望愛の母親に紹介される
約束の土曜日。
夕方、俺は手土産の箱を持って望愛の家に向かっていた。
手土産に選んだのは、以前、望愛と美涼の二人と一緒に買いに行ったあの店のケーキで、おすすめのポップが飾られているものがちょうど三つあったため、それにした。
あの日は色々と大変だったが、二人ともケーキそのものは美味しそうに食べてたから、手土産にちょうどいいと思ったのだ。
俺みたいなナリした奴が、一人でケーキを選んでるなんて場違い感がすごかったし、そもそも手土産を準備するってのが全く俺らしくはないが、挨拶に行くんだし、こういうのは大事だろうからな。
スマホで時間を確認してみれば、ちょうど約束した時間くらいに着きそうだった。
そうして、望愛の家の前に着いた俺は、その二階建ての一軒家を見上げる。
緊張、というか気後れしているのが自分でわかった。
理由は簡単。
何度か望愛を送っているので見慣れてはいるが、今日は初めて中に入るからだ。
そこには望愛だけでなく望愛の母親もいる。
美涼の両親と会ったときにも感じたことだが、俺が知っている親というものの方がイレギュラーなのであって、嫌悪を抱く必要なんてないんだと頭ではわかってるつもりなんだけどな。
感情ってもんは、理屈だけではどうにもならないらしい。
それに、望愛の家ってことはつまり、漫画で玲旺が望愛とヤりまくった場所ということだ。
望愛の私室はもちろん、リビング、キッチン、トイレ、風呂場、玄関、本当にありとあらゆるところで望愛を犯してるシーンが未だ結構鮮明に思い出せちまう。
今日はそんな理由で家に上がる訳じゃねえのに、こうした前世の記憶も今はマイナスに働いているみたいだ。
俺は雑念を払い、気持ちを落ち着けるために一度大きく息を吐いて、ドアホンを鳴らした。
「玲旺くん!ちょっと待ってて」
すぐに望愛が出て、数秒後、扉が開いた。
料理をしていたのか、出てきた望愛はエプロン姿だった。
「よ」
俺は片手を軽く上げて挨拶する。
「いらっしゃい、玲旺くん。どうぞ、入って?」
「ああ。お邪魔するな」
望愛に促される形で俺は家の中に入った。
すると、玄関に立った瞬間、何か温かさのようなものを感じて、思わずぼんやりとしてしまった。
これは、自分のアパートにはない、けれど、美涼の家にもあったものだ。
「玲旺くん?どうかしたかしら?」
「っと、悪い。なんでもねえよ」
俺は我に返って、苦笑した。
そのままリビングへと案内される。
「お母さんも中にいるわ。玲旺くんに会えるのをすごく楽しみにしてるわよ」
「そうか。あ、これ。一応ケーキ買ってきた」
「そんな、気を遣わなくてよかったのに。でも、ありがとう」
望愛にケーキの箱を渡し、一緒にリビングへと入った―――。
「なっ………!?」
瞬間、俺は目を見開き、固まってしまう。
ケーキを渡しておいてよかった。
持っていたらほぼ間違いなく落としていただろう。
それくらい驚きの衝撃で、一瞬頭が真っ白になった。
望愛の言葉どおりなら、リビングには母親がいるはずだが、そこにはどう見ても二十代中頃くらいにしか見えない女性がいたのだ。
だが、問題はそこじゃねえ。
その綺麗な顔、淡黄色の髪。望愛よりも大きくてしっとりとした胸に、引き締まるところは引き締まっていながらも柔らかそうな…、いや実際に柔らかい体。
見間違いじゃない。柚妃だ。
彼女は、俺が前世の記憶を思い出すよりも前に、一夜限りの関係を持った女だった。
「いらっしゃい。よく来てくれたわね。……って、あら?あなた……」
俺に歓迎の言葉をかけてくれた柚妃だったが、彼女もすぐに気づいたようだ。
その証拠に大きく目を見開いている。
「お母さん、紹介するわね。彼が玲旺くん。龍賀玲旺くんよ」
そこに、望愛の弾んだ声が響いた。
ただその内容は、俺に現実を突き付けてくる。
やっぱり、柚妃が望愛の母親で間違いないようだ。
これは……、最悪と言ってもいいくらいマズい状況じゃねえか!?
いや、落ち着け―――って、落ち着いてなんていられるか!!!
マジでヤベえよな!!?
ダメだ!混乱して頭がまともに働かない。
ってかよ!ここは漫画の世界だろ!?母娘だっていうなら、そこはピンク髪で統一しててくれよ!!!!
俺は心の中で自分でも意味不明なことを絶叫していた。
お読みくださりありがとうございます。
5/20柚希→柚妃に変更しました。すみませんm(__)m
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