339.黒くて平らな
馴染みの食品店にエミリアたちは立ち寄る。
ルルがいてもここの店員はもはや慣れきっているので、何も言わない。
「おや、エミリアさん。こんにちは」
「こんにちは」
エミリアに声をかけたのは店主のおじさんだった。
年齢は50代半ばだろう。
肩が超絶がっしりしており、いかにも市場に買い付けにいく人だ。
(実際のところはわからないんだけどね)
「こんにちは〜」
「きゅーいー」
「おふたりさんもこんにちは、どうぞ見ていってくださいよ」
この食品店はイセルナーレ住まいの人が日常食べる食料品が置いてある。
ただ、生鮮品は水産物と小麦関係だけ。肉や野菜は加工品、発酵品のみだ。
しかし品揃えも価格も良いので、エミリア家はよく利用していた。
「今日のお魚、貝は……と」
「きゅい!」
棚には締められた魚や小さな水槽に入れられた貝が並ぶ。
冬のイセルナーレではイワシ、タラ、スズキなどが安価で人気だ。
マグロやタチウオ、タイなどはもう少し高価だが、庶民も食べられる範囲である。
ルルがフォードの腕をペチペチとした。
「きゅー」
「持ち上げるんだね、ほーい」
棚をじっくりと見るため、ぐいーんとルルが持ち上げられる。
「……きゅ」
ルルの眠そうな目にきらりと鋭い光が宿る。今夜の夕食に向けて、食欲最優先の瞳だ!
「何がいいかしらね」
「きゅい」
ルルが首を左右にゆっくり動かして、美味しそうな魚を吟味する。
店内にはまだ人が多くなく、じっくりと選ぶことができた。
「フォードは何がいい?」
「うーん……美味しいお魚がいいかな〜」
無邪気。それゆえに究極の答え……!
「きゅっ!」
ルルがぴしっと棚のひとつを羽で指した。
羽の先にあるのは、黒っぽくて平たい魚だ。ちょっと間の抜けた顔で、エミリアも前世の記憶では見覚えがある。
「えっ? これは――カワハギかしら」
「おおっ、よくご存知で!」
棚には2匹だけカワハギが置かれていた。それぞれでっぷりした身だ。
「いつもは置いていなかったと思うけど……」
「ええ、今日は特別に入荷しまして。良いお魚ですよ」
店主のおじさんが揉み手する。
「イセルナーレではあまり食用としてメジャーじゃないんですがね。しかし冬の季節は肝がその、素晴らしくて……それをお客さんにも味わって欲しくて……!」
おじさんがぐっと拳を握る。
おじさんの熱い想いとは裏腹に、カウンターにいる娘さんの視線は冷たかった。
『マイナーな魚を買い付けて……しかも肝を食べるって? ナニソレ?』
うーむ、なるほど。
カワハギをさばいたことはエミリアにもない。
(現代地球でも自宅でさばくのは珍しい種類だものね)
ただ、冬のカワハギは大変美味しい。肝もソースとして良いとされる。
「うーん……」
「きゅきゅい」
悩むエミリアの袖をルルがちょんちょんと引っ張る。
「きゅっ……!」
「手伝ってくれるの?」
「きゅい!」
ふにっとした羽を掲げるルル。
その瞳は『きっとさばける! 信じよう! この羽は切れないけど、恐らくイケる! トラスト、ペンギン!』だった。
微妙なニュアンスを感じ取ったフォードが心配そうな声を出す。
「ルル、大丈夫……?」
「きゅーい」
ルルは自信があるようだが……まぁ、魚の解体ならなんとかなるか。
「じゃあ、このカワハギを2匹もらおうかしら」
「素晴らしい! 安くしておきますよ、奥様!」
棚にある値段より本当に(日本円にして100円ほど)安くなり、少し得した気分だった。
「あとは貝でこれと、ハムも少し……」
「はいはい! ありがとうございます!」
店主のおじさんは上機嫌に残りの品を袋に詰める。
というわけで今日はカワハギだ。
どんな味になるか想像できない時は、パスタミスタを買うに限る。
これは様々な形状のパスタが入った混合袋。味に変化が出まくるのだ。
そして念の為に唐辛子と胡椒も買っておいて……エミリアたちは店を出る。
「カワハギか〜。どんな味なんだろ?」
「きゅー」
エミリアにも正直、どうなるかわからない。
でもルルの目利きだ。ペンギンの眼を信じてみよう……!
ペンギンの視力は一般的に水陸両用で、人よりも良いとされています(諸説アリ)
水の中でも見えますからね!
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