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「なぁ、マジで連れてかなきゃダメか?」
どこか不安げな男の声に、音響兵器のような轟音が鳴る。
「何を言うか!男に二言はないのが常識だろうが!」
「うるせぇよ!!テメェの声は無駄にデカいんだから、わざわざ覗き込んで言わなくていいわ!」
「おおそうか!だがしかし!聞こえないかもしれないと!考えるのが!男だ!」
グワングワンと、ボトルに詰められ思いっきり振り回されるような感覚に、意見を発した男は心底後悔した。
そして。
「わくわく」
「…………この状況で楽しめるなら、間違いなく冒険者向きだよ」
羊を模した洋服に身を包んだ少女は、まるで遠足に出かける寸前の子供のように、小さく体を湯差しながらその時を待っていた。
「さぁさぁ!それでは行こうか!」
「テメェの腕は認めてるが、本当に大丈夫なんだろうな?」
男の声に、音響兵器はこう答える。
「無論だ!人間は、死ぬときは死ぬからな!」
「それは答えになってねぇんだよ!?本当に頼むぞ!!」
やけに弱気なのには理由がある。
答えは簡単だ。
「さぁさぁ野郎どもお手を拝借!人生一度の大舞台!腹をくくらにゃ男が廃る!」
「「「「「ソイヤ!ソイヤ!」」」」」
男は今、大砲の中にいた。
周囲に集まる群集は足踏みをし雄叫びを上げ、さながら地震のような地鳴りが大砲に伝わる。
「当たるも八卦当たらぬも八卦!だったらするのが男の渡瀬!」
「「「「「ソイヤ!ソイヤ!」」」」」
「命張らずに男は名乗れず!賭けて張るのが人生よ!」
「「「「「ソイヤ!ソイヤ!」」」」」
(口上が長いんだよ…………)
大砲の中で待機する男、ザハは思わずそう突っ込んだ。
一方の少女、スーは物珍しいのか、しきりに顔を動かしている。
「さぁて!いって、こいやぁ!!」
ズズンッッッッ!!!!
視界が縦に揺れた。
そう認識した瞬間に、二人の体は宙を舞っていた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「ッッ!?」
(何遍やっても、これだけは慣れねェなぁ!?)
首の骨が軋むほどの急上昇に、ザハは思わず顔を顰める。
一方で魔術などで保護しているスーは、砂利道を走る車内のようにガタガタと頭を揺らしていた。
上昇は三分以上続き、点滅する視界は緩やかに鮮やかに変わる。
そして。
「スー!広げるぞ!」
「うん」
まさにギリギリ。
上昇速度が弱まり、落下に入る寸前に、ザハは背負っていたバックを放り投げた。
すると、バックは音を立てて広がり、さながら鳥の羽に似た長方形の薄い膜に変化する。
ガクンっ、とひと際大きく揺れた後、二人は緩やかな下降状態に入っていた。
「大丈夫か?」
「うん、へいき」
パラシュートに似た構造だが、決定的に違うのがその使い方。
パラシュートは空中から地面に着地するのに使うが、この道具は空中で移動するのに使う。
また、重量を軽くするために強度も低く、少しでも落下してから使うと破損するほどに脆い。
本来であればもっと強度を上げることもできるが、それでは目的の高度まで到達することができない。
なので、強度と重量の、まさに限界ギリギリのバランスを成立させた代物がこれだった。
「とりあえずは成功だな。っとに、毎度ながらしんどいぜこれ」
「う、うん」
スーの返事はどこかぼんやりとした様子だが、無理もないとザハは思う。
二人がいるのは、高度一万メートルよりも更に上。
眼下に広がっているのは、言葉すら失うほどの絶景だからだ。
「すげぇだろ。これを見るためだけに、わざわざ使う奴もいるくらいだからな」
「…………すごい、きれい」
うっとりと景色を眺めている横で、ザハは静かに移動速度を速める。
今使っているこれは、エアラインと名付けられた道具だ。
文字通り、空中で線をなぞるように移動するのを目的に設計された代物で、僅かな力加減で風を捉えることができる。
本来であれば高い練度と経験が必要な技術だが、ザハには『鑑定』の権能がある。
エアラインの価値が高くなるのは、適切に扱うことができている時。
それを見極めれば、風を読まなくても勝手に移動してくれる。
(昔やったときは、無理して風を読もうとして失敗したからなぁ…………今思えば、よく生きてたもんだ)
ゆっくりと滑空しつつ、二人はある方向へと進んでいた。
既に、ザハが権能で捕捉している。
というよりも、空の上にあってはいけない故に、スーですらも気づける異質さを放っていた。
「…………いわが、とんでる?」
「だな。ちょっと気をつけろよ」
まるで水面に浮くように、ふわふわとザハの背丈並みの岩が二人の横を通り抜けた。
雲に突っ込み視界が白くなった後、一気にそれが開けた。
「なに、あれ?」
そこにあったのは、巨大な島だった。
遥か上空にいるのに、その端が雲に隠れて見えないほどに巨大で、湖や森林、更には人工物までもが見える。
流石のスーも驚いたのか、その光景に言葉を失っていた。
「あれが今回の目的地だ」
七つある中で唯一、見つけることすらも困難だと言われた場所。
ダンジョン名、『果てなき骸』。
上空一万メートルに存在する、空を飛ぶ島である。




