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「ごめんなさい。それは無理」

「だろうな」


 アリアの返答に対し、ザハは当然といった様子でそう返した。


 ツラヌキウオは視覚を頼りに攻撃をしてくるが、一方で視力はそれほど良くない。

 いわゆる光以外のものが見えるわけではないため、地中から浮上する際には狙いが甘くなる。


 アリアが動かずに待っていたのは、相手に情報を与えないため。

 結果、ツラヌキウオは狙いを外し、アリアはそれを倒したのだ。


「私のせいでギルドは相当に疲弊してるの。私個人が協力してもいいけど、私が動くとなればギルドのみんなが動くことになる。それだけは、どうしても避けたい」

「構わねぇよ。来たついでに聞いただけだし」


 アリアの性格をよく知るザハは、可能なら彼女に頼ることはしたくなかった。

 

(『ワルキューレ』を出るのだって相当に勇気を振り絞った結果だろうし、今は周囲を振り回すのに抵抗強いのは当然だわな)


 だが、ナシェを見つけるには痕跡を辿るしかなく、こちらの来訪に気づけないわけがない。

 だからこそザハは、『果てなき骸』の名を聞いた時に嫌な顔をしたのだ。


「それにしても、まさかあの『黒狼』と揉めることになるなんてね」

「意外か?」

「だって貴方たち、仲良かったじゃない」


 なんてことなくそう言われ、ザハは思わず顔を顰めた。


「俺とアイツが、仲がいい?」

「違うの?」

「絶対にねぇよ。俺も嫌いだし、アイツだって俺のこと嫌いだろうしな。根本的に価値観が合わないんだよ。魂レベルでな」

「そんな風には見えなかったけどね」

「そりゃテグラがいたからだろ。アイツ抜きでバカヴァ―イと関わろうと思わねぇよ」


 吐き捨てるようにそう言い切るザハに向けて、アリアはどこか懐かしむように笑みを浮かべた。


「テグラ君、か。彼もいい人だったね」

「…………あぁ、歳はそんな変わらなかったけど、誰よりも大人だったからな」


 不意に変化した空気に気づいたのは、スーがそっとザハの手を握っていた。

 それに気づくと、ニヤリと笑みを浮かべて額を小突いた。


「心配すんな。大人ってのは、昔話で盛り上がるもんなのさ」

「そうなの?」

「そうみたいね」


 敢えて否定せず肩を竦めたアリアは、そこで初めてスーの瞳に気が付き表情を変えた。


「…………なるほどね。だからナシェちゃんを探してるわけか」

「そういうこった」


 ザハはアリアに対し小さく頷くと、極端に声量を下げて離れたアリアに囁く。


「効果は対象関係なくぶっ壊す系、ちょうどセバンさん辺りと似てるんだが」

「コントロールできてない、でしょ?」

「流石アリア。話が早くて助かる」


 ザハが『果てなき骸』に来た理由は、もう一つある。

 他のダンジョンと違い、ここは完全に隔絶された土地だ。

 言ってしまえば、何をしたって影響はほとんどない。


「死にかけの島とかねぇか?」


 そこでやっと、スーにも聞こえる声量で会話を再開する。

 不意に話が始まったからか、スーが驚いた顔でザハの顔を見上げた。


「そうね。可能性が高いのであれば、心当たりがあるわ」


 そしてアリアもまた、聞かずともザハの目的を理解したらしい。

 記憶を辿るように視線を泳がせると、確かめるようにそう答えた。


「なにするの?」

「お前の力の訓練だな」

「…………」


 何をしようとしているのかうっすらと理解できたのか、スーの表情が強張った。

 するとアリアは、スーの前にしゃがみ込むと、その小さな両手を取って語り掛ける。


「スーちゃんがいい子なのは、今のやりとりで分かったわ。だからこそ、スーちゃんは自分の意志で、自分の力をコントロールできるようにならないといけないの。スーちゃんなら、言ってることが分かるよね?」


 ゆっくりと、諭すように語り掛けるアリアの目を、スーは真っすぐ見据えた。

 それを前にして、アリアは満足げに笑みを浮かべて続ける。


「だから、一緒に頑張ろう。私がいれば、スーちゃんの暴走も抑えられるから」

「…………うん」


 コクンと頷いたのを見てから、アリアは優しく頭を撫でてからザハに伝える。


「私の権能は必要かしら?」

「頼めるか?」

「だから私に会いに来たんでしょ。どーせ、メツバの奴から居場所を聞いたんだろうけど」

「うっ…………」


 奴、という、どことなく棘のある言い方をされ、思わずザハは目を逸らしてしまう。

 そのあまりにも分かりやすい態度を前に、アリアは小さく息を吐いた。


「別にいいわよ。メツバのことだから、どーせ重要そうな人の同行は逐一把握してるだろうし」

「…………すまん」

「謝らないでいいわ。どちらにしても、私の目的と行為は消えて無くならないから」


 不思議そうな表情をするスーに「なんでもないよ」と笑顔で伝えると、手を繋いだまま別の方向へと進んでいく。

 その背中を眺めながら、ザハは思う。


(やっぱ、俺にはこういうのは向いてないな…………)


 ザハは孤児としての生活が長かったからか、もしくは『鑑定』の権能を持っているからか。

 どうも人の感情の機微に疎く、迂闊だった。


 今のやりとりにしても、アリアが連想したくない名前へと誘導してしまったのはザハだったし、別の内容にすることだってできたはずだ。

 

 だが、それができない。

 こればかりは、昔からずっと変わらない、数少ない自覚している欠点だった。


(昔、テグラにも同じことを言われたなぁ…………)


 かつての同胞とのやりとりを振り返り、やはり思う。


 テグラは才能に満ち溢れていた。

 怪我で後遺症を負い、引退したことを悔やむほどに。

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本編はこちらです。こちらも覗いて頂けると幸いです
異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!? 
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