352.年末の晩餐⑦
一方、エミリアたちの下の階では……キャレシーが慣れない酒を飲んで、酔っていた。
(くっそ……美味い……のが悪い)
普段、キャレシーは酒を飲まない。
だがレッドブルーの口当たりとオレンジ、ザクロの組み合わせにすっかり調子に乗ってしまったのだ。
キャレシーの顔は真っ赤で、手元はふらふらしていた。
「……そろそろ止めておいたらどうだ?」
「言われ……なくても」
キャレシーは今、フォークでおつまみのメンマをつついている。
つついているだけで口にまで持っていけない。重症である。
「仕方ないな」
「あ?」
ガネットはすーっと椅子ごと移動すると、キャレシーの隣にやってきた。
音もほとんど立てずの華麗なる早業で止める間もない。
寄ってきたガネットがキャレシーのふらつく腕に手を添えて――メンマを取らせる。
「ちょっ……」
「ほら、これが食べたいんだろう」
あーんとそのまま口にまで持ってこされられ……思考力も抵抗力もどうしようもなくキャレシーはメンマをはむっと食べる。
もぐもぐ。美味しい。
時間がやや経ってもメンマのシャキッとした食感はとても良い。
「他に食べたいのはあるか?」
「……それ」
キャレシーが気だるげにフォークで指した(行儀の悪さは見逃して欲しい)のは東方の謎のおつまみだった。
トーフーとかいう、大豆でこねこねした真っ白な加工食品だ。
ぷるんとして味が全く想像できないうえに、大豆製の暗黒ソースまでかかっている謎さである。
「わかった」
ガネットは素直にキャレシーのリクエストを受け取り、スプーンでトーフーをすくう。
ゼリーのような柔らかさ……で、そのままガネットはトーフーをキャレシーの口に運ぶ。
「あむ……」
「どうだ?」
「うーん」
食感はゼリーよりも柔らかく、豆の癖がある。しかしかなりの旨味だ。
対して真っ黒な豆ソースは思ったより滑らかで味が濃い。総合すると奇妙に調和し、イケる。
もにゅもにゅ……。
酔った頭にはちょうどいいかもしれない。
「……もう一口」
「好きなだけ食べろ」
ガネットは甲斐甲斐しくキャレシーの口へトーフーを運ぶ。
はむはむ……。
東方の人らは何を考えてこんな料理を作ったのだろうか。
豆なら豆のまま食べればいい気がするのに。
「なぜ豆でゼリーを作ろうと思ったのでしょうね……」
「いや、聞いた話だとチーズを目指したらしいぞ」
「そうなの? 全然違うけど」
「知らん。乳製品からチーズを作るように、豆から保存食品を作ろうとしたんだとか……一説によればだが」
「はぁーん……」
わかったような、わからないような。とりあえず口が渇いたので、何か飲もう。
キャレシーは新しいレッドルビーのグラスを手に取り、ごくごく飲んで……。
半分まで飲んで気が付いた。
「アルコール入ってなくね?」
「それはオレンジ&ザクロジュースだから当然入ってない」
「は? いつの間に?」
わからなかったが、ガネットはノンアルコールドリンクに変更していたようだ。
早い。キャレシーの頭がふらふらしていた時だろうか。
「一通り残っているおつまみを食べたら、帰るか」
「あい……」
食べ終わり、会計はガネットが全部払った。
ふらふらしながらもガネットが側にいて、それとなく支えてくれる。
「帰れるのか、お前」
「大丈夫」
「本当か?」
「うるひゃい」
ガネットがポチリとエレベーターのボタンを押す。
ういーんとエレベーターが降りてきて――キャレシーの頭がぱっちり冴えた。
エミリアとロダン、フォード、ルルが乗っている!
「……え?」
フォードがロダンに何やら話している。
「今日のお魚、美味しかった〜」
エミリアはそれとなくロダンの側にいて……フォードの胸元にはルルが抱えられていた。
「きゅい?」
乗りますか?
と聞かれた気がするが、ガネットは即座に手を少し前に出す。
エミリアはガネットとキャレシーの姿を見て固まっていた。
「いや、次でいい」
「きゅ」
エレベーターボーイが閉じるボタンを押して、エレベーターの扉が閉まる。
「きゅい〜」
ばいばーいとルルが羽を振りながら……エミリアもなんとか微笑みながら小さく手を振ることだけができたのだった。
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