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「上出来だ」
ラフェールは四人の働きを、確かな面立ちでそう評価した。
と、静かにそこで終わればよかったのだが。
「おいヴァ―イ!テメぇまたオレの鎖消し飛ばしやがったな!?」
生憎と、そうなるわけもなく。
「あれ結構気に入ってたし、なによりスゲー高かったんだぞ!」
「…………成金風情が」
「はぁ!?違うわオレのは拘りを持って道具を選んでんの!テメぇみたいに投げ売りされてる道具で全部済ませるほどガサツじゃねぇんだわ!!」
ヴァ―イの放った『黒穿』は、通過した箇所を文字通り消し飛ばしてしまう性質を持つ。
そのため、『ツガイガシラ』を拘束していたテグラの鎖ごと亜空間へと消えたのだ。
「道具の質程度で振り回されるほど不器用ではないからな」
「言うじゃねぇか?そこに直れよ亀甲縛りにして天井にぶら下げてやろうか」
「悪かった。これで十分か?」
「目が蔑んでんだよバカヴァ―イ。テメぇは人に謝ることもできねぇのか?」
ゴン!ゴン!と、テグラとヴァ―イは互いの額をぶつけ合いながら睨み合う。
「ウゥゥゥゥゥゥゥゥ」
「シルラちゃん!部分変化にしなってあれだけ言ったでしょ!どうして全変化しちゃうの!」
その横では、未だに人の姿に戻れずに苦悶の表情を浮かべるシルラの背中を、サオリが何度も擦っていた。
シルラの扱う獣化魔術は、本来は体の一部分のみを変化させるのが通例で、全身を変化させることは決してしない。
それは人に戻るという作業の難しさ以上に、思考までもが変化させた獣に近い性質に侵食される恐れがあるからだ。
事実、シルラはまだ幼く、自身の扱う魔術に体が全く追いついていない。
それでも本人の強い希望で冒険者になったが、魔術に振り回されている状態だ。
「ゥゥ、ゥゥゥゥゥ…………」
「そうそう。ゆっくりで平気だからね。落ち着いて、深呼吸するのよ」
更に言えば、シルラの体は光属性の魔力で覆われるという、本来の生物学的にはありえない変化をもたらす。
そのため、僅かな動作一つが光の速さで行使されてしまい、元の体が耐えきれないという事態も何度か起きていた。
サオリがなんとか宥めることで人の姿に戻っているが、少しでも手順を間違えると横で取っ組み合いを始めたヴァ―イとテグラごと木っ端微塵になる恐れがあるのだ。
「相変わらず、ですね」
「あれさえなければ、とっくに上の階級に上げてんだがなぁ」
愉快そうに笑みを浮かべるカルテラに対し、ラフェールは呆れた様子で息を吐いた。
二人が見ている人物は、サオリだった。
一見すればサオリの言動に不備はないように見えるが、問題なのは彼女は極度の世話焼きであること。
ああやって誰かの世話を焼いた途端に、あらゆる考慮を全て脳内から消してしまい、目の前にいる人物にしか意識が向かなくなる。
過集中、とも言える現象だが、サオリにその自覚が全くないのが更に厄介さに拍車をかけており。
自前の武器を取り出し始めたヴァ―イとテグラの喧嘩に、サオリは気づく気配すらない。
「おいババァ!」
ふと、ザハの怒号がラフェールの耳に届く。
何事かと視線を向けたラフェールは、その光景に思わず口を開けていた。
「……………………マジか」
「なるほど。道理で畜生以下の醜い声がしているわけですね」
そこにいたのは、百体を超える『ツガイガシラ』の群れだった。
彼らは『フェンリル』の本隊を挟む形で左右に一列で並び、その瞳には明確な敵意が満ちている。
「ザハ!説明しな!」
「俺だって分かんねぇよ!オルグルと岩陰で待機してたら、いきなりコイツらが出てきやがった!」
ザハの動揺を見て、ラフェールは静かに舌打ちをする。
恐らくだが、あの『ツガイガシラ』は一定時間での討伐、もしくは一定量のダメージを与えると、周囲に同類を召喚するという性質を備えているらしい。
これまでラフェールはなるべく時間をかけ、楽しみながら『ツガイガシラ』を退治してきた故に、彼らが増殖するという事実を見落としていたのだ。
「キツバ!」
「少し前に、外されました。ザハが来る、少し前です」
下唇を嚙み報告するキツバの調子に悪い点はない。
となれば、恐らく『ツガイガシラ』が出てきた時点でダンジョン側が状況をリセットしたと考えるのが妥当だろう。
(聞いたこともないが、なくはない話だ。ったくホントに、ここを造った鍛冶師はよほど性格が悪いらしい!)
ゴキリ!と指の関節を鳴らすと、隣に立つカルテラにこう尋ねる。
「どうする?」
「悩む理由がありますか?」
ニコリと微笑むカルテラの顔を見て、ラフェールはゆるりと。
笑みを浮かべた。
「「「「ッ!?」」」」」
本隊から少し離れた位置にいたヴァ―イ、テグラ、サオリ、シルラは、ほぼ同時にその方向を見る。
歪む。
禍々しいという言葉では足りない何かが、文字通り空間そのものを大きく捻じ曲げた。
「…………停戦にするか」
「…………異論はない」
そこで置かれた状況に気付いたのか、テグラとヴァ―イが武器を構える。
シルラが少しだけ平静を取り戻したのを確認すると、サオリもまた自身の頬を叩いた。
「『万象、展開』」
不意に聞こえた声の直後、本隊の左手にいた『ツガイガシラ』の群れが爆発する。
まるで地雷でも踏みつけたかのような爆発は、やや過剰な回数繰り返され、花火のように静かに止まった。
「待てども待てども来る気配はなく、仕方なく戻ってみれば。貴殿らは一体何をしているのだ?」
四人の背後にいたのは、ローブを纏った一人の老人だった。
心底呆れた様子のその老人は、蓄えた立派な髭を撫でると、奥に見える本隊に視線を向ける。
「…………そういうことか」
「アデルの爺さんじゃねぇか。今までどこほっつき歩いてたんだよ?」
アデルナハト。
現在の八傑の一人であり、『無限卿』と言われるほどの魔力と知識を備えた賢人の一人。
形式的には『フェンリル』に属しているが、常に行動を共にしているわけではなく。
今回の探索においては、主に地上と地下を繋ぐ転送魔術の陣地作成の為に同行していた。
「むしろ文句を言いたい側なのだが、まぁついでだ。彼も回収しておいた」
「いやぁ、ザハ君に放置されたときは、あぁいよいよこの才気あふれる天才の最後だと思ったが、オルグ──────」
「黙れ」
「うぼぁ!?」
変わらずよく回るオルグルの口を物理的に遮断すると、サオリはアデルナハトにこう告げる。
「すみませんでした。こちらとしても、想定以上に時間を有してしまい…………」
「気にするな。荷の量を見れば、おおよそ検討はつく」
「…………?」
どこかくだらなそうに息を吐いたアデルナハトは、そのまま自身の持つ杖を構えた。
「さて、どうやら彼女は掃討するつもりらしい。そこの男を使いつつ、魔獣どもをこちらに引きつけるべきだな」
「隊長もガチで戦るっぽいし、こりゃまた楽しくなってきたんじゃねぇの」
「足だけは引っ張るなよ、テグラ」
半数に減らされた『ツガイガシラ』の群れに反撃の余地はなく。
獲物を喰らうかのごとく、一方的な蹂躙で幕を下ろすのだった。




