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リオンとアメリア(仮)  作者: 絶対守護天使ちゃん
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第1話 告白RTA

 「リオン・ミルテイン、私と結婚しなさい!」


 大胆な告白は女の子の特権——と、どこのだれかが口にしていたのを聞いたことがある。その時は、何のことだと鼻で笑った。


 だが、今それを俺は体験していた。


 俺の首にかするように突き立てられているのはよく磨かれた鉄製の剣、それを突き立てているのはこの地区を収めている領地の娘、アメリア・ルミアート。木にもたれるように座っている俺を透き通った碧眼で見下していた。


  ■■■


 俺がアメリアと出会ったのは良く晴れた、初夏の事だった。


 日が高くなり気温が上がってきたことで、最近は冷たい井戸水が美味しく感じるようになった。これから作物を植える時期が始まる。俺の周りの畑では子供も駆り出されて急がいそうに働きまわっていた。


 そんな中、俺は小屋の近くにある木の陰に隠れて、農作業をさぼっていた。少ししたら、戻ろうと思いながらも、心地よい風にまどろみを感じる。次第に重くなっていく瞼に意志の弱い抵抗は簡単に破られ、視界が狭まっていく。そんな、狭まっていく視界の中に人影が映った。


 最初は母さんだと思っていた。どうせ、俺が作業を手伝わずにさぼっているのに気が付き叱りに来たのだと。しかし、人影は一つではなかった。母さんらしき影の後ろに、もう一人女性らしきシルエットが映りこんでいた。


 不思議に思いつつも、俺は——せめて5分だけでも寝かせてくれと願った。


 そんな願いは届かなかったらしく、声より先に、後ろの木の幹に剣が突き刺さった。剣は俺の首すれすれのところに刺さっている。唐突なことに驚き、目を見開く。もう眠気なんてどっかに飛んで行った。


 そして彼女は言い放った。


「私と結婚しなさい!」


 何事かと思ったが、そこから俺が口を出す暇もなく事が進んでいった。気付いた時には家の前で家族と別れの挨拶をしていた。


「あんた、こんないいお嫁さんがいたのね」


 日頃から、俺に女っ気がないと言い続けていた母さんには涙を流しての見送りだ。


「母さん、それは俺も知らなかったよ」


 次に父さんの方に目を向ける。こんなことになっているが俺はまだ快適な実家暮らしを手放したくない。


「リオン、あっちに行ってもちゃんと働くんだぞ」


「父さん!俺が居ないと畑大変じゃない?大変なら残るよ!」


「そんなことはない、第一お前はさぼってばかりじゃなかったか」


「あ、うん」


 父さんなら仕事手が減るのは嫌そうだから、引き留めてくれえるかもと考えたが、そもそも俺は仕事手にカウントすらされてなかったらしい。


 藁に縋る思いで、兄弟たちに目を向ける。兄がいなくなるなんて寂しいだろうから——


「早く行けよ兄貴、お嫁さんを待たせるなんて男の恥だぜ!」


「レオン?」


「お兄ちゃん、私はあっちに行っても私は忘れないよ」


「ローナ?」


 なんて、家族だ。俺がいなくなっても寂しくないのか?そんなこと言ってると、泣くことになるぞ!俺が!


「じ、じいちゃん」


 最後にじいちゃんなら、俺を溺愛してくれているじいちゃんなら——、


「飯はまだかの?」


「じいちゃん、さっきお昼は食べたよ……」


「そうだったか?」


 もう、この家族には俺を引き留めてくれる人なんていないんだ。天を仰げばまだ涙を抑えられた。


「最後の別れは終わった?早く乗りなさい、出るわよ」


 家の前に停まっている、二頭付きの馬車からアメリアが顔を出す。その中に俺は家族によって押し込まれた。扉が閉まった馬車は動き出し、遠ざかっていく家にはもう誰も立っていなかった。


「大丈夫?ハンカチ貸すわよ?」


「あ、どうも」


「あんなに熱い家族愛があるなんて、私も感動しちゃったわ」


 巨悪の根源がほろりと涙を流す。彼女にはあれのどこに家族愛なんて見たのだろうか。


「でも、気持ちを切り替えなさい、これからは私の夫になるのだから」


「え?何で、俺なんですか?」


 一応、お偉いさまなので敬語を使おうとするが、久しぶりすぎてぎこちない解答になってしまった。少しづつ慣らしていこう。


「そうよね、まだ詳しい説明もしていなかったわね」


 アメリアはもう一度姿勢を正す。


 ようやくアメリアをしっかりと見ることができた。アメリアは噂通りの人物だった。さらりと腰まで伸びた絹のような銀髪に、少し幼さが残るが彫刻かのように整った顔をしている。身長と胸は、まあ敬意を示して平均的と言っておこう。それでも、総合すると圧倒的美人だ。


 それに、一つ一つの細かい動作で、狭い馬車のなかでも育ってきた環境の品の高さが分かった。


「3年前に私のお父様……いえ、ここの地区主アルバート・ルミアートが亡くなったのは知ってるわね」


「もちろん、一大ニュースだったので」


「そう、それでね。次の地区主なんだけど。ほんとなら、嫡男が引き継ぐのがしきたりなのね」


 貴族はどこも世襲型だ。でも確か、亡くなった地区主は男児がいなかったはず。

 

「でも、うちの子供は女だけだった。なので、三年間の準備期間を経て、他の家の男性がここの地区主に変わることになった」


 この世界では当たり前の話で、家を継ぐのは男、これは絶対覆らない決まりだ。


「でも、私はお父様の好きだった場所を誰かに渡したくない」


「それが俺とどう関係してくるのでしょうか?」


「ここからが本題ね」


 少し体を俺の方に近づけた。あまり、大声で話せるような内容ではないらしい。


「たしかに男性が継ぐのが決まりなんだけど、一つだけ私たちが継ぐ方法があるの」


「誰か適当に婿入りさればいいってなったんですね」


「そう!さすがこの地区一の秀才と呼ばれただけあるわね。婿養子さえ作っちゃえば継ぐのに問題はないって考えたわけ」


 別に頭が良くなくとも気づけることだとは思う。が、褒められるのは嫌いではない。


「でも、俺は一般農家の長男坊なんですけど——不釣り合い過ぎません?」


 ふと、気になったことを尋ねた。貴族は階級にもうるさいイメージがあるが。


「あら、私はそんなこと気にしないわよ。私の母だって貴族じゃないもの」


「そうなんですか」


「あ、でも、私以外は気にするでしょうね。もしかしたら、殺されちゃうかも?」


 何が面白いのか分からないが、アメリアは喋っていた時、明らかに口元が笑ってた。これが貴族ってやつなのか?


「あのー、死にたくないので、帰ります!」


 扉に手をかけて、飛び出す勢いで立ち上がった。普段、馬車というものに乗らない農民は勢いよく頭を天井にぶつけた。


「今飛び降りると、死んじゃうわよ」


 馬車の扉を閉めて、俺はおとなしく席に座る。

 ぶつけたところに手を当ててへこんでないかを確かめる。よし、多分大丈夫だ。


とりあえず、馬車からの脱出はあきらめることにしよう。


「最後にあなたにとって重要な話を忘れてたわ」


「何です?」


「あなた、うちの奨学金で学校通っていたよね」


 たしかに、奨学金の試験に受かったのでありがたく受け取った。


「奨学金ってものは、返さなきゃいけないものだって知ってるよね」


「それは、まあ」


「そこで、私と結婚するなら奨学金をチャラにしてあげる」


「断ったら?」


「貴族との契約を断った一般市民にその後があるのかしら」


 すーっと背中に嫌な汗が流れた。


 そもそも、俺の家族があんなにも俺の婚姻を押しているのは奨学金のことをちらつかされたからだろう。奨学金は決して小さな額のものではない。それを払うのと、働かないやつがいなくなるなら——自分で考えて悲しくなってきた。俺って、不憫。


「それで、どうするの?私と結婚するの?しないの?」


 ほらまた、貴族なんていつもこうだ。一般人なんて自分たちには絶対服従って思っている。それが嫌いだから、俺は仕事を辞めて実家で暮らしてた、もう関わらないと決めて。

 まさか、こんな形でまた関わることになるとは。ため息が漏れた。 


 くよくよしていても仕方ない、どうやら俺の運命は変えられないらしい。


「分かりました」


「こちらこそ不束者だけどよろしくね、旦那様」


 そう、まさしくこの笑顔だ。自分がやりたいことをできたときの、ご満悦な、屈服のない笑顔。並み大抵の人間ならば一目すればノックアウト。まさに、今の俺のように。


 この時、気付いておくべきだった、いつも、面倒なことが起きる前にはこの笑顔がある。俺はまだ知らない。


なろうの投稿は初めてですが、楽しんでもらえたら嬉しいです。

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