表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/39

10

 結局、スーの採寸中、ザハは店の外で待機することになった。


「なんだったんだ、一体…………」


 これならキツバでも問題ないし、なにより自分が残っている理由にもならない。

 ましてこの後行われるであろう服を選ぶ、というイベントは、どう考えてもザハには向いていない物事だと自覚していた。


(なんつーか、妙に気が強いとこあるよなアイツ。頑なっていうか、意固地っていうか)


 目が覚めてすぐに食べ物を要求してきたり、かと思えばどうして助けたのか聞いてきたり。

 反応はそれこそ年相応のものだが、時折見せる強情さのせいかイマイチ掴みどころを感じられなかった。


「…………まぁ、なんでもいいんだけどよ」


 ザハにとっては、人助けは日課であり習慣である。

 かつて色んな人にきつく言いつけられたが、それでもやはり直す気にはなれなかった。


(…………呪い、みてぇなもんだな)


 ザハは元々、孤児としてこの街に住み着いていた。

 子供が一人で生計を立てる手段なんてそれこそ限りがあったし、冒険者になるのはギルドが基本的に認めてくれない。


 正攻法で生活を維持できないのなら、残された手段は多くはなく。

 ザハもまた、その例に漏れずにスリを繰り返すことで幼少期を過ごしていた。


(今こそ綺麗になったが、昔はそこらへんでもガキがいたからなぁ。思えば随分とまともになったぜ)


 当時の街には孤児が溢れかえっていて、治安は悪化の一途を辿っていた。

 だからか、ザハがスリを繰り返す程度では、ギルドが取り締まることもあまりなく。

 捕まったのは、百を超えるスリを成功させた頃だった。


(相手が悪かった)


 今のザハはそう振り返る。

 ザハを捕まえたのは、ラフェール。

 よりにもよってザハは、ここ『明星の狼』の中でも指折りの冒険者の財産を盗もうとしたのだ。


「…………今思い返しても、よく俺のこと殺さなかったなぁ」


 ぞわりと走る悪寒に震えながら、ザハは思わずそう呟いた。

 当時のラフェールはまさに全盛期を迎えており、放つオーラは人間の出せる量を遥かに超えていた。

 

 慣れのせいで慢心していた、というものあるだろう。

 一目見ただけで分かる風格に、ザハは大金を得るチャンスだと勘違いしてしまったのだ。


 結果、その場で捕まり、『闇夜の牛』に引き渡さないことを条件にチームに加入。

 それから数年がたった今もまだ、ラフェールはザハを見限らないでいた。


「ザハ君、準備できたから入って頂戴!」

「もう終わったのか」


 店の中からナンナに声をかけられ、ザハは憂慮していた事態を思い出し顔を顰めた。

 服の良し悪しなんて分からない上に、そもそも名称の違いすらもよく分かっていない。

 お洒落、に興味のあるキツバなら、多少なりはいいことが言えるだろう。


 そんなことを考えながら店内に入ると。


「……………………猫?」

「そう!ザハ君分かってるじゃない!!」


 スーが来ていたのは、猫をモチーフにしたポンチョだった。

 耳と目が装飾された大きめのフードは顔をすっぽりと覆い、中から感情の読めない眼でこちらを見ている。

 地面に触れるほどに長い髪は尻尾のように服から出ており、歩くと左右に揺れていた。


「やっぱり私の見立て通り!スーちゃん美人だからなんでも似合うわね!」

「…………ありがとう」

「いいのいいの!おばさんも色々試せて楽しかったわ!」


 どうやら採寸と服選びの段階でそれなりに仲を深めたらしく、スーは小さく笑みを浮かべていた。


 それ自体はいいのだが、やはりザハには突っ込まないといけないことがあった。


「なぁ、ナンナさん」

「どうしたんだい?」

「ここ、一応『明星の狼』で、こいつは俺のチームに入るんだけどさ」

「こんな可愛い子も連れて行くのかい!?」

「いや、まぁ、そこは追い追い決めるんだけどよ」


 どこか言いづらそうにしながらも、ザハは意を決して本題に触れる。


「狼って、一応犬の仲間なんだよ。それなのに、猫ってのはどうなんだ?」


 ギルドの紋章にも使われているが、『明星の狼』のモチーフは狼である。

 確かに似合うことには似合うが、敵対している別ギルドのモチーフである猫を使うのは少しだけ抵抗があった。


 するとスーは、ひらりとその場で回ってみせた。


「どう?」

「どうってまぁ、似合うことには似合ってるぜ。元がいいから多分なんでも似合うんじゃねぇの」

「やった」

「なんでガッツポーズをするんだよ…………」


 両手で小さく拳を掲げると、スーはこう告げた。


「これがいい」

「だってさ」


 ナンナにそう言われ、ザハはどこか面倒そうに頭を掻いた。


「んじゃ、まぁ、いいや。どうせ一着で済ませるわけにもいかないしな」

「そういうザハ君だって、いっつも同じ服ばかり着てるじゃないの」

「俺のは複数着持ってるだけ。どうせこれ一着しかねぇんだろ?だったら他の種類もいるんじゃねぇかって話だ」

「…………いいの?」


 またしても真っすぐザハを見つめるスーに、はっきりとこう言う。


「一着も二着も変わんねぇし、後でなくて困るのも勘弁してほしいからな。他にも試着したのあるんだろ?」

「もちろんさ!アヒル、ヤギ、ウサギ、イヌ、カエルにハリネズミ!」

「…………犬があるのは触れないでおくとして、ハリネズミはどうなんだ?棘だらけじゃねぇか」


 ザハがそう突っ込むと、ギラリとナンナの眼光が光る。

 瞬間、しまったと本能的に悟った。


「そういうことなら仕方ないね!このナンナ様の至高の作品達を見せてあげようじゃないか!」

「え、いや、別にもう二着くらいあれば間に合うんだが…………」

「スーちゃん!あのザハとかいう唐変木をぎゃふんと言わせるよ!」

「おー」


 袖をたくし上げたナンナの後を追うように、スーが再度店の奥へと吸い込まれていく。

 残されたザハは、がらんとした店内で一人、立ち尽くすしかないのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき有難うございます
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです

本編はこちらです。こちらも覗いて頂けると幸いです
異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!? 
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ