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──────テグラと出会ったのは、まだ駆け出しの冒険者だった頃だ。
「アンタら、新入りだよ」
その日は休日で、兄弟子であるヴァ―イと二人で武器の稽古を行っていた。
互いに実際に使う本物の道具を使うため、扱いを誤れば相手を殺しかねない。
その危険性を敢えて再現するために、無数の小さな切り傷を作りながら、小一時間ほど経ったときだった。
「テグラだ。よろしく頼むわ」
「ザハ」
「ヴァ―イだ」
冒険者のチームにおいて、人の出入りはそれほど珍しくない。
個人の都合で簡単に加入と離脱は起きるし、怪我や病気で離脱するのはもっと起きる。
まして彼らが属しているのは、ギルド『明星の狼』の直轄チーム『フェンリル』だ。
他のチームよりも遥かに危険性の高い依頼をこなすため、人の出入りは日常茶飯事に近かった。
「んじゃ、若いので好きにしな」
連れてきたラフェールはそれだけ告げると、その場にテグラを置いていなくなってしまう。
男、三人。
まるで共通点の無い彼らの中で、最初に口を開いたのはヴァ―イだった。
「その衣装、『晨明の羊』の人間か?」
「んにゃ、そっちじゃない。確かにいたことはあったが、長いのは『闇夜の牛』の方だな」
「そうか。なら、その恰好は個人の趣味か?」
「そういうこと」
テグラは当時から、だんだら模様の法被と足袋、頭にはバンダナを巻いた格好をしており、『明星の狼』の本部がある街では些か浮いていた。
とはいえ、そんなことを気にする二人ではないので、個人の自由ぐらいにしか思っていなかったが。
「んで、テメぇらが期待の若手だろ?噂には聞いてるぜ」
テグラはニヤリと笑みを浮かべると、近くにあった金属製の柵に手を伸ばす。
「水と土と闇の三重魔術使いに、『鑑定』の権能を持った名家のボンボン。この業界じゃ名の知れたルーキーだ」
バコン!と甲高い音がした後、テグラは腕から金属の鎖を取り出すと、取り外した柵に結び付け始める。
「そんでもって、オレはまぁ辛うじてルーキーってとこだ。ネームバリューだけ見りゃ、オレの方が劣ってるわな」
「…………何が言いたい?」
ヴァ―イの問いに、テグラはずるりと笑みを浮かべた。
「簡単だ。喧嘩を売ってるのさ」
「…………」
「まさかと思うが、仲良しこよしをするなんて思ってねぇよなぁ?オレらは冒険者だ。欲しいものがあるなら、例え誰かを犠牲にしても手にするのが常識。そこらの女子じゃあるまいし、お茶なんて優雅な真似はガラじゃない」
テグラは語りながら、鎖に結んだ柵を回し始める。
その、あまりに武骨で不細工な武器を前に、ヴァ―イは鼻で嗤って捨てた。
「くだらん。そんなガラクタで勝つつもりか?」
「なーに言ってんだ」
ぐわん!とひと際大きな弧を描いて。
「テメぇら如き、ガラクタで充分だっての!」
「っ!?」
危険を察知したヴァ―イが、受けるために構えた槍を下げると、素早く距離を取った。
直後、ゴワワワンッ!!という音と共に、地面に柵の先端が突き刺さる。
「よく躱したな。受けてりゃ、一撃で冥界に送れたんだが」
「…………権能か」
「ご名答。とはいっても、そこまでの物じゃない」
テグラは種明かしをするマジシャンのように、両方の袖から鎖を取り出し地面に垂らす。
それが地面に触れた途端、まるで生きた蛇のように先端が別々に動き出した。
「オレの権能は『操鎖』。簡単に言えば、鎖を自在に操ることができる」
単なる技量を超えた才能を、人は権能と呼ぶ。
そしてテグラの操る鎖は、いくら凝視しても想像すらできないほどに奇怪な動きを繰り返していた。
「安心しな。権能の詳細を伝えたから負けた、なんてことは言わねぇ。オレの方が冒険者としては先輩なんだ。これぐらいのハンデはあって当然だろ?」
「…………フン。小さい男だ」
「そういうのは、これを凌いでからにしな!」
テグラがそう叫んだ直後、二本の鎖が同時にヴァ―イへと襲い掛かる。
(左右それぞれに異なる重し。なるほど、これで操作に違いを生んでいるのか)
ヴァ―イは冷静に判断した後で、改めて状況を確認した。
(ここは冒険者御用達の宿舎街。多少の乱闘程度で騒ぎになることはないが、配慮無しに暴れられるのは困るか)
「ザハ!」
「ったく、どうなっても知らねぇぞ!」
バキン!と。
静観していたザハが、一刀でテグラの鎖を断ってみせた。
「なにっ!?」
「驚くなよ。随分と年季が入ってるようだが、お気に入りなら額縁に入れて飾っといた方がいいぞ」
「よくやった」
「なんでお前に褒められないといけないんだよ。気色悪い」
驚愕するテグラを他所に、ザハとヴァ―イは睨み合いへと移行する。
その様子を観察していたテグラは、音もなく斬られた鎖を回収し、断面を確認した。
(切った、というより割った、だな。確かに数年ぐらい使ってるとはいえ、あれだけ動いてる鎖の中で、劣化で脆くなってるのを見破るのか)
テグラは驚き呆れ、そして歓喜の笑みを浮かべた。
(あの人の言った通りだな。ここにいりゃ、退屈しなくて済みそうだ)
ぐるんと出していた鎖を全て納めると、テグラは腰に提げていた二対の鎌を取り出し鎖へと結び始める。
「鎖鎌か。和那の国の創作にて稀に聞く技だと記憶しているが?」
「生憎と、オレの鎖鎌は創作なんかと比較にならねぇのさ」
合計で四つ。
二本の鎖の両端に結んだそれを指で挟みながら、テグラは溢れんばかりの殺気を放ちながらこう叫んだ。
「せっかくの自己紹介だ!派手にいこうか!」
「生憎と、それは困る」
「仕方ねぇなぁ」
臨戦態勢に入っているヴァ―イを見て、ザハは仕方なく己の武器を構えた。
中々に熱烈な初対面ではあったが、結果としては他の冒険者よりも深い仲を築くことができ。
この乱闘で発生した損害費用を弁償するという名目で、テグラは『フェンリル』に腰を据えることになる。
因みに。
「この気配は、ザハ君とヴァ―イ君。それにテグラ君ですね」
街へ一番被害を出したのは、止めに入った『フェンリル』の副隊長であるカルテラであり。
三人は何度も意識を奪われながらも、強制的に起こされては叩きのめされ、ボロ雑巾のように地面に這いつくばらせられたことを。
三人は共通のトラウマとして、記憶の底に封印するのであった。




