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睨み合うカルテラとザハは、二人の間に一枚の葉が落ちたことで火ぶたが切られた。
「──────ッッ!!」
ザンっ!と勢いよく踏み込むと、ザハはカルテラの間合いに侵入する。
「らぁ!」
右片手での切り上げ。
フェイントも崩しもない、単調ながら鋭い一撃がカルテラの首へと迫る。
「いい踏み込みですね」
だがそれは、胴体を少し下げるだけで回避される。
(だろうなッ!!)
回避されることを読んでいたザハは、あろうことか右手に持つ剣を手放した。
空中に置くのではなく、少し手首で弾くように放り投げられた剣は、空いていた左手へと吸い込まれる。
「ッシ!」
胴から首へと狙う一撃が当たらないのは当然。
狙いは始めから、カルテラの足元だった。
「へぇ」
「!?」
カルテラの感嘆に、ザハは思わず目を見開いた。
あろうことかカルテラは、片足を無造作に伸ばしただけの動作で、ザハの一撃を防いで見せたのだ。
剣ではなく、それを握る手。
変則的な連撃を前に、カルテラは的確に彼の左手を抑えていた。
そして本当に驚くべきことは、たったそれだけの、見てしまえば誰もがそう語るであろうこの状況下で。
ザハの体が、ピクリとも動かないことだった。
「少しだけ驚きました。まさかここまで腕を上げているとは想像していませんでしたので」
ザハの権能は、人間の性能そのものを見抜く力。
だからこそ、相手が仮に本気で蹴りを放とうとした場合、自然とそれが来ることを予期することができる。
なのに、カルテラからはその気配が全くしない。
手を抜かれているのではなく、そもそも力すら入れていない。
平時と、それこそ街中を歩くときくらいの感覚で、ザハの一撃をカルテラは防いだのだ。
「でしたら、わたしも出し惜しみはいけませんね」
ゾワリ、と。
あまりにも明確な危険がザハの全身を叩いた。
来る。
「ゴエッッッッ!?!?」
そう思った時には、腹部に鈍い衝撃が突き抜けていた。
防御も回避も、受け身すらもさせてもらえずに。
ザハは地面を転がされ、剣を突き立てることでなんとか動きを止めた。
「A級遺物『白銀花』。対象の動きを鈍化させ、凝固させる力を有しています」
ひらりと舞ったのは、純白の花弁だった。
どこか椿の花に似たその花は、ひとつふたつと、カルテラの周囲に広がっていく。
「そして、A級遺物『落情の月』。円形に見立てた範囲を、自らの制御下に置く力」
左手の近くに浮いているのは、オレンジの果実程度の小さな物体。
だがその光は、ちょうどザハに届く程度の範囲にまで広がっている。
「最後に、S級遺物『揺らぎ雪』。所有者の魔力と共鳴し、出力を高めることができます」
ヒュルルと、小さく風が鳴いた。
腹部への痛みをこらえながらなんとか顔を上げると、カルテラの周囲が不規則に白く光る。
その正体は極めて小さな雪の結晶なのだが、近距離であっても肉眼では見えないほどに小さく。
微かに繰り返す音だけが、それがあると推測できる証拠だった。
(…………つえぇ)
恐らく反応が遅れたのは、『白銀花』の影響によるのだろう。
だが、それでも攻撃の瞬間は全く見ることができず、そもそも遺物を使っていることにすら気づけていなかった。
本人はきっと隠そうなんて全く考えていないはずだ。
でなければ、わざわざ情報を開示し、教えてやる必要はない。
「…………やっぱ、凄いっすね、カルテラさんは」
遺物を武器に使うザハだから分かる。
武器として扱う場合の遺物は、他の武具と比べても圧倒的に難しい。
その難度は、一つの人生を全て費やして、一つの遺物をやっと扱えるかもしれないレベルだ。
それを、全くの同時に三つ。
いとも簡単だと言わんばかりに、カルテラはやってみせている。
カルテラが七つのギルドからS級の称号を受けた、最大の要因。
それは遺物に対する、異次元とも言える理解力の高さにあった。
「では、休憩はこれくらいにしましょうか。いい加減、待っているのも飽きてしまいましたので」
ザハの息が整うギリギリで、カルテラが両手を叩いた。
それを合図にして、ザハは剣の先をカルテラに向ける。
「加減、なんて要らないですよね?」
「できる技量が、あるのでしたら」
二人は小さく笑みを交わすと、ほぼ同時に攻撃を仕掛けた。
「……………………とまぁ、こんなことがあってな。結果は惨敗だったんだが」
時間は戻り。
ザハは街を歩きながら、その時のことをスーに語っていた。
「カルテラさん、本当に一切の容赦もしない人でな。俺なんか何度か死にかけたもんだが、あの人はそれでも攻撃の手を緩めないんだよ。いやホント、怒らせたらダメな人だなって思ったな」
「ざは、よわい?」
「おうよ。俺なんかへなちょこだへなちょこ」
豪快に笑うザハを見て、スーは少しだけ顔を俯かせた。
「でもま、そのおかげで今の俺があるんだ。感謝してもしきれない」
「だから、しなない?」
「そう、かもな。よほどのことがない限り、俺は死なないと思うぜ」
結局あの後、ラフェールが悪酔いして隊員に無茶ぶりをするという地獄が知らぬ間に形成されており。
訓練の後で戻った後、カルテラと絶句することになったのだが。
(…………この話はまだスーには早いな)
思い出すだけでも顔色が悪くなる記憶を、ザハは静かに蓋をして奥の方に押し込むのだった




