもう夏服だから、赤く染まっていく腕が丸見えだ。
「クソが!何逃げてんだよ!?クズのくせによぉ!?死ねよ!」
目を血走らせた慎也が、俺にナイフを向け直し、すごい剣幕で吼えた。
涙と涎、鼻からダラダラと流れている血で顔はぐちゃぐちゃだ。
「久住……!」
油断した。
こいつよりも他二人の方が危険度は上だと思って、追撃しなかったのが裏目に出ちまった。
それに、正直、こういう本性を隠してるようなクズは、裏で色々やっても自分の手を汚すことはないと甘く見ていた。
ってか、切られたところがすっげー痛い上にめちゃくちゃ熱い。
「スマホ返せよ!あれは僕のだぞ!どこに隠した!?」
大事な証拠なのに返す訳ねえだろ、バカが。
「さあな。ってか、お前こそナイフなんて隠し持ってやがったのか。けどお前、俺を殺したら間違いなく警察に捕まるぜ?お前みたいな奴が本当にそんなことできんのか?」
俺の言葉に、慎也は口元を醜く歪ませ、引き笑いした。
「例えお前を殺してもなぁ、そこでくたばってる奴らに罪を被せればいいだけなんだよ!そういうときのためのこいつらだ。そして僕は被害者になりきるからなぁ!」
こいつ実は馬鹿なのか?
「何言ってんだ、お前?」
そんなことできる訳がない。……それとも、この世界はそこまで緩いとでもいうのか?こういうクズにそこまで甘いと?
「そうだ。さっさとお前を殺して、スマホはゆっくり探せばいいんだ」
本気でイカレちまってるな。
「そうかよ」
なら、やっぱ確実に今潰しとかねえとな。
いくら相手がナイフを持っていても、俺の右腕はちゃんと動くから、片付けるのは簡単なはずだ。
ただ、傷が意外と深いようで、出血が激しいからな。あまり時間は掛けられないかもしれない。
俺は速攻で終わらせようと、慎也の動きに集中する。
互いの距離が結構離れているため、先に動いた方が不利かもしれない。
慎也は目をギラギラさせて、俺に突っ込むタイミングを見計らってるのが何となくわかる。
と、そのとき―――。
「慎也君?これはいったいどういう状況なんだ?」
聞き覚えのある、けれどこの場で聞こえてはいけない、凛とした低い女性の声が廃倉庫内に響いた。
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